三菱自動車工業は、2009年にi-MiEV(アイ・ミーブ)でEV(電気自動車)の量産と販売を世界に先駆け実現した。その電動化技術を応用し、2012年にアウトランダーPHEVを発売。その後世代を重ね、あらたに大幅改良を実施。さらなる進化の様子と、それを手にする喜びとは何か。世界が脱炭素を目指すなか、開発者へのインタビューと新車試乗で、いま車に求められる価値に迫る。

長きに渡る開発の結晶である新型PHEV

21世紀に入り、自動車メーカーは新たな挑戦の真っただ中にある。世界的な脱炭素への潮流が明確になり、排出ガスゼロのクルマ(ZEV=ゼロ・エミッション車)の本命である電気自動車(EV)開発が急務となった。ただ、昨今はそのEV販売の勢いにやや陰りが見えてきている。それは、充電インフラが充分に整っていない状況下、多くの人にとって、移動途中での電欠の不安が払拭しきれていないためだ。そこに提示されたのが、電欠の心配なく、電気でもガソリンでも走ることができるプラグインハイブリッド車(PHEV)という選択肢である。

「新型アウトランダーPHEVは、いまの時代に有力な選択肢のひとつになる」と語るのは、開発を担った五味淳史CPS(チーフ・プロダクト・スペシャリスト)。

「世界的に脱炭素への意識が高まるなか、クルマ選びも環境性能が重要な指標になっています。そして乗用車の情勢は、EVの普及へ向かっています。ただ、いまはその過渡期にあり、充電の社会基盤があらゆる需要に対し整っているわけではありません。たとえば休暇などで遠出をするとき、充電設備の有無で目的地を変更しなければならなくなってはクルマ本来の役目を果たせません。その点、PHEVであれば、日常はEV同様に電気を使って通勤や買い物などの移動を満たし、遠出の折は、目的地の充電設備の有無といった制約なしに出かけられ、双方の利点を兼ね備えています」

三菱自動車工業 商品戦略本部 チーフ・プロダクト・スペシャリスト 五味淳史氏
三菱自動車工業 商品戦略本部 チーフ・プロダクト・スペシャリスト 五味淳史氏

あらためて、PHEVの機能を確認しておくと、車載したリチウムイオンバッテリーにあらかじめ充電することで、アウトランダーPHEVの場合、100km以上モーター走行することができるため、普段はEVと同じように利用できる。つまり日常においては、ほぼ二酸化炭素を排出せず走らせられる。

そのうえで、遠出する際はエンジンで走行でき、かつ発電しながら走り続けることもできるので、途中で充電する心配をせずに済む。PHEVのいいとこ取りのよさに加え、アウトランダーPHEVは、EVらしさをより実感できる長所がある。

「三菱自動車は、三菱重工時代の1964年からEVの研究開発を続け、2009年に世界で初めて量産EVであるi-MiEV(アイ・ミーブ)を市販しました。長い年月を通じた知見が豊富なため、初代アウトランダーPHEVのころから、EVの技術や発想を基にした仕様になっています」

大幅改良に伴い追加された新色「ムーンストーングレーメタリック」。
大幅改良に伴い追加された新色「ムーンストーングレーメタリック」。

今回の改良型アウトランダーは、モーター走行を100km以上持続させるため、車載バッテリーが強化された。また走行距離の延長だけでなく、加速や高速走行においても、極力エンジンを始動しない制御を採り入れた。充電した電力が減ってからハイブリッド走行へ移り、エンジンが始動するとき、乗員がそのことに気づかないよう、エンジン始動タイミングの吟味や静粛性の確保も行っている。

モーターは、緻密な出力制御が得意な動力だ。舗装路はもちろん、未舗装路や、雨天、雪道など、走りが不安定になりやすい場面で運転に安心をもたらす効果がある。

「三菱自動車は、四輪の駆動力調整を電子制御で行ってきた実績があり、世界ラリー選手権(WRC)で活躍しました。そうした知見を、より精緻に活かせるのがモーター駆動の利点です。滑らかで力強い加速はもちろん、アクセル操作に対する応答が的確で、速度域にかかわらず、安心して運転できるところをお客様からも評価していただいています。開発では、海外を含め実際に走り込んで作り込みました」

五味CPSは、「一歩先へ行けるクルマとして、世界で戦えるPHEVに仕上がった」と、胸を張る。

EVらしさが拡張した走行性能

アウトランダーPHEVの魅力は、EVと同じようにモーター走行を存分に味わえることだ。アクセルペダルを踏み込むと、操作通り、的確に速度を上げるところがモーター走行の強みである。モーターは、電気が供給されると間髪を入れず回転力を生み出せる機構だからだ。

たとえば駐車場から通りに出るとき、安全を確認しながらそっとアクセルペダルを踏むと、ゆっくり動き出す。そして通りに出て、わずかにペダルを踏み増せば、たちどころに交通の流れに乗れる。またモーター走行は、高速道路の合流でいっそうの安心をもたらす。速度差の大きな高速道路への進入で、普段と変わらぬアクセル操作でも素早く車速を高め、なおかつ、変速機を持たないので加速は滑らかだ。エンジンの唸り音もない。クルマで遠出することが待ち遠しくなるのではないか。

勾配のある道でも静粛でEVらしい走行ができる。
勾配のある道でも静粛でEVらしい走行ができる。

改良型アウトランダーPHEVは、バッテリー容量を増やしている。また発電のためエンジンの始動タイミングを吟味し、あえて意識しなければ、エンジンが始動したことに気づかないほどだ。それらによって、あらゆる場面でEVらしさが拡張していることに気づかされる。バッテリーに充電された電力を上手に使いこなす鍵は制御にあり、豊富な経験の裏付けがなければ、一朝一夕にはできない。

アウトランダーPHEVは、まさにEVを知り尽くした自動車メーカーが開発した手ごたえがある。そのうえで、前後に個別のモーターを配し、四輪の駆動力を最適に制御することにより、あらゆる速度領域で操縦安定性の高さを実感する。それも、三菱自動車ならではの魅力だ。日本に比べ速度域の高い欧州の需要にも応える走行性能を、試乗からうかがうことができた。

まるで生の演奏や歌を聞いているよう

モーター走行の充実は、静粛性を含め室内空間の上質さにも貢献している。そこで際立つのが、新たにヤマハと共同開発したサウンドシステム「ダイナミックサウンド ヤマハアルティメット/プレミアム」だ。楽器の音を精緻に再現することを目指したプレミアムサウンドは、臨場感あふれる音であるのはもちろん、音のきめ細かさが快い。適度な音量で、上質な音楽を楽しめる。

新内装色「ブリックブラウン」。前席にはシートベンチレーション機能が追加され、ナビディスプレイは12.3インチに大型化された。
新内装色「ブリックブラウン」。前席にはシートベンチレーション機能が追加され、ナビディスプレイは12.3インチに大型化された。
ヤマハのサウンドマイスターが技と経験を惜しみなく注いで開発したサウンドシステム「ダイナミックサウンド ヤマハアルティメット/プレミアム」。
ヤマハのサウンドマイスターが技と経験を惜しみなく注いで開発したサウンドシステム「ダイナミックサウンド ヤマハアルティメット/プレミアム」。

さらに最上モデルのアルティメットは、特等席で生の演奏や歌を聴いているような満足感をもたらす。三菱自動車とヤマハ双方に共通する本物志向の企業哲学が、良質な音楽を聴かせる自動車空間を作り上げた。五味CPSは、加えて「日本の企業同士で協力して開発できたことが嬉しい」と振り返る。

三菱自動車のフラッグシップに位置づけられるアウトランダーPHEVは、隙のない、上質かつ環境の世紀にふさわしい有力な選択肢といえるだろう。

本物を追求したことで進化した新型アウトランダーPHEV。
本物を追求したことで進化した新型アウトランダーPHEV。