未だにある! こんなひどい例

「子どもを産んだ女がどこまでやれるか、見ててやるよ」

これは13年以上前、ある女性が育休から復帰した後、上司に言われた言葉です。ひどい! と思いますか? まさか! と思いますか?

実は今でも、こんな上司はたくさんいます。

安藤哲也さん(ファザーリングジャパンファウンダー)によると、妊娠を告げたら「え、妊娠したの? まいったなぁ」(これって立派なマタハラ(マタニティハラスメント)ですよー)。

男性が育休を取ろうとしたら「前例がない」(前例がないことは絶対にやらない。これが会社の処世術。だって責任とれないもん……)といった例があるのだそう。

そのほかにも、1カ月のうちに2回子どものインフルエンザで休んだら「管理の甘さだよ。子どもは強く育てないとダメだ」(いやいや、子どもの病気は根性論じゃないから……)。

共働きの妻が出張中、子どもの病気で休もうとしたら、「そんなの女房にやらせればいいだろう? 出張中? お前、女房の選び方間違えたな」(いやいや、この奥さんのおかげで、うちの家系はあなたの年収の2倍です)などなど。

まあ、こんな話はよくあるわけです。これは3月12日に行われたファザーリングジャパン(FJ)の「イクボスプロジェクトキックオフイベント」で発表された事例です。

上司の教育が必須課題

イクボス……FJの定義によると「イクボスとは、共に働く部下・職場スタッフのワークライフバランスを考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)のことを指す」ということです。

ワーキングマザーもイクメンも増えていますが、今イクメンが直面しているのは「上司の無理解」です。今必要とされているのは「育児を含む部下のワークライフバランス」に理解ある上司の存在です。

女性活用やダイバーシティ、ワークライフバランス推進の討議の中で、どこでも聞くのは「今後のワークライフバランスの推進には、上司の教育が欠かせない」ということです。

上司が若かったころは「週末出勤しろ。会議は午後7時からだ」と言っても普通だった。みんな、男性で家には専業主婦の奥さんがいる、または独身だったからです。今の上司世代(40代)からは、「子どもを持つ女性が働き続ける」「男性が育児をする」ことは、遠い世界の出来事のように実感がないのです。子どもがいたとしても「一番大変な子育て期」も専業主婦の奥さんに任せて仕事に専念していた。または「単身赴任していて、気が付いたら子どもが大きくなっていた」という人もいます。

「仕事が一番」の時代は終わった

しかし時代は代わり、会社には働く女性が増え、彼女たちは母親になっても会社に残る。「仕事が一番。プライベートで迷惑をかけてはいけない」という時代は終わりました。なぜなら、部下の世代は会社に身を捧げても「安定」や「昇給」が約束されていないからです。「最近の若いやつらは……」と文句を言っても彼らは動かない。モチベーションを持って働いて成果を出すチームにするには、違うアプローチが必要です。

どこを切っても金太郎飴的ではないマネジメントが必要です。

介護を抱える人、小さな子どもがいる人、独身、既婚、日本国籍ではない人、さまざまな人たちが働く職場。かつてのように「専業主婦の妻が家事育児のすべてを面倒見てくれる」人だけではない。育休を取ったり、小さな子どもともっと関わりたいと望むパパも増えている。

ダイバーシティ推進、女性活用で定評がある企業は「育休あけの上司と部下、人事担当」の三者がそろった面談や、「上司向け研修」を充実させています。

私も企業の女性社員向けの講演をすると、当事者だけでなく上司や人事の方たちから「現状がよくわかった。知らなかった」という声を必ずいただきます。

自分は子育てに関わってこなかった40代50代上司に「イクボス」としての資質が求められる時代です。

イクボスを増やす方法

婚活もイクメンも言葉が先行して「なんか、そっちのほうが求められているらしいぞ」となると、人は動く。イクボスも同じです。

男性は非常に社会的な動物なので、「こっちのほうが社会的に受けがいい」とわかれば、そちらになびきます。保育園の送り迎えに男性が増えたのも、「彼らがやりたくてうずうずしていた」というわけではないと思いますよ。「なんか、世の中、こーゆー感じになってきているんだ」と流されてきた人も多いと思います。で、やってみたら楽しかった。子どもとも距離が縮まり、奥さんは上機嫌になる。やってみたら……が大事です。

イクボスも同じです。「やってみたら部下が動くようになった。女性の受けがよくなった」「チームでの成果も上がった」となれば、みんながそちらになびくでしょう。

さらに「イクボス」に対して、しっかり「評価」がつくといいですね。ダイバーシティ先進企業は「多様性ある部下の活躍に貢献した」ことを評価の項目に入れています。

FJの新しい仕掛け「イクボス」プロジェクトを応援しましょう。FJでは「セミナー」「フォーラム」「検定」「コンテスト」などを企画しています。

「なんか、こっちの方が受けもいいし、楽しそうだし、成果も出るんじゃない?」

そんな空気をみんなで作っていくことが、遠回りのようで「早道」なのです。

白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、昭和女子大女性文化研究所特別研究員、大学講師
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊『格付けしあう女たち 「女子カースト」の実態』(ポプラ新書)