「褒め言葉」がハラスメントになるのはなぜか。『できるリーダーはどこを「ほめる」のか? チームが自然と動き出す「戦略的ほめ方」』(朝日新聞出版)を出した山本渉さんは「褒めることで相手を追い込んでいないか、言葉の属性や温度感に気をつけたほうがいい」という――。
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ハラスメントにならない褒め方とは

「最近は何を言ってもハラスメントになる気がして、うかつに褒められない」。そんな声を聞くことがあります。

【Close-up:それ「ハラスメント」ですよ】
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確かに、善意で発した言葉が相手を不快にさせてしまうことはあります。でも大丈夫です。時代にあった褒め方を習得すればいいだけのことです。

褒めること自体は、相手を認め、信頼関係を深める大切なコミュニケーションです。大事なのは、時代や価値観の変化をふまえてアップデートすることです。

ここでは、ビジネスシーンにおいて避けるべき褒め方と、代わりにどのような伝え方が適切なのかを具体的にご紹介します。

まずは、ビジネスシーンで明確にNGとなる例です。「そんなことするわけないでしょ」と思うかもしれませんが、確認の意味でご覧ください。

ビジネスシーンでNGな褒め方2パターン

×NG「外見を褒める」

たとえば、「痩せたね」「最近、肌きれいだね」といった容姿に関するコメントは、たとえポジティブな意味合いでも絶対に避けましょう。あなたの恋人やパートナーなど、プライベートな関係であれば許されるかもしれませんが、ビジネスの場では適切ではありません。

×NG「年齢や性別に絡めて褒める」

「女性なのにハードワークすごいね」「紅一点でチームに貢献してくれた」「20代でこの成果は立派だ」といった表現は、相手の属性に焦点を当てているので、差別的と受け取られてしまいます。「多様性のある視点ですね」「限られた経験の中で素晴らしい成果です」というように言い換えれば、属性を意識させず、より公平な評価として伝わります。

続いては、つい無意識に使ってしまいがちな、注意すべき褒め方です。

上から目線も「圧迫褒め」も要注意

×NG「他の人と比較して褒める」

本書『できるリーダーはどこを「ほめる」のか?』の10節でお伝えしましたが、他者と比べる褒め方は注意が必要です。「先輩の佐藤くんよりも成績がいいね」と言えば、褒められた本人は気にしないかもしれませんが、比較対象となった人が知ったら不快に感じて、ハラスメントと映る可能性があります。「比較褒め」はチームの雰囲気を悪化させる要因にもなります。あくまでも個人の成長に目を向けましょう。

×NG「上から目線で褒める」

「やっと一人前になったな」「企画書の出来、悪くはないね」といった言い回しは、相手を見下している印象を与えます。上司や先輩という立場であっても、決して「自分が上で相手は下」という態度は取らないようにしましょう。リーダーやマネージャーはあくまで役割であり、相手を尊重する姿勢が重要です。

×NG「圧迫褒め」

「君は能力があるから、必ず契約を取ってこれるよね」「君は会社や上司に意見しないからえらいね」。これらは褒めている体裁を取った圧迫です。相手を追い込んでいないかに気をつけて、言葉の温度感に注意して褒めていきましょう。自分の都合のいいように相手を動かすのではなく、相手の成長につながるかどうかという基準を持つことが大切です。

NG例をたくさん並べてしまいましたが、褒めることそのものを否定する意図は決してありません。むしろ、褒めることは信頼関係を築くうえで欠かせない重要な技術です。

時代に合った正しい褒め方は、組織作りを支える強力なスキルにもなります。属性ではなく「その人らしさ」を見つめることで、多様性を重んじる今の時代に沿った、より響く承認の言葉となります。

臆することなく、自信を持って積極的に褒めコミュニケーションを取っていきましょう。

ポイント➡属性ではなく、相手の成果や行動に焦点を当てれば、ハラスメントにならない「褒め方」になる。
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欠点の裏にある可能性を見つけて褒める

誰にでも、苦手なことやコンプレックスはあるものです。それが「欠点」と呼ばれることもありますが、見方を変えれば、欠点こそがその人の魅力であり、個性の源です。

多様性を認め合う社会では、こうした「違い」を正しく受け止め、それを活かす視点が欠かせません。リーダーならば、欠点を否定するのではなく、その裏にある可能性を見つけて褒めていきたいものです。

わたし自身にも、「欠点」が「褒め」に変わった体験があります。

小学校の図工の授業で、校舎の屋上から見た風景を描くという課題がありました。わたしは絶望的に絵が下手なのですが、眼下に見える大量の家を丁寧に描いている同級生の姿を見て、自分にはとてもできないと、すぐに断念しました。

悩んだ末、実際は存在しない巨大なマンションを画用紙の中央にドンと描きました。細かい家を描く手間を省きたくて、いわば手抜きの一手でした。

しかし、図工の先生はその下手な絵を見て、「一人だけ想像で構図を変えた。これは独創性だ」と褒めて、なんと学校代表としてコンクールに出品したのです。

その後、受賞はしなかったものの、あのときの「褒め」は今でも鮮明に記憶に残っています。自分では欠点だと思っていたことが、他者から見れば「独創性」や「想像力」として認められる。その経験が、現在のクリエイティブディレクターという職業につながる原点になっています。

他者との「違い」は武器である

アニメ映画『ダンボ』では、耳が大きいというコンプレックスが、ネズミのティモシーに褒められ、やがて「空を飛ぶ」という特技に変わることで、サーカスの人気者になります。

哲学の名著『嫌われる勇気』では、カウンセラーである哲人てつじんが自らの低身長を「威圧感を与えない」と告げられたことにより、職業上の長所として活かすことになります。

「短所は裏返せば長所」とよくいわれますが、これは単なる精神論ではありません。視点を変えれば、できない部分や変わった点も立派な「褒めどころ」になり得るのです。

多様性を活かすリーダーは、他者と違う部分を「武器」として見つけ、褒めて、伸ばします(本書『できるリーダーはどこを「ほめる」のか?』の22節で詳しく解説します)。

かつての画一的な人材育成では、こうした個性は削られてしまいがちでした。「みんなと同じ」に育てることがよしとされていた時代から、今は「違いこそ力」とする時代へとシフトしています。

インクルーシブ・リーダーシップという言葉がビジネスでも注目されているように、個性を活かして輝かせるマネジメントこそが、これからの組織運営に求められる姿です。

否定する前に試みる「価値の再定義」

マネジメントの醍醐味は仕事のアサイン(割り振り)ができることです。ただ褒めるだけでなく、適した仕事を与えていくことで、自信へとつながります。

山本渉『できるリーダーはどこを「ほめる」のか? チームが自然と動き出す「戦略的ほめ方」』(朝日新聞出版)
山本渉『できるリーダーはどこを「ほめる」のか? チームが自然と動き出す「戦略的ほめ方」』(朝日新聞出版)

ある特性を欠点とせず、「この人にはこういう仕事が合うかもしれない」と想像する。そして任せてみる。うまくいったら褒める。そのループが、その人の可能性を広げていきます。

いかがでしょうか。少し理想論っぽく聞こえたでしょうか? 確かに、実際にはわたし自身も、欠点は結局欠点で終わってしまったこともたくさんあります。

それでもなお、否定する前に一度は肯定的に捉えることには、大きな意味があると感じています。

褒めることは「価値の再定義」です。その人のありのままを受け入れ、そこに眠る強みに気づき、それを言葉にする。欠点を長所に変える褒め言葉をぜひ取り入れてみてください。

ポイント➡欠点を否定するのではなく、個性として捉えることで、褒めの可能性が広がる。