■編集部より指令

今回は、企業の「働かないオジサン問題」に取り組みたく思います。

ワーキングマザーからは、「私たちがお荷物と呼ばれたり、権利主張型ローパフォーマーなどと言われたりするけれど、働かないオジサンのほうがよっぽど生産性が低いのでは」といった声も聞かれます。

ここ最近、ますます増えたという「働かないオジサン」。人手不足が叫ばれる中、企業になぜ存在し続けるのでしょうか。

■大宮冬洋さんの回答

有害な「オジサン社員」と無害な「オジサン社員」の違い -男社会のトリセツIII・男の言い分
http://president.jp/articles/-/12684

■佐藤留美さんの回答

オジサンはグレている

働かないオジサンは、一言でいうと、グレているのだと思います。

オジサンの本音は、こんな具合なのではないでしょうか。

「自分は、若い時分、いやもしかするとここ最近までは、会社のため、組織のため、はたまたお客さんのため、家族のために一心不乱とまでは言わずともそれなりに頑張ってきた。

ところが、会社はそれを評価してくれなかった。

だから、こんな閑職に追いやられ、働かないというより、働かせてもらえない。

かといって、この年では転職も無理だろう。だったら、定年までガッチリ居座ってやれ。子どもの学費もまだかかるしな。今、辞めちゃ年金も減るからな」

つまり、働かないで会社に居座ることが、ある種の会社へのマイルドな復讐になっているのではないでしょうか。

私は各企業の人事の方、複数名から、そんな「働かないオジサン」はここ最近、ますます増えたと聞きます。

それも、そのはず。

2000年前後から、日本の会社は成果主義、実力主義を導入。同期と差を付けず、みんな、一斉に「せーの」で出世させてきた企業も、実力や業績により、昇進に差を付けるようになりました。

ますます増える働かないオジサン

加えて、ここ最近はグローバル化を急ぎ、海外現地法人と等級(グレード)を揃えるために、不要なポストを撤廃するなどの動きが見られます。

すると、その以前は当たり前のように存在した、「部付部長」だとか「担当部長」といった、ラインには属さない部下ナシ管理職の数が激減。

ヒラ同然の処遇に落とされた男性社員たちは、たちまちやる気を失い、「働かないオジサン」と化して、日がな一日新聞を読んでいる、コーヒーを入れているといった状況が散見されるとききます。

かといって、日本企業は「働かない正社員」を解雇しにくい。

もっとも、日本の解雇を巡る法律は、労働者が労働力を提供できていれば解雇は出来ず、労働者が労働力を提供できなくなったら、解雇が出来るというのが基本です。

しかし、「この労働者が労働力を提供できているか」どうかの線引きが難しい。

それは、日本型の雇用慣行が背景にあるからです。

複雑な構造問題

欧米の企業は、従業員一人ひとりの仕事の範囲、各労働者にとっての「私の仕事」の範囲や責任が明確に定義されています。

だから、トップの経営判断でその仕事がなくなったり、労働者の能力不足でそのミッションが果たせなければ、解雇ができる。

かたや、日本の会社の場合、契約書にあなたの仕事はコレだとは1行も書かれていません。

なぜか?

きっと、そのほうが、かつては労働者の使い勝手がよかったからでしょう。

よく、日本の会社員は「三無」だと言われます。

仕事内容が選べない。勤務地が選べない。勤務時間が選べない……。

なぜ、三無だったかといえば、会社がその時々の経営判断、産業の盛衰に合わせて、社内で人材を入れ替えることで、世の変化に対応してきたから。

これをいちいち、外部から人員を補強していたら手間がかかって仕方がないし、その人材をトレーニングするのにも時間がかかってしまいます。

そういった意味で、社員の異動、転勤が自由自在という状況は、会社にとっても、利点があったはずです。

その代わり、労働者側は、専門性が育たない、転勤が多過ぎて共働きができないといったデメリットも引き受けてきた。

一方で、会社側は、労働者本人の能力不足や経営判断で、今の仕事が出来なくなっても、別の仕事をあてがう解雇回避努力義務が課せられてきたのです。

このような理由から、「働かないオジサン」はたとえ「自分の仕事」がなくなっても、「他の仕事」をあてがわれるまで、宙に浮いたままという状況が続いているのだと思います。

このように、「働かないオジサン問題」は、個人、個人が努力しない、ずうずうしいといった性質上の問題というよりは、より複雑な構造問題なのだ、と私は考えます。

佐藤留美
1973年東京生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒。出版社、人材関連会社勤務を経て、2005年、企画編集事務所「ブックシェルフ」を設立。20代、30代女性のライフスタイルに詳しく、また、同世代のサラリーマンの生活実感も取材テーマとする。著書に『婚活難民』(小学館101新書)、『なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術』(ソフトバンク新書)、『資格を取ると貧乏になります』(新潮新書)、『人事が拾う履歴書、聞く面接』(扶桑社)、『凄母』(東洋経済新報社)がある。東洋経済オンラインにて「ワーキングマザー・サバイバル」連載中。