「鉄道」+「ヒト」起点での価値創造に注力し、サステナブルな社会を

東日本旅客鉄道株式会社
常務取締役
マーケティング本部長
――環境やサステナビリティに関する貴社の方針や理念について教えてください。
【中川】JR東日本は、2018年に策定したグループ経営ビジョン「変革2027」において、「鉄道起点」から「ヒト起点」へと転換し、新たな価値創造に注力しています。そして「ESG経営の実践」を経営の重要な柱の一つに掲げ、脱炭素社会の実現に向けた取り組みを進めています。2020年には環境長期目標「ゼロカーボン・チャレンジ2050」を策定し、2050年度の鉄道事業におけるCO2排出量「実質ゼロ」に挑戦しています。省エネルギー車両の導入や自営火力発電所の発電効率向上などに加え、水素ハイブリッド電車「HYBARI」や燃料電池バスの運行、太陽光発電などの多様な取り組みを通じて、脱炭素社会への貢献とともに、鉄道の環境優位性のさらなる向上と、サステナブルな社会の実現を目指しています。
「環境」「モビリティ」「ヘルスケア」を軸に
――「TAKANAWA GATEWAY CITY」の特徴について教えてください。
【中川】「TAKANAWA GATEWAY CITY」は2025年3月27日のまちびらきで高輪ゲートウェイ駅前のツインタワー「THE LINKPILLAR 1」が先行して開業し、2026年春にグランドオープンを迎えます。品川から田町まで山手線3駅にわたる広大な敷地に誕生するこの新たな街は、都心はもちろん国内外からのアクセスもよく、オフィス、商業、住宅、ホテル、コンベンション・カンファレンス、インターナショナルスクール、文化創造施設などさまざまな機能を備えています。そして在来種を基調とした多様な緑が街を彩り、生物多様性に配慮したビオトープも整備されます。

ここはおよそ150年前に、海の上に堤を築き、初めて鉄道が走った地でもあります。そうした近代化の礎を築いたこの地を、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」と位置づけ、未来に向けたイノベーションを発信していく場を目指します。国内外のアカデミアやスタートアップなど、多様なパートナーとの共創により、「街全体を実験場」として、グローバルレベルで社会課題の解決に取り組んでいきます。その中でも特に力を入れている分野が、「環境」「モビリティ」「ヘルスケア」です。
――エネルギーの効率的な活用など、随所に工夫が凝らされています。
【中川】この「TAKANAWA GATEWAY CITY」では、街で使われるエネルギー全体でCO2排出量「実質ゼロ」を目指します。サステナブルな街づくりに向けて、省エネ・創エネに加え、街全体でエネルギーマネジメントが行われる仕組みを実装します。
例えば、高層ビル「THE LINKPILLAR 2」の地下には、熱エネルギーをためておく水槽である巨大な蓄熱槽を設置します。50mプール8個分相当の規模で国内最大級のものです。夜間などの需要の少ない時間に製造した冷熱や温熱を蓄熱槽にためておき、需要に応じて放出することで熱供給を行います。蓄熱槽の水は、災害時にトイレ用水や消防用水などにも活用できます。
また、水素エネルギーも導入しており、高輪ゲートウェイ駅のそばには水素ステーションが設置されています。水素由来の電気で動く自動走行モビリティが街の中を移動し、将来は水素由来の電力を街全体に供給する構想です。そして、バイオガス設備も設けます。街の飲食店などから出る食品残渣を発酵させてメタンガス化し、燃料としてボイラーに使います。食品残渣が7割減り、ホテルの給湯に必要なエネルギーの10%を賄える見込みです。
「未来へつなぐ」を表現した秀作の数々
――「環境フォト・コンテスト2025」の入選作について感想をお聞かせください。
【中川】優秀賞作品は、当社のコーポレート・コミュニケーション部門の社員一同で選びました。いずれも生命を「未来へつなぐ」営みを巧みに表現した作品ばかりで、入選作を絞り込むのに悩み抜きました。優秀賞「斜陽のエッジ」は、緑の背景、白と黒の親鳥、茶色の子と、コントラストが印象的です。写真の鳥がどことなく優しく、柔らかそうな雰囲気を醸し出しているのも目を引いたポイントでした。鳥の親子が生命をつないでいることを感じさせる構図であり、受賞者の説明に撮影地が線路脇の休耕田という情報もあって、「人と生き物の共存」が示されています。このような環境は、JR東日本としても、まさしく未来へ伝えたい風景であるといえます。
佳作の「未来へつながれた『虫送り』」は、緑とオレンジの松明、夕焼けのグラデーションが非常に美しい写真です。また、一時期途絶えていたお祭りが復活したという状況には、未来へ受け継いでいきたいという地域の方々の強い意志が感じられます。もう一つの佳作「もうすぐ、お兄ちゃんだよ!」は、キラキラした海に映える家族写真。海に向かって歩いている子の手をそっとつなぐ優しい父の様子、それを見守る母の姿に、未来へ続く明るい道が見える気がします。これらの作品と、「TAKANAWA GATEWAY CITY」をはじめとする当社の取り組みが目指す未来を重ね合わせて、ご覧いただけたらと思います。
●「環境フォト・コンテスト2025」入賞作品
●募集テーマ:未来へつなぐ


