■編集部より指令

「婚活におけるバカ問題」について取り上げた「『許せるバカ』と『許せないバカ』の分岐点」(http://president.jp/articles/-/12012)は多くの方にお読みいただきました。

婚活から仕事に目を移してみると、ここにも「許せるバカ」と「許せないバカ」が存在するように思います。「許せるバカ」のほうは、その立ち位置を利用して仕事がうまくいくこともあるかもしれません。

この違いを詳しく解説してもらいます。

■大宮冬洋さんの回答

男が「バカな男」を絶賛する2つの理由 -職場にいるバカ・男の言い分
http://president.jp/articles/-/12088

■佐藤留美さんの回答

日本の「バカ事情」に異変あり!

日本人は、基本的に「バカ」を愛する国民性なのではないでしょうか。

全方位、死角なし……の完全無欠のエリートは、ただ自然にふるまっているだけで「嫌味なヤツ」「人望がない」などと叩かれがち。その切れ者ぶりも、「如才がない」「利にさとい」「こすっからい」などと敵を作りやすい。

いわゆる、出る杭は打たれるというやつです。

一方で、どこか行動がそそっかしい抜け作は「愛すべきバカ」として、職場のムードメーカーとして重用されたりする。

「専門バカ」「バカ正直」と言った表現にも、どこかでその不器用ぶりを愛しむ姿勢が見て取れます。

それは、日本が古来より、横並び意識の強いムラ社会だからかもしれません。

日本ではむしろバカより、超優秀な人が生きづらい――。

若い時分は「うつけ者」と呼ばれた織田信長然り、徳川幕府によるお取り潰しを避けるため、わざと鼻毛を伸ばしてバカ殿を装った加賀藩三代目当主の前田利常然り、仇討はないと見せかけるためお茶屋に入り浸った大石内蔵助然り…… 優秀な人は、むしろ悪目立ちしないように、己をバカに見せかけるのに四苦八苦する始末でした。

有名広告代理店の社員や商社マンが、宴会でハダカ芸を見せ回っていたのも、へりくだる、バカになることが、日本流の“お作法”だったからでしょう。

しかし、ここへきて、筆者は、そんな日本の「バカ/おリコウさん」事情にも、変化の兆しを感じるようになりました。

バカ業界に黒船襲来――。そう、日本社会のグローバル化です。

部課長ポストを外国人が独占

最近、筆者は日本の会社の(在日本の外資系含む)グローバル人材戦略について取材・研究しているのですが、「今後の日本でバカは住みづらくなる」とつくづく感じさせられています。

グローバルビジネスを展開する日本企業では、人事制度、評価基準などをワールドワイドで共通化する動きが盛んです。

たとえば、某IT企業では、「ナインブロック」というGEが昔から使っている人材を9つのブロックに区分けする手法を導入し、その上位層にのみ、グローバルタレントとしてのエリート教育を施しています。

異動も世界を跨いで行うのがもはやスタンダード。「グローバル・ジョブ・ポスティングシステム」と言って、本社、支社の区別なく、全世界拠点共通の「人材巨大データベース」から適材適所を選び出す仕組みになりつつあります。

ということは……。たとえ、以前は日本発の純和風だったはずの企業でも、その経営者選びの段階で適当な日本人が見当たらなければ、支社(現地法人)から外国人を引っ張ってくる、あるいは外部からヘッドハンターに引っこ抜いてきて貰う……なんて事態は今後急増すると見込まれます。

現にそんな事態はとっくに起きていて、武田薬品工業の社長は海外の医薬品会社から引き抜いてきたフランス人ですし、ソニーの前社長ストリンガー氏もソニーのアメリカ法人トップだったイギリス人でした。

あるIT会社の幹部などは、今後は経営層に留まらず、部長、課長ポストも、優秀な外国人が独占する可能性が高いと、こっそり打ち明けてくれました。

日本人は外国人に比べてそれだけ「足りない」ということでしょうか。

段々と、バカが許されなくなってくる

つまり、筆者が何を言いたいかというと、日本人同士がお互い過剰にけん制し、バカぶっている(あるいは天然のバカ)うちに、デキる外国人がそれこそ我々のポストを「バ~カ」とばかりに奪っていく公算が高いということです。

もちろん、グローバル化なんて知らん、自分は国内市場で生きていくんだと開き直り、今まで通りの“おバカぶりっこ”を続けるのもいい。しかし、恐らく、そうした志向の人が続出することでしょうから、先細る国内市場で日本人同士の競争が激化するのは間違いありません。

かといって、グローバルエリートと肩を並べる能力を、今から必死で身に付けられるか――という問題もあります。

こうした課題については、今後も研究を重ねていくつもりです。

いずれにしても、今後、日本でバカをやっているのは中々「許されなく」なっていくのではないでしょうか?

マスコミ界のバカを十分過ぎるほど認識する筆者は、不安でたまりません。

佐藤留美
1973年東京生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒。出版社、人材関連会社勤務を経て、2005年、企画編集事務所「ブックシェルフ」を設立。20代、30代女性のライフスタイルに詳しく、また、同世代のサラリーマンの生活実感も取材テーマとする。著書に『婚活難民』(小学館101新書)、『なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術』(ソフトバンク新書)、『資格を取ると貧乏になります』(新潮新書)、『人事が拾う履歴書、聞く面接』(扶桑社)、『凄母』(東洋経済新報社)がある。東洋経済オンラインにて「ワーキングマザー・サバイバル」連載中。