女性が積極的に管理職・リーダーを目指す社会の実現へ
東京都が、女性活躍の推進を目指して立ち上げた「東京女性リーダーズ応援ネットワーク」。女性がリーダーとして活躍できる土壌をつくろうと、さまざまな取り組みが行われている。
2024年7月から始まった「女性リーダー育成プログラム」もその取り組みのひとつだ。専門家や企業で活躍する女性リーダーによる平日半日・全4回のプログラムで、現在の社会状況や求められるリーダー像を踏まえながら、女性リーダーとして一生使えるマインドセットやスキルセットが学べる内容となっている。参加対象は、都内企業に在籍するリーダーを目指す女性、現在管理職の女性、キャリアアップに関心のある女性とする。
厚生労働省の「雇用均等基本調査(2023年度)」によれば、日本の課長相当職以上の女性管理職比率は諸外国の平均30%を大きく下回る12.7%と、まだまだ低い。政府は管理職など「指導的地位」における女性の割合を「2020年代の可能な限り早期に30%程度」と掲げているが、女性リーダーの育成に苦労している企業がいかに多いかが想像できる。
しかし、同質性の高い人材ばかり集まった組織では、イノベーションは起こりにくい。さらに近年は、意思決定プロセスにジェンダー的な視点が入っているかどうかが、投資の重要な判断基準になっている。ジェンダーギャップ指数で世界118位と低迷する日本は、このままだと世界に取り残されてしまう可能性も危惧される。
こうした背景を受け、東京都は本気で女性活躍推進に取り組む。「女性リーダー育成プログラム」を進めることで、女性が自分の生き方に自信を持ち、リーダーになることを当たり前に選択できる社会を目指している。では、そのプログラムの内容はどのようなものなのだろうか。第1クールの参加者2名に、受講しての感想と自身に起こった変化について、話を聞いた。
多様性の時代、“私らしい”リーダー像を見つける
10人ほどの顧客サービスチームで主任2年目を務める三井住友信託銀行の中山萌恵さんは、本プログラムに参加したことで自分が目指すリーダー像が明確になったと明るい表情を見せる。
「私は前に立ってメンバーを引っ張っていくのがあまり得意ではないので、リーダーとしての在り方にずっと悩んでいました。でも全4回あるプログラムの1回目に、部下の意見に耳を傾け、部下をサポートする『サーバントリーダーシップ』というリーダーのスタイルもあると学び、『それならできる』と自信が持てるようになりました。いまは、メンバーのモチベーションを上げ、ひとりひとりが100%のパフォーマンスを発揮できるような、寄り添い・共感型のリーダーを目指しています」(中山さん)
ひと昔前まではトップダウン方式で、部下に対して指示・命令を行う「支配型リーダーシップ」がリーダーの特徴的資質とされた。けれども、DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)が重視されるいまは、リーダーに求められる資質にも多様性が必要とされており、中山さんのような「寄り添い型」リーダーへの期待も高まる。
もちろん、組織には「ぐいぐい引っ張っていくタイプ」のリーダーも必要だ。中山さんとは対照的に「自分はそのタイプかもしれない」と分析する、資生堂パーラーの人事総務グループマネージャー・谷口裕望さんは、本プログラムに参加して視野が広がったと語る。
「私は新卒で入社して以来、ずっと資生堂パーラーで働いてきました。女性管理職のロールモデルが限られているなか、キャリアを重ねて転職してくる方や、自身のキャリアプランに管理職を描いていない社員もいて、私のやり方で合っているのかどうか、漠然とした不安を抱いていました。ですが、プログラムで最新のコミュニケーション術や周囲への接し方を学ぶことで、私には私の役割があり、私の経験を必要とする人もいるのだと納得することができました」
業種を超えたネットワークで世界が広がる
また、中山さんも谷口さんも、ディスカッションやペアワークなど参加者同士の交流が多く組み込まれたプログラムのコンテンツに対して、能動的に受講できたと感想を述べる。
「4人くらいのグループに分かれて5分ほどお互いに意見を出し合う機会が、数多く設けられていました。和気あいあいとして意見が言いやすい環境で、充実感がありました」(中山さん)
「女性は“共感の生き物”といわれますが、グループワークやディスカッションで自分が抱えている不安を打ち明け、共感してもらえたことで、力づけられました。座学で知識を詰め込むだけではない、精神的にも安心できる場でした」(谷口さん)
参加者同士はもちろん、講師やゲストスピーカーと意見を交わす機会が多いのも本プログラムの特徴だ。ゲストスピーカーとして招かれた企業で活躍する女性リーダーから、苦労した経験や課題の乗り越え方を聞くことで、「女性リーダーとして活躍する、未来の自身の姿」をより明確にイメージできるようになる。
こうした、いわば「女性リーダーの最前線を走るロールモデル」と自分との共通項を見つけながらプログラムを受けられたのも、勉強になったと中山さんは話す。
「自信を持って活躍されているように見える方にも、不安や悩みがあることがわかり、安心できました。しかもその悩みは、業種に限らず共通することも多く、私も悩んでいる自分を許容しながら頑張っていけばいいのだと勇気が持てました。また、診断テストなどのコンテンツが用意されており、自分のタイプを把握してから目指すべきリーダー像を掘り下げていったので、他人事にせず、自分と向き合うことができたと思います」(中山さん)
一生使えるスキルを学び、仕事も人生も豊かに
「勤務先は研修が充実している」という中山さん。ただ、自社での研修は、同質の意見が出やすいように感じることもあるという。また、業務に直結する内容が多いため、業務から少し離れて仕事そのものの意義や生き方を学べた本プログラムは、女性リーダーとしてだけでなく、人間力を磨くという意味でも有意義だったと振り返る。
「プログラムの1回目で、自分のためだけでなく、相手の幸せを考えて行動するのが仕事の本質だということを教えていただきました。2回目、3回目で教わった、ストレスへの向き合い方や、欠点を伝える際の言い換え術、叱る方法など、具体的で実践的な内容も非常に役立つものでしたが、初回に仕事への向き合い方を教えていただいたことで、仕事そのものに対して前向きな気持ちになれたのは、すごくよかったです」(中山さん)
本プログラムでは、多様なリーダー像を知ることで“私らしい”リーダー像が描けるようになるのにとどまらず、働き方や生き方における課題や不安の解決法を学ぶことで、仕事も人生も豊かにできるようになるといえそうだ。
「結婚、出産、育児とライフステージが変わる可能性があることを考えたときに、ライフプランとキャリアをどのように組み合わせていけばよいかのヒントもつかめました。私にとって、仕事と人生は切り離すことができません。そういう意味でも、このプログラムは仕事のスキルやリーダーとしての考え方が学べるだけの場でなく、人生も豊かにできる時間だったと思います」(中山さん)
「仕事もプライベートも、楽しいことばかりではありませんが、大変なことや、つらい経験も自分の糧になり、それが人生の深みにもなっていくと伝えられるリーダーになれたらいいなと思いました。『女性リーダーのロールモデルになる』というのはおこがましいですが、しなやかに生きていく姿を見せることで、『こんな人もいる』と思ってもらえる存在になれたら、と考えています」(谷口さん)
これからリーダーを目指す人、リーダーになりたての人にこそ参加してほしい
11月からは本プログラムの第2クールがスタートする。開催場所は、今回の取材が行われた「はたらく女性スクエア」(東京都渋谷区神宮前5-53-67 コスモス青山地下1階 EAST-A2)を予定している。日々頑張っている女性がほっとできて元気になれる場所として、2024年9月にオープンした東京都労働相談情報センターの新しいブランチだ。
プログラムでの学びを経て、谷口さんは「これからリーダーを目指す方やリーダーになりたての方にこそ、このプログラムを受けてほしい」と力を込める。
「役職がついてくると、孤独感を覚えることも息苦しさを感じることも増えてきます。そういうときに、このプログラムのように会社外で視点や切り口を変えられる場があることは、すごく貴重だと感じました。仕事も含め、自分の人生を見つめ直し、充足させるいい機会にもなると思うので、リーダーになるのはまだ先という方も積極的に受けてほしいと思います」(谷口さん)
「リーダー2年目の私でも、背伸びせずありのままの自分を受け止めてもらえる安心感があり、緊張せずに取り組めるプログラムでした。リーダーになる前の方でも『自分はまだリーダーではないから』と考えず、たくさんの方に参加を考えてもらえるとよいのではと思いました」(中山さん)
「女性リーダー育成プログラム」への参加は、所属する企業が「東京女性未来フォーラム共同宣言」に賛同している必要がある。自社で女性リーダーを増やしていきたいと考える経営者にとって、この共同宣言へ賛同することは、確実に大きな一歩となるはずだ。本プログラムへの女性社員の参加申し込みとあわせて、この機会にぜひ検討してほしい。
「女性リーダー育成プログラム」 第2クール募集開始!
開催日程:2024年11月26日(火)/12月17日(火)/
2025年1月30日(木)/2月27日(木) 各日13:30~17:00
開催場所:はたらく女性スクエア(東京都渋谷区神宮前5-53-67コスモス青山 地下1階EAST-A2)
企業で活躍する女性リーダーへの全4回(集合型・対面開催)のプログラムです。第2クールでは、女性リーダーとして一生使える基本スタンスを習得しながら、リーダーに必要不可欠な課題解決力を掘り下げます。ケーススタディによるリアルな学びや実際に企業で活躍するリーダーとの交流を通じて、他社の仲間と切磋琢磨し実践力を養うことを目指します。