大卒女子初めての工場配属

販売店とは打って変わって、工員がキビキビした動きでクルマを組み立てる製造現場にも、中間管理職として活躍を期待される女性がいる。生産企画統括本部の曽根美穂氏だ。今年から日産とルノーのアライアンス強化に沿って、グローバル共通の人材育成プロジェクトに携わっている。

生産企画統括本部 APW推進部 APW推進グループ主担 曽根美穂さん
2012年、販売店の営業改善を提案するチームのマネジャーに就任したときは、部下24人全員が男性、うち23人は50代のベテランだった。経験豊富なメンバーの意見まとめが勉強になった。

「世界のどの工場で車をつくっても品質が安定していなければいけません。そのためのベースとなる技能や知識をそろえておく必要があるのです」(曽根氏)

工業大学で経営工学や人間工学を学んだ曽根氏は91年入社。座間工場の生産課に配属され、塗装の生産性向上を任される。座間工場が大卒女子を受け入れるのは初めて。曽根氏のほか3人の大卒女子が工場勤務になった。今、残るのは曽根氏だけだ。

「専攻とのマッチングもあったと思います。生産関連の学科を出たのは私だけで、英文科卒業の人もいました」

専攻が活かせた点が働き続けられた大きな理由だが、年配の男性が多い現場では驚くことだらけだった。

「『そこ歩くんじゃない』といきなり怒鳴られることもあれば、これを変えてみましょうかと提案しても『まあ、そうだね』と受け流されることも」

いずれも学生時代には経験したことがなかった。曽根氏は丁寧なコミュニケーションを心がけた。相手は何が気になっているのか、どうしてその行動をとるのが嫌なのかに耳を傾けながら、お互いの理解を進めていく。すると提案が認めてもらえるようになる。

「提案をみんなが実行に移してくれるのがうれしかったですね。私1人だけが成果を挙げてもつまらない。チームとして会社に貢献できたとき、仕事の喜びを感じます」

役員サポートで視野を広く

曽根氏が職歴の中で「毛色が違った」と言うのが、07年から5年間勤めた生産管理部企画グループ時代。役員を技術面からサポートし、会議やイベントで役員が使う資料を用意したり、関係者との調整を行った。

「畑違いの仕事でしたが、役員のそばにいて経営的な視点に接することができ、大変勉強になりました」

自分の専門に閉じこもらず、広い視野、高い視点を得られる異動は女性管理職を育てるうえで重要だろう。

それに大きな役割を果たすのが、女性だけが対象の「キャリア開発会議」という日産自動車独自の人事制度だ。

これは本人のいないところで、上司の課長、部長、人事、ダイバーシティデベロップメントオフィスに属するキャリアアドバイザーの4者が集まり、対象となる女性社員の「今後3年間の育成をどうするか」を話し合う会議だ。その人の強みや弱みを考慮し、アサイン、チャレンジを決める。6月と10月の2回、30分ほど意見を交わし、異動や出向、研修を考える。会議は女性の成長を支え、活躍の場を広げる。