「持つか持たないか」から、「2人か3人か」へ
そこで一時期は「女性の早期育成」が流行りました。女性活用のコンサル会社が推奨したのは「今まで10年だった育成期間を女性に限って5年ぐらいに短縮し、産む前に育成する」という戦略です。
しかしこれも「産み時」を仕事に無理矢理合わせるという意味では、変わりがありません。例えばとても優秀な女性がいたとしても、25歳で出産したら、育成途上ということで、もうその育成コースから外されてしまう。そんなにもったいないことはありません。
だいたい私が見ていても、優秀な、仕事をやる気がある女性ほど、学生時代から結婚を考えるような彼氏がいて、「早く結婚して早く出産して、仕事もがんばりたい」という意欲があるのです。25歳で出産したら、育成コースから外されてしまうような会社には、優秀な女性はいかないでしょう。
今の女子大生からは「子どもが3人欲しいんです。どういう企業に就職すればいいでしょうか?」という質問を受けます。彼女たちも真剣に企業を選んでいます。
日本のキャリア女性の「子供を持つか持たないか」ではなく「1人持つか、2人持つか」という時代に来ています。今後の世代は「2人か3人か」になるかもしれません。
子供が2人、3人となると、少なくとも10年間は「長時間労働」ができない人材を企業が抱えるということです。もし男性が早く家に帰れるようになり、半々育児を受け持つようになれば、週の半分は女性も残業できるようになります。それでは「子育てする人が不利で、子育てしない人が有利」という状況に変わりはありません。
長時間労働、場所や時間が限定された仕事、年齢と仕事が連動する硬直的な人事管理……そんな昭和的な労働環境に頼らず、人材を育成し、活性化していく仕組みが必要です。そこで登場するのが「働き方改革」「ワークライフバランス戦略」です。
先日の国際女性ビジネス会議で佐々木かをりさんが「今まで女性には脇道が用意され、そこに追いやられてきた。しかし今は本道がより歩みやすいように整備される時代になってきた」と感動的なスピーチをしていました。20年間国際女性ビジネス会議を運営してきたリーダーならではの発言だと思います。
政府の女性活躍推進のかけ声もあり、ダイバーシティというグローバルな要請もあり、また人材獲得競争や労働力不足という事情もあり、今後注目されるのが本道の整備「働き方改革」です。残業代を抑制し、「生産性の良い働き方」を実現する、それがイノベーションに貢献するという企業の思惑もあります。
本道の整備ですから、当然この改革の中には男性の働き方も含まれます。ついに参加者の変化がルールの変化を促す時代になったわけです。
なぜルール変更が必要なのか?
「女性に優しい企業」は子育て期の女性だけが「早く帰る制度」「在宅勤務ができる制度」などを利用し、周りはあいかわらず長時間労働をし、有給も取得せず働いていました。このような環境では、当然、子育て中の女性とそうでない人の対立が起きます。この対立を放っておいては、3割を超える女性総合職が子育て期を迎える時代には対応できません。構成比が3割を超えると変革が起きると言われています。多くの女性が正社員総合職として職場に参入することが、変化をうながしたのです。
男性も「子育て期は子どもともっと接したい」「妻が働いてくれないと経済的に辛い」「妻の仕事を応援したい」と、声を出して言う人たちが出てきました。この不安定な時代、自分1人だけで一家を養うのはきついという事情もあります。「ダイバーシティ経営の推進に関する調査研究」(企業活力研究所)では、正社員共働き夫婦の男性(末子が小学校入学前)を調査しまた。
その結果、家事育児を行うことを、結婚当初は7割、その後では8割の男性が「可能な限り行う」としています。男性だって「仕事が一番大切な人生」に疑問を持っている人がいて当たり前です。
日本の職場は「WLBの満足度」がイギリス、ドイツなどEUに比べて低くでています。
社員のモチベーション維持、健康、子育て環境、介護、さまざまな観点からも、企業のワークライフバランス戦略が重要という視点も経営者に共有されるようになりました。
「重要なのは、どのような人材戦略をとるかということです。人事管理の本来的な目的は従業員の生産性を高める働き方をどう構築するのが適切か、ということであり、WLB施策はそのための手段です。つまり、多様性に富んだ社員の、さまざまな能力を引き出すための手段がWLB施策なのです。」(働く人のワーク・ライフ・バランスを実現するための企業・職場の課題 武石 惠美子 経済産業研究所)
経営者には経営者の思惑があり、個人には個人の思惑があり、今さまざまな観点からの「働き方改革」がすすみつつあります。
リクルートが発表した「在宅勤務」や、りそな銀行の「残業なし正社員」、ユニクロの「週休3日社員」なども含め、企業もさまざまな道を模索しています。
ルールが変わる時代が来たのだと最近のニュースを見て実感できます。
企業は動き出した。そして制度はできていきます。しかし、それを生かすのは風土、文化です。文化を変えるにはどうすればいいのか? よく聞かれることです。その鍵はやはり女性だと思います。
企業では「滅私奉公」を求められ、家庭では「良妻賢母」が求められすぎました。どちらにも「私」がない。これからの女性たちには、道を切り開いてきた先輩たちへのリスペクトを忘れず、「私」を取り戻してほしい。それが文化を変える早道ではないでしょうか。
少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊『格付けしあう女たち 「女子カースト」の実態』(ポプラ新書)。