どんな仕事人生を歩むのか、女性にはいろいろな選択肢があるだけに、悩みは深い。そんなときは、目の前のことだけではなく、遠くに視点をもっていきたいもの。生涯で考えたら、どの働き方が理想なのか。その判断材料になるお金のこと、そして“自分の軸”に沿ったキャリアの積み方について、考えてみましょう。(アドバイスしてくれる人:はぴきゃり代表取締役・金澤悦子さん、ファイナンシャルプランナー・大竹のり子さん)

子どもに寂しい思いをさせてまでフルタイムで働き続ける必要があるだろうか……。そんな疑問に、今回取材したお2人は口をそろえて答える。「できるだけ正社員でいてほしい。子育ても介護も一時的なものだから」

一時的に自分の収入がすべてベビーシッター代に消えたとしても、生涯を通して見れば、それをカバーして余りある収入を得ることができる。「お金だけでなく心が満たされることも大切」と説くのは金澤悦子さん。やりがいの点でも、責任のある仕事を任される正社員にはメリットがある。

実際に正社員で働いている女性の6割が正社員でい続けることを理想と考えている。それでも、夫の転勤などどうしようもないキャリア上の危機が、女性の人生には何度も押し寄せる。理想のキャリアがかなわなかったときに、どんな道があるだろう。併せて検証してみた。

[キャリアコース1]ずっと正社員

生涯年収(管理職コース):2億3243万円(うち退職金1588万円)年金:16.7万円/月
育休後、復帰して管理職に昇進し、65歳まで働いた場合。一般社員のまま定年を迎える場合でも、退職金を含めた生涯収入は1億7000万円に。

※正社員女性56.0%が「理想の働き方」と回答

●転職市場が熱い!

「都市部では20代後半~30代前半は売り手市場で、特に営業職は引っ張りだこ。不動産関係など、お客さまの対応という分野で女子力が求められています。“ドケジョ”という言葉が出てくるほど土木系の仕事も増えています」と金澤さん。女性向けの転職サイトも複数立ち上がり、「ビズリーチ・ウーマン」などは1年前と比べ、会員数が3.5倍に。管理職候補の人材は引く手あまたとか。

●ベビーシッター代は投資と思って

仕事を続けた場合と辞めた場合では生涯収入は雲泥の差。「キャリアは長期的な視点で考えましょう。仕事を続けるためのベビーシッター代や介護施設費用など目先の出費は投資と思っていいのでは」(大竹さん)。ベビーシッター代も介護施設の費用も、ずっと続くわけではない。一時的に家計がマイナスになっても、働き続けることで稼げるお金で十分カバーできるはず。

●管理職に向き・不向きはない!

「管理職に向き不向きはありません。女性のほうが目の前にいる部下の変化を見逃さなかったり、多様なメンバーをまとめるのが上手なことも。私は、『MBAよりPTA』と言っていますが、学歴も価値観もまるで違う人々をまとめるような貴重な経験を積んだ女性には、ぜひ管理職を目指してほしい。自分の仕事や時間をコントロールしやすくなるメリットもあります」(金澤さん)

●アーリーリタイアは?

重要なのは、アーリーリタイアをして何をしたいか。「世界を旅したい」などという人も多いが、実現できるのは相続で資産がある人など、一部に限られる。「退職時に3000万円あっても、それで5年しか暮らせない人と30年暮らせる人がいます。どう過ごすかでお金のかかり方は違ってくるので、まずは退職後に必要なお金を見積もって足りるかどうかを考えてから決断を」(大竹さん)

●退職金はいくらもらえるの?

勤続年数が長くなるにしたがって退職金も増えるが、支給額は企業ごとに退職金規定などで定められているため、同じ勤続年数でもかなり差がある。上のケースでは、日本経団連のデータを参考に試算。管理職になって退職する場合は、月収40万円×39.7カ月=1588万円。ずっと一般社員で定年を迎える場合で、月収22万円×39.7カ月=873万円。いずれも勤続年数は35年。

キャリアを積むコツ

長く働き続けるために大切なのは“20代の過ごし方”と金澤悦子さんは言葉に力をこめる。これは、すべてのキャリアに言えること。

【写真左】はぴきゃり代表取締役 金澤悦子さん【写真右】ファイナンシャルプランナー 大竹のり子さん

「たとえ補助的な仕事でも、目の前の仕事で結果を出すということ。これだけは人に負けないというものを20代のうちに1つか2つつくっておけば、社内での昇進はもちろん、転職する際にもアピールになります」(金澤さん)

しかし出産や育児は言うまでもなく、夫の転勤や親の介護など思いもかけない危機が女のキャリアには訪れる。“ずっと正社員”が理想でも、かなわないこともあるが、できるだけ正社員でいる努力はしてほしいと金澤さん。

「正社員で社会保険に加入していれば、出産や育児、介護で使える制度がたくさんあります。こうした制度を駆使すれば、その期間は細々とでも仕事が続けられますから、正社員はメリットが大きい。トンネルは絶対に抜けるときがくるので、制度を使ってなるべく辞めない方法をとってほしいですね」

マネー管理&投資のコツ

「いま共働きで稼げているからといって、それがずっと継続できるとは思わないこと。正社員のマネー管理は“守りつつ攻める”のがポイント」と話すのは大竹のり子さん。“守り”については女の危機に備えて、どちらか1人の収入がなくなってもやっていける生活スタイルを意識してほしいと話す。

「固定費はとにかく上げない努力をしておく。仕事を辞めたからといって住宅ローン月20万円を10万円に減らせるものではありません。下げられないなら、まとめて繰り上げ返済できるような貯蓄をしておくなどの工夫を」

子育てをしながら働くなら住む場所も重要。家賃が高くても都心にある職場に近いからこそ生活が回るということも。お金だけでなく総合的に考えたい。では“攻め”については?

「企業に確定拠出年金があれば、個人では投資信託の積み立てや貯蓄型の保険などがよいでしょう。老後の生活やアーリーリタイアを意識するなら不動産投資もおすすめです」(大竹さん)

はぴきゃり代表取締役 金澤悦子
東京都出身。1991年、リクルート入社。営業に従事し、新人MVP賞を受賞。広告営業局局次長、広報室室長を歴任するも、仕事との距離感がつかめず心と体を痛めてしまう。これをきっかけに、「幸せに働くってどういうこと?」という問いへの答えを求め、2001年、総合職女性のためのキャリア転職マガジン「ワーキングウーマンタイプ(現ウーマンタイプ)」を創刊、編集長に就任。05年独立。
ファイナンシャルプランナー 大竹のり子
1975年生まれ。編集者を経て独立。だれもが気軽に利用できる女性による、女性のためのマネー相談サービスを実現したいとの思いから、2005年、エフピーウーマンを設立、代表取締役に就任。経営の傍ら、講演や執筆、TV出演など、幅広く活躍している。『マネーセンスを磨けば、夢は必ずかなう!』(東洋経済新報社)などお金の分野での著書は40冊以上。