老後の資産形成を見据えて各種制度の積極活用が進む
――自身や企業を取り巻く現状をどんな視点で捉えたらいいでしょうか。
【福山】日本は過去30年の間デフレが続き、明けると世界経済のインフレ傾向のあおりを受けて、コストプッシュ型のいわゆる「悪いインフレ」に移りました。こうした経済情勢の変化を理解しておくことが一つ。もう一つ注視すべきは国内のこれからの変化です。少子高齢化が進むことで2050年には日本の人口は約1億人まで減少すると推計されています。多くの高齢者を少ない若者が支える、その状況が深刻化する中で、公的年金制度を維持していけるのか。まずは社会構造の変化を踏まえた上で、個人は、企業はどう行動すればいいのかを考えていくのが大前提だと思います。
少子高齢化は何十年も前から予測されていたわけですから、国はiDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DC(企業型確定拠出年金)といった老後の資産形成を支援する有利な制度を整えてきました。「確定拠出年金法」には、その目的を「国民の高齢期における所得の確保に係る自主的な努力を支援し、もって公的年金の給付と相まって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与すること」としています。実際に皆さんの関心は非常に高く、NISA(少額投資非課税制度)なども組み合わせて積極的に各種制度を活用している方が増えている印象です。
大きな変化は必ず起こる乗り越えるためのマインドとは
――さまざまな投資の選択肢がある中で、どんなマインドを持って行動することが大切でしょうか。
【福山】今年8月の株式市場の大荒れではろうばい売りが見られるなど、多くの人を混乱させました。ただ、暴落はこれまでに何度も起こっていますし、これからも起こります。特に投資をスタートして間もない人にとって冷静な判断が難しいのは「スタンスに課題がある」ためだと考えています。
スタンスとしてはいくつかのポイントがあります。一つは「投資の目的は何か」という点です。決してもうけることを否定はしませんが、そこにばかり意識が向くと短期的な「勝ち負け」が基準となり、結果としてろうばい売りなどに走りがちです。機関投資家と違って、長期的な投資は個人投資家の特権です。そこで私が大事だと考えるのは、投資はもうけるためではなく、あくまでも「資産価値を維持していく」という基本スタンスです。
しばしば相談者から開口一番「どの商品がいいですか」と聞かれることがあります。それは「どんなライフプランを実現したいかによって異なる」というのが答えです。
ライフプランを立てるに当たって重要なのは大きく2点。自分がやりたいことを「明確な言葉にする」こと、そして「やりたいことを数値化する」ことです。投資は目的を定めた人生設計の「要素の一つ」として位置付けることが大切だと思います。1年間の収入と支出からいくら貯蓄できるかは計算できますし、将来的な自身の働き方に基づく年収の予測、さらには老後に受け取れる年金も分かります。そこに家のローンの返済、子供の学費、娯楽などこれからの支出を落とし込めば、自分がどれだけのお金を投資に回せるかがある程度見えるはずです。その後初めて株式や債券、実物資産など、どんな手段で投資すべきかが検討できるわけです。
強く求められる企業価値向上「太い経営方針」を軸に判断を
――では、事業者の視点に立った投資のポイントは。
【福山】企業の投資の目的は「企業価値の向上」に集約されるでしょう。株持ち合い解消の方向へ進んでいる他、大手企業の不動産売却が話題になったり、自社にないノウハウを取り入れるためのM&Aが活発化したりと、近年の市場でより強く求められている収益性向上、持続的な成長への期待に応えるために、事業者の投資先の選択はますますシビアなものになっています。
例えば新たに不動産を購入する場合は、単に財務的な観点だけでなく企業ブランディングの一環としてオフィスを整備することで、戦略的に従業員の一体感を高める、離職率を下げるといった効果を狙う事例も目立ちます。個人の資産運用に欠かせないライフプランを企業に置き換えれば、「明確で太い経営方針」を策定していることが前提です。そこに沿って「投資が企業の成長に役立つかどうか」を判断することが肝要です。
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
【福山】繰り返しになりますが、改めて私からお伝えしたいのは「投資は資産価値を守るため」ということです。資本主義のメカニズムに組み込まれたインフレから長期的に自身の資産を守っていくためには、客観的に見てやはり投資が必要だと思います。
例として、年金積立金の管理および運用を行うGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による資産運用を見ると、国内株式、国内債券、外国株式、外国債券でバランスよく構成されています。現金だけの資産で、果たしてさまざまな環境変化に対応していけるのか――そう考えると、ポートフォリオ運用がいかに重要であるかが分かるでしょう。
いつ、どんな局面に向き合うことになるのかは誰にも見通せません。普段から自身のライフプランに基づくポートフォリオをいかに管理できているのか、これが後々に大きな違いを生む可能性があります。投資を堅実に続けている人は、この管理に必要な最低限の知識を身に付けていて、だからこそ専門家のアドバイスもうまく活用できているという印象です。自身のリテラシーと行動力を磨くこと、それが資産を守る第一歩ではないでしょうか。
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