喫煙がもたらすリスクを低減し、より良い明日を築く――。科学的根拠に裏付けられた最新の情報、挑戦的なイノベーションが生み出す製品などによって、たばこハーム・リダクションを推し進めるブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)。最高執行責任者を務めるヨハン・ヴァンダーミューレン氏に、変わり続ける世界の中で日本はどのような道を選び取るべきか、思いを聞いた。
ヨハン・ヴァンダーミューレン

着実な前進のためにはイノベーションが不可欠

――BATのパーパスに込めた思いについて教えてください。

【ヨハン・ヴァンダーミューレン最高執行責任者(以下、ヴァンダーミューレン)】私たちが掲げる「A Better Tomorrow™(より良い明日)」は、当社とステークホルダーの皆さんが共に作り上げていくべきものだと考えています。その道筋となるのは具体的に言うと、「スモークレスな世界」です。

実現に向けて私たちが果たしていくべき役割は、リスクを低減する可能性を持つ非燃焼式製品の積極的な展開など、喫煙者の皆さんにしっかりと選択肢を示していくことだと捉えています。2030年までに当社の非燃焼式製品のユーザー数を全世界で5000万人に引き上げることを目指しており、24年上半期の時点でおよそ2600万人を超えています。そして35年には、当グループのビジネスにおける非燃焼式製品の売り上げを「50%超」にするという目標を設定しています。

――着実な前進のためには、どのようなことがポイントだと思われますか。

【ヴァンダーミューレン】重要なのはイノベーションです。お客さまにより良い製品を届けていくために、英国・サウサンプトンや中国・深センといった地では1750人以上の研究者たちがイノベーションを生み出すための努力を重ねています。

もちろん、私たちは「喫煙しない方がいい」という事実はきちんと認識しています。しかし、今でも多くの喫煙者が存在し、喫煙を続けることを選択するお客さまがいるからには、「続けるのであれば、代替品への移行」を推進し、代替品として適した製品を私たちが提供するために「さらなるイノベーションの創出に努めている」ことをメッセージとして強く発信しています。これが、BATが取り組むたばこハーム・リダクションの軸となっています。

ヨハン・ヴァンダーミューレン

お客さまやBATの社員みんなで変革を起こしていきましょう

ヨハン・ヴァンダーミューレン
BAT最高執行責任者。BATベルギーでキャリアをスタートさせ、ベルギー、トルコ、ロシア各国でゼネラルマネジャー、ヨーロッパおよび北アフリカ地域ディレクターなどを務め、2023年にはBATの初代最高変革責任者に就任。同年7月より現職。

科学的根拠に基づいた合理的な議論のために

――正しい情報を伝え、広げていくことが大事なのですね。

【ヴァンダーミューレン】はい。グローバルに見ても、スモークレスな代替製品と紙巻きたばこ、それぞれのリスクに関して何が科学的に裏付けられていて、何が明らかになっていないのか、消費者が判断できずに戸惑っている状況にあると感じています。この問題を複雑化させている要因として、「ニコチン」や「燃焼」に対する理解が深まっていないという点が挙げられるでしょう。各国の公衆衛生機関が指摘している通り、ニコチンは喫煙の常習性の要因であり、喫煙年齢を満たした成人のみが使用すべきです。ただ、喫煙がどのように健康被害を及ぼすのかは、英国王立内科医協会や米国食品医薬品局(FDA)の発表(16年、17年)をはじめ、「燃焼で生じる煙に含まれる有害性物質が主な原因」との見方が強まっています。

BATが進めている科学研究プログラム、特に臨床試験で得られた透明性の高いデータを私たちは重視しています。なぜなら感情的な議論ではなく、やはりエビデンスに基づいた情報をベースにした話し合いが大切だと考えるからです。お客さまに説得力を持って情報を届けるにはエビデンスが不可欠です。たばこハーム・リダクションに貢献する最新の確かなエビデンスを用いて、常にスモークレスな代替製品のリスクプロファイルのアップデートに努めるとともに、全ての研究結果を透明性を持って公表しています。

――政策としてたばこハーム・リダクションが導入されている国もある海外の状況はいかがでしょうか。

【ヴァンダーミューレン】EUでは40年までのスモークフリー(紙巻きたばこの喫煙率が5%以下)に向けた取り組みが加速しており、世界で最も早く実現するのはスウェーデンだといわれています。実はこの20年で興味深いデータが収集されました。同国におけるニコチンの摂取量に大きな変化はないものの、非燃焼式製品など代替品への移行などによって紙巻きたばこの喫煙率は5%に近づき、またがんやたばこ関連疾患による死亡者数が他のEU諸国と比較しても著しく減少したと報告されています。そして極めて重要なのは、国の主導でこれが実現しつつあるということです。

新たな選択肢への流れを止めるわけにはいかない

――日本も世界の潮流に追い付くのでしょうか。

【ヴァンダーミューレン】日本の加熱式製品のユーザーは5割に到達しようとしています。イノベーションが社会に実装され、世界的にもうまく移行が進んでいるケースの一つでしょう。この変革を継続する上で欠かせないのはスウェーデンの例でも分かる通り、国や皆さんとの相互理解による協力です。

例えば税制の在り方として、紙巻きたばこと加熱式たばこのリスクを同等のものだと捉え、税差をなくすというアプローチは、これから非燃焼式製品へと移行したいと考えている人たちの動きを鈍らせかねないと考えています。私たちマルチカテゴリー消費財企業や国が一体となってサイエンスを根拠とする説明責任を果たし、消費者が疑念や迷いを抱くことなく新しい選択肢を受け入れることができる。そうした流れを推し進めていくことが、何より大切だと思います。スモークレスな「より良い明日」への道筋はもう見えつつあるのですから、ここで後戻りしてしまうのは、非常にもったいないことではないでしょうか。

「スモークレスな世界」の実現
その重要な鍵を握る「たばこハーム・リダクション」とは

本質的にリスクのある活動の影響をより小さくしていく上で、重要な視点が「ハーム・リダクション(害の低減)」。公衆衛生上の確立された考え方で、「その使用を完全に止めることなく、使用による健康や社会、経済への影響を減少するための実用的な方法」を模索するものだ。

「たばこハーム・リダクション」の領域においても、さまざまな取り組みが進められている。紙巻きたばこは深刻な健康リスクをもたらし、そうした健康リスクを回避するための唯一の方法は「喫煙しない、または禁煙する」ことであるという前提がある一方で、「喫煙を選択する消費者」が存在しているという事実がある。そこで、喫煙を選択する法定年齢を満たした消費者にとって手に取りやすく、リスク低減の可能性を秘めたより良い代替製品への移行を推進することで、喫煙がもたらすリスクを低減していく。そうした考え方を取り入れた施策や製品の活用が、「たばこハーム・リダクション」を成功させるためのポイントだといえる。