パナソニックとトヨタ自動車が出資し、2020年に発足したプライム ライフ テクノロジーズ株式会社。傘下にはパナソニック ホームズやトヨタホーム、ミサワホームといった大手ハウスメーカーと、建設会社の松村組、パナソニック建設エンジニアリングが顔をそろえ、とりわけ戸建て販売数では日本有数の規模を誇る。同社はグループとしての地盤固めに取り組んだフェーズ1を終え、2023年から次なるステージへ歩みを進めた。今年7月に新たに制定されたコーポレートメッセージ「未来をまちづくるPLT」とともに今後どのような価値を提供していくのか、同社代表取締役社長の北野亮氏にお話を伺った。

まずは各社合計の最高益に並び「利益体質」では合格点

――2020年に5社の統合により発足したプライム ライフ テクノロジーズ(PLT)ですが、傘下の各社はそれぞれ歴史ある有力企業です。統合にあたっては、いろいろご苦労もあったかと思います。

【北野】PLT発足からの3年間を当社では「フェーズ1」と称していますが、そのテーマとして、ひとつは利益体質の向上、もうひとつはグループとしての一体感を醸成し、事業上のシナジーを出していくという目標がありました。

前者についてはフェーズ1の最終年度に5社のこれまでの最高益を合算したのに近い数字を出すことができ、まずは合格点かと考えています。

後者については個社の枠組みを超え、PLTグループとして自走する形を取れるよう、積極的に施策を進めてきました。

たとえば各社に職能別の協同作業を仕掛けた「ワンハートチャレンジ」があります。調達部門でいえば、各社における独自の部材調達ノウハウを互いに教え合い、共有していくのです。これは有用性が高く、すぐに機能しました。

また地方の営業所などを回り、現場との意見交換を図る「ラウンドテーブル」を実施しています。私と西村祐副社長の2人で、合わせて百数十回行っており、対話した現場スタッフは3年間で1900人に達しました。

結果、フェーズ1の3年間で、「PLTがなぜ生まれたのか」「PLTはこれからどこに向かうのか」については、事業会社の多くの社員から理解を得ることができたと感じています。

北野亮(きたの・まこと) 1978年、松下電工株式会社(のちのパナソニック株式会社エコソリューションズ社)入社。25年間、家電商品を中心に商品企画に従事。その後、住宅設備・建材事業中心にキャリアを歩み、2012年にエコソリューションズ社・専務、2017年に同社・社長に就任。2020年1月より現職。
北野亮(きたの・まこと)
1978年、松下電工株式会社(のちのパナソニック株式会社エコソリューションズ社)入社。25年間、家電商品を中心に商品企画に従事。その後、住宅設備・建材事業中心にキャリアを歩み、2012年にエコソリューションズ社・専務、2017年に同社・社長に就任。2020年1月より現職。

新メッセージ「未来をまちづくるPLT」のもとで目指すこと

――今年7月に新コーポレートメッセージ「未来をまちづくるPLT」を打ち出されました。

【北野】2023年からフェーズ2に入って、フェーズ1で後回しになっていた戦略を展開しており、PLTブランドの確立もそのひとつです。フェーズ2では「家を建てること」から「まちをつくること」へのシフトが最大のテーマであり、国内での新築請負中心の体制から、ポートフォリオの多角化を図っています。コーポレートメッセージも、より実業に根ざしたものとなり、合わせて「4つの約束(ステートメント)」も発表しました。

「4つの約束」はそれぞれ、「空間資源を有効活用し、社会課題の解決に向けて、未来をまちづくる。」「住み替えたくなるまちから住み続けたくなるまちへ。まちの魅力を高めて、未来をまちづくる。」「生活の質を向上し続けるとともに、自分らしい居場所のあるまちへ、未来をまちづくる。」「まちの価値を創るバリューイノベーターとして、地域に根を張り、未来をまちづくる。」としました。

「空間資源の活用」とは、各地にある跡地や遊休地を“魅力あるまち”に仕立て直し、人口の流動化を進めること。「住み続けたくなるまちへ」では、グループ各社のくらし空間のプロがまちの魅力を高める活動を継続していきます。また人の移動や社会とのつながりに新しい技術を駆使して暮らしの質を向上させ、地域の人や地元企業とともに、まちの新たな価値を創造していきたいと考えています。

――全体として、デベロッパー機能を強化する方向なのでしょうか。

【北野】PLTグループは住宅の割合が高い傾向ですが、今後は個々の住宅をつくるハウスメーカーから、まちづくり全体を担うデベロッパーに変わっていこうと意図しています。既存のデベロッパーと同じことを行うという意味ではなく、既存のハウスメーカーやデベロッパーにはできない、新たな価値を創出していくことが狙いです。

私たちが「4つの約束」に込めた思いに、「物件を引き渡すことがゴールではなく、そこに住まわれる方にいかに寄り添い続けるかが大切なのだ」という考え方があります。

まちに住まわれる方も時とともにライフステージが変わり、提供すべきサービスも変化します。さらに、まちは世代の入れ替わりによって生まれ変わり続けます。そこに寄り添い、まちとそこに住む人の暮らしをより良いものにしていく、という考え方です。

――ある意味、これまで公共サービスが担ってきた分野に近い取り組みですね。

【北野】私はモビリティにしても、医療や教育にしても、今後は公と民とでボーダレスに充実させていくべき課題と考えています。官民で協力してカーボンニュートラルを実現し、低炭素社会を作っていく。ウェルネスも大事で、ハード、ソフトの両面から、そこに暮らす人を心身ともに豊かにしていく。いずれもPLTグループとパナソニック、トヨタ自動車との協力関係が活きてくる領域です。

もうひとつ、ハウスメーカーの強みとして、すべての従業員に「お客様に寄り添っていく」という強いマインドがあります。ハウスメーカーの場合、たとえば地震があったとき、あるいは台風で大雨が降ったとき、自分たちが建てた家にお住まいの方を心配して、その場に駆けつける。一人ひとりにそうしたDNAが刷り込まれているのです。それが先に掲げた4つの約束を実行していく上で、強い力になっています。

「家だけ」ではなく、まちとそこでの暮らしを提供する

――PLTによる新たな「まちづくり」を知る上で、参考になる事例はありますか。

【北野】2つの事例を挙げたいと思います。ひとつは昨年10月に「まちびらき」をした、福島県伊達市の『Up DATE City (アップデートシティ) ふくしま』です。

普通は宅地開発というと、区画を整理して家を建て、家を販売して、となるものですが、ここではまちづくりに地元企業に参画していただき、家は地域の工務店さんに建ててもらっています。

まちの中心部には、コミュニティ施設『U-プレイス伊達』を設けました。同施設は、コワーキングスペースやレストラン、ヘルスケアステーション機能を備え、集まる場としてだけではない、まちの中核機能を担っています。

『U-プレイス伊達』は地域住民であれば誰でも利用することができ、人々の新たな『居場所』としてその価値を提供。
『U-プレイス伊達』は地域住民であれば誰でも利用することができ、人々の新たな『居場所』としてその価値を提供。

障がいのある人も含め、いろいろな世代が集まれるよう、EV車の設置や交流スペース、キッズスペースを設けるなど、工夫をしています。ゴミステーションなども地元企業にお願いして、いつでも資源ゴミを出せるようにしました。また認定子ども園もまちの中に建設される予定です。

ここでは「家ではなく、まちとそこでの暮らしを提供している」と言っていいでしょう。

もうひとつは東京都大田区の『旧羽田旭小学校敷地活用事業』です。廃校となった小学校の跡地を活用し、製造業が多い地域の特性に合わせて、ものづくりの工場と共同住宅を同じ敷地内に建て、職住近接を実現しようとしています。

――統合の効果が徐々に浸透しているところだと思いますが、改めてグループ社員のみなさんに伝えたいことは何でしょうか。

【北野】2020年1月にPLTがスタートして、5年目に入りました。グループ発足までは私自身、異なる会社の人々がうまく融合できるか心配していましたが、実際にはPLTがスタートした瞬間、垣根は一切なくなったと感じています。それは「今後、PLTとして何をしなければいけないのか」という議論が始まったからです。

まちに何を実装していくのか、どうやってそれを実現するのか。達成すべき目標が存在することによって、「私はパナソニック ホームズだから」「トヨタホームだから」「私はミサワホーム出身だから」といった狭い考え方は消えていきました。

この先のPLTのまちづくりは、5社が混成部隊として担っていくことになります。大事なのは、「未来をまちづくる」というコーポレートメッセージと4つの約束をPLTグループ2万人の社員が読んで、何を思い、どう行動するかです。住宅建築、デベロッパー、ゼネコン、不動産仲介など、それぞれの職種の社員が現時点で備えているDNAがあり、それを持ち寄ってこそ、新たに掲げた目標も達成できます。

私たちは今、PLTとしてのブランド構築戦略を仕掛けようとしていますが、それは現場の声に応えるためです。現場で話を聞くと、「PLTというグループの一員であることに誇りを持ちたいし、またビジネス上のカードとしても使っていきたい」と言われます。経営への要望を聞いても、必ず出てくるのが、「PLTの認知度を上げてほしい」という言葉です。

PLTグループの貢献を世の中に知っていただくための、「機は熟した」と確信しています。