設計の自由度が高い注文住宅。理想の家づくりに際して、注目しておきたいポイントは何か、そして現在のトレンドとは。住宅ジャーナリストの山下和之さんに伺った。

予算の範囲内でできるだけ高品質の住宅を

戸建て住宅の品質や居住性は、この20年ほどの間に著しく向上しました。しかし、住宅の品質・性能を高めるとなると、やむを得ないことながら、建材や設備なども高くなりますから、1棟当たりの住宅単価もこの間に高額化しています。注文住宅ともなると、大手ハウスメーカーの商品では、平均で1棟単価が5000万円を超えるものもあります。

一方、大手の中には、注文住宅の品質向上を図りながら、建売住宅にも力を入れたり、注文住宅と建売住宅の中間的な商品を打ち出すところも出てきています。さらに廉価な建売住宅を含めると、住宅市場は価格的に2極化、あるいは3極化していると見られます。

また、戸建て住宅を資産として考えると、以前は築20年以上の建物は、価値がほぼゼロになるといわれました。しかし、品質・性能が向上してきた今、立地にはよるものの、大手メーカーの高級注文住宅の場合、将来的な資産価値は維持されるだろうと見込まれています。

そのような状況から、注文建築で家を持とうと考えるなら予算の許す範囲で、できるだけ高品質・高性能の住宅を選ぶのが得策だと思います。

なお、注文住宅には、施主自らがデザインや間取り、仕様、設備等を選ぶフルオーダー式と、用意された数種類のプランを組み合わせて建てるセミオーダー式があります。

税の優遇措置もある長期優良住宅に着目を

高品質・高性能な住宅とは具体的に、どのようなものを指すのでしょう。一つの目安として長期優良住宅に着目しましょう。

長期優良住宅とは文字通り「長く快適に住み続けられる家」です。高い耐震性、省エネ対策や長期のメンテナンス計画など、8項目の基準を満たした住宅が認定されます。一般に手続きは事業者が行いますが、申請者は施主となります。

従来、日本の住宅の寿命は30年ほどと見られてきましたが、長期優良住宅の目標年数は、75年~90年ともいわれます。認定を受けると、所得税、登録免許税、不動産取得税、固定資産税などが減免される優遇措置もあります。

住宅・設備機器メーカー等で構成される住宅生産団体連合会の2023年度調査によれば、主要都市圏における注文住宅では、長期優良住宅が約86%を占めています。申請準備から認定までにかなりの時間がかかるのが、この制度のデメリットですが、申請するか否かはともかく、この制度への対応と認定実績がハウスメーカー選びの参考になると思います。

住宅を横並びで比較できる住宅性能表示の使い方

住宅品質を測るもう一つの物差しとして、住宅性能表示にも目を向けましょう。これは、住宅の安全・安心に関する共通ルール(基準)です。

住宅性能は「構造の安定」「火災時の安全」「劣化の軽減」「温熱環境・エネルギー消費量」など10項目に大別され、さらに各項目に細分化された基準値が、多くは等級のかたちで表されています。例えば「構造の安定」の「耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)」では、建築基準法に準じた躯体の耐震強度を等級1とし、その1.25倍が等級2、1.5倍が最高等級の3という具合に、等級が上がるほど高い性能を表します。

実際にその等級がどれほどの効力を持つのかは、専門的な知識がないと分かりにくいところがあります。しかし、全ての住宅に共通する基準ですから、これを用いて横並びに性能を比較することができます。

また、ハウスメーカーがどのような性能の向上に注力しているかも、等級からうかがえます。最近では、耐震性もさることながら、断熱性や省エネ性に力を入れるメーカーが多い傾向が見られます。ただ、安全・安心を確保するとはいえ、やみくもに等級の高い住宅を求めると、非常に高額なものになってしまいます。注文住宅で家を建てる場合、どこを重視するかを整理し、ハウスメーカーの担当者と相談することが肝要です。

注目度がますます高まるZEHエネルギー収支ゼロの家

最近の住宅の間取りでは、新型コロナ禍でリモートワークが普及したことから、夫婦それぞれにワーキングスペースを設ける例が増えています。家族とのコミュニケーションをとりやすく工夫した空間づくりなども、よく見られます。

山下和之(やました・かずゆき)
山下和之(やました・かずゆき)
住宅ジャーナリスト。住宅・不動産分野を中心に新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動中。主な著書に、『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド 2022-23』(講談社MOOK)、『住宅ローンに強くなる講座』(近代セールス社)などがある。また、講談社の「現代ビジネス」、プレジデント社のPRESIDENT Online、ダイヤモンド社の「ダイヤモンド不動産研究所」、JBpressなどのポータルサイトに定期的に原稿を執筆している。

さらに近年のトレンドとして挙げられるのがZEHゼッチ(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)、すなわち住宅設備等により、エネルギー収支をゼロ以下にする家です。併せて、太陽光発電と蓄電池を組み合わせた設備のニーズが高まっています。

東京都は来年度から、新築住宅に太陽光発電設備を義務づけますが、SDGsに代表される環境意識に加え、地震やゲリラ豪雨などによる最近の停電の頻発が、背景としてあるのかもしれません。

太陽光発電の電力は、発電しない夜間には使えませんが、蓄電池があれば日中に発電した電力を夜間に使えます。電気自動車を持っていれば、蓄電容量の大きいバッテリーの電力も家庭用に利用できます。

太陽光発電の規模と蓄電池の容量にもよりますが、この設備で2~3日は電気が使えますし、さらに電気自動車があれば1週間ほどの電気は賄えます。災害などで停電が長引いたときなど、多少の不便はあっても生活にそれほど不自由することはないでしょう。もちろん、このユニットで平時の購入電気量を削減できますから、家計に貢献することは言うまでもありません。

家族と暮らしの「今」に加え将来も見据えた家づくりを

高品質住宅は、環境にもお財布にも優しい住まいと言えますが、実は体に優しい住まいでもあります。高断熱で冷暖房効率が良く、屋内の温度が安定していれば、冬のヒートショック、夏の熱中症のリスクは大幅に低くなります。特にヒートショックの発生率が高いのは、寒冷な地域と思われがちですが、東京都健康長寿医療センターの2014年の発表によれば、実は香川県、兵庫県、滋賀県と比較的に温暖な地域です。1年を通じて、暑さ寒さによるストレスのない住環境は健康に貢献します。

その一方、住宅の長寿命化により、考えておくべきこともあります。それは将来、家をどう使うかです。子世帯が引き継ぐのか、借家として利用するのか、あるいは売却するのかといったことです。例えば、老後の備えとして家を建てる際に、2階建てから平屋にリフォームしやすい構造にした例もありますし、老後は、借家として利用して生活に便利な駅近のマンションなどに移るという選択肢もあります。今日では、子世帯が親の家を引き継がない例が非常に多くなっています。それでも、家が長寿命で健在ならば、その活用法も家を建てる際に考慮した方がよいでしょう。

注文住宅は、設計の自由度が高く、好みの家を実現できるのが魅力。また、大手ハウスメーカーの場合、営業担当者だけではなく、打ち合わせに設計担当者が同席することもあります。家族と暮らしの「今」のみならず、その将来のライフスタイルも考慮して、理想の家づくりを進めてください。

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