記憶の「選抜」と「定着」が起きた
マウスの脳で何が起こっているのか?
僕らはこれを、睡眠中に、記憶の断片の「選抜」と「定着」が起きた、と考えました。
四角い部屋には多くの情報がありますが、そのうち大事な情報だけを眠っている間に「選抜」し、脳に「定着」させたのです。
起きて、活動している間には選抜・定着は起きません。眠ることが必要なのです。
ここまでで分かっていることを整理すると次のようになります。
・覚えておくべき記憶と忘れる記憶を選別している
・覚えている記憶の断片だけをリプレイしている
僕たちの脳でも、同じことが起きているでしょう。
学習したことは、無数の断片として記憶され、睡眠中に選抜・定着をしていると考えられます。すべてを覚えておくことは、無駄なのかもしれません。コスト・パフォーマンスを上げるため、大事なことだけを選抜し定着させている。そして次にそれらの記憶を優先的に思い出すようにしているのです。
ただ、不思議なのは、どのように選抜の基準を決めているのか、という点です。
一体どうやって重要かそうでないかを決めているのでしょうか? これは未解決ですが、これから明らかになっていくでしょう。
忘れた記憶の痕跡は、脳に残っているか?
脳が大事な記憶だけを選抜し、定着させているなら、「忘れた(と思っている)記憶」は消滅してしまったのでしょうか?
僕たちはそうした記憶の痕跡は、脳に残っているのではないかという仮説を立てました。
脳に蓄えられた記憶は記憶痕跡とよばれますが、これはニューロン集団のことです。神経科学の用語では「エングラム」といいます。忘却した、つまり神経活動が起きないエングラムは「サイレント」であると考え、僕は忘れた(と思っている)記憶の痕跡を「サイレント・エングラム」とよんでいます。ニューロン集団そのものは存在しているけれど、神経活動は起きない状態を意味します。
サイレント・エングラムは脳に残っている、というのがこの仮説です。
アイドリング脳を働かせて、ひらめきを得るとき、それは無から生じるのではなく、膨大な記憶の積み重ねから得られているはずです。しかし、僕たちは通常、多くの記憶を忘れてしまっています。もしくは、思い出すことができません。ということは、思い出せない=一見すると忘れてしまった記憶でも、その痕跡は脳に残っているのではないか、と考えて生まれたのがこの仮説です。サイレント・エングラムがひらめきの“土壌”となっているのではないか、というわけです。

