ホモ・サピエンスだけが繁栄した理由
【星野】2022年にノーベル生理学・医学賞を受賞したスバンテ・ペーボ氏は、まさにこの古代人のゲノム解析を切り開いた中心人物なんですね。
【篠田】そうです。古代の遺骨は非常に劣化が激しく、DNAを取り出すのは難しい。その常識を破ったのがペーボ氏らの研究チームでした。
彼らが次世代シーケンサーなど革新的な手法を導入したことで、2010年にネアンデルタール人の全ゲノム解読が成し遂げられた。そのときに「私たちのDNAにネアンデルタールの痕跡が残っていた」ことが明らかになったわけです。
現代医学に直結するようなワクチン開発とは別の、いわば純粋な基礎研究的アプローチでノーベル賞を取られたのは珍しい例だと思います。でも、それだけ社会的インパクトが大きかったということですね。
【星野】ネアンデルタール人やデニソワ人も生き残っていれば、地球上に複数の人類が共存していたかもしれません。ホモ・サピエンスだけが広く繁栄した理由はなんでしょうか。
【篠田】単純に「知能が高かったから」とは言えません。ネアンデルタール人も複雑な道具を使い、狩猟を行い、火を扱っていたようです。ただ一つ確実なのは、私たちホモ・サピエンスは集団規模を拡大し、ネットワークを形成して生き延びるのが得意だった可能性があります。
他の人類との大きな違い
【篠田】ネアンデルタール人の化石を詳しく見ると、近親同士で結婚を繰り返し、多様性が損なわれた挙句、環境変化などの要因で衰退していったらしい。一方ホモ・サピエンスは、広範囲で情報や資源をやり取りする仕組みを作り出し、増殖していった。その違いが生存競争で決定的な差になったという見方が有力ですね。
【星野】集団が大きくなると、ある種の共通ルールや宗教、言語といったものが必要になる。そこにホモ・サピエンスの真骨頂がありそうですね。
【篠田】そうですね。「ダンバー数」という概念がありますが、人間が個別にしっかり認識できるのは150人くらいが限界だと言われます。そこを超える集団をまとめるには、共有の物語や宗教、あるいは言語体系などが不可欠。狩猟採集の時代ですら、仲間同士でネットワークを作って交流したからこそ、世界中へ拡散できたのではないかという仮説があります。
要するに、「顔がわかる仲間を超えた規模で協力できる」のがホモ・サピエンスの強みだった。ネアンデルタールやデニソワ人には、その仕組みが十分備わっていなかった可能性があります。
【星野】ホモ・サピエンスが地球上のあらゆる地域に進出できたのは、ある意味で「探究心や冒険心が強いから」という部分もあるのでしょうか?



