労働力人口の減少やテクノロジーの急速な進化により、企業の現場には解決すべき多種多様な課題が押し寄せている。近年、その解決策として注目されているのが「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」だ。「BPOは自社業務の単純な外注ではなく経営戦略の一端」と力を込めるパーソルビジネスプロセスデザイン株式会社の代表取締役社長・市村和幸氏に、その可能性を聞いた。

山積みの課題に苦しむ企業各社が注目するBPOという選択

少子高齢化が進み労働力人口が減少するなか、DXによる業務変革に大きな期待が寄せられている。しかし、アナログで行ってきた業務をテクノロジーの進化に合わせて変革することに難航したり、そもそもDXを主導する専門人材が不足していたりして、課題解決に苦戦している企業も少なくない。

さらに、コロナ禍でテレワークが浸透し、従来のはたらき方からの変革を余儀なくされたことが企業に追い打ちをかけている、とパーソルビジネスプロセスデザイン株式会社の代表取締役社長・市村和幸氏は指摘する。

「コロナ禍以前であれば『人が現場に行かないと成立しない』と考えられていた仕事も、実は遠隔操作などによって成立してしまうことに、社会全体が強制的に気付かされました。このことによって仕事へのアプローチも多様化し、各企業がその対応に追われています」

パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社代表取締役社長 市村和幸氏
市村和幸(いちむら・かずゆき)
パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社代表取締役社長。2000年テンプスタッフ株式会社(現 パーソルテンプスタッフ株式会社)に入社。同社の金融事業、人事部門の本部長を経て、2021年より同社取締役執行役員に就任。2023年4月より、パーソルホールディングス株式会社の執行役員 BPO SBU長およびパーソルプロセス&テクノロジー株式会社(現 パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社) 代表取締役社長に就任。

こうした過去に前例のない多種多様な課題に対して、「組織内のリソースだけで解決を図る」「経験者やスペシャリストを外部から採用・起用する」という一般的な解決策では対応しきれない場合がある。そこで、新たな解決法として注目されているのが、「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」である。BPOとは、バックオフィス業務や自社にノウハウのない業務などを、その分野の専門知識をもつ外部に委託(アウトソーシング)すること。では、外部人材活用とBPOはどのように違うのか。

「一般的な外部人材活用では、自社で人材が不足している分野に対して、外部リソースを活用します。一方、BPOは業務の企画や設計、施策の実行・分析までを一括して外部委託するサービスです。つまり、BPOは自社業務の単純な外注にとどまらず、経営戦略の一端として、業務改善や効率化が期待できるのです」と市村氏は説明する。

「ビジネスプロセスデザイン」とは

パーソルグループではBPOを中心とした業務委託やコンサルティングの支援など3000件を超えるプロジェクトを通じて、さまざまな業務の現場に関する知見を培ってきた。これを活かすべく2024年10月1日に設立したのが、BPO事業に特化した「パーソルビジネスプロセスデザイン株式会社」だ。

「海外の事例を見てみると、BPOプレーヤーはただ業務を引き受けるだけではなく、企業の戦略パートナーとして確固たる地位を確立しているケースが非常に多いです。当社でも、お客様と真のパートナーシップを築き、ビジネスプロセスを最適化するソリューションを提供しながら、課題解決や目標達成に向けて伴走していきたいと考えています。また、BPO事業の付加価値を高めるのは、多種多様なお客様のニーズに応えられる、幅広い人材です。その点においても、現場経験豊富な人材が揃うパーソルグループだからこそ提供できるサービスがあると考えています」

パーソルグループでは、新会社設立以前から幅広い分野でBPOサービスを展開してきた。行政、金融、インフラ業界からの信頼も厚く、さまざまな自治体、大手電力、通信会社からも業務を受託。案件によっては、コールセンター業務をはじめ、委託元企業のシステムを使って実際に開通業務を行うなど、専門知識が必要な範囲まで幅広く業務改善に貢献してきた。また、こうした事例のようにクライアント企業の内部に常駐し、業務改善を図るケースもあれば、業務ごと引き受けてパーソルグループ内で業務を遂行するなど、ケースバイケースで最適なソリューションを提案してきたことも、同社の特徴だ。さらに、近年は新しい傾向も見えてきたという。

「当社にすでにノウハウが蓄積されているジャンルに対しては、お客様に具体的なソリューションをご提供することもあります。一方で、たとえば法改正など、お客様にとっても当社にとっても未経験というケースも急増しています。そういった場合には、当局からの要請事項をしっかり読み解きながら一緒に試行錯誤します」

こうした取り組みは、パーソルグループが掲げる「ビジネスプロセスデザイン」「伴走」という言葉へと直結していく。

「当社では『業務を設計する』『プロセスデザインする』という言い方をしていますが、これは、過去のさまざまなプロジェクトで得た経験をもとに、お客様の状況を把握・分析し、業務改善・生産性向上に向けて最適な流れを作っていくということ。社会が多様化し、お客様が抱える課題もまさに千差万別になっています。だからこそ、当社では未知の課題にも果敢にチャレンジしていくことを大切にしています。成功よりも失敗から学ぶことの方が大きい、というのが私たちの信念。なぜなら、場数を踏むほど、次からはより強固なビジネスプロセスをデザインできるようになるからです」

BPOサービスを通じて、社会課題を解決する

では、BPOサービスを受けると、具体的にどのように生産性が上がっていくのか。パーソルグループの実際の事例を見ながら、ひもといていきたい。

パーソルグループでは、一般の事業会社のみならず、金融機関や自治体でもBPOサービスを提供してきた。その実績のひとつに、神戸市行政事務センターのプロジェクトがある。

おそらく、多くの人が「自治体は縦割り組織だから、DXや業務効率の向上がなかなか進まない」というイメージをもっているのではないだろうか。この神戸市のプロジェクトでは、市の職員とパーソルグループのスタッフが手を組み、縦割り組織を横串で結び付けた業務の効率化を実施。そして、約100のプロセスをパーソルグループが一元的に運営し、行政サービスの生産性向上を図った。コールセンター業務の改善は、そのひとつ。「つながりにくい」「適切な窓口がわかりにくい」といった課題に対して、コールセンターガイドラインを策定し、市民にとって利便性の高いコールセンターへと改善を図った。

「行政が目指すのは、市民によりよいサービスを提供すること。神戸市のプロジェクトでは、職員の方々にとっては業務が手離れして職場環境の向上につながり、さらに市民の方々のサービス満足度にもつながりました」

今後、どのような分野でBPOのニーズは高まっていくのだろうか。

「労働力人口の減少により、数年後など近い未来に立ち行かなくなる業務が増えています。そこで鍵となるのが、人によるオペレーションと、テクノロジーを活用した自動化・省人化の的確な使い分けです。とはいえ、組織内のリソースだけではDX推進に費用や時間的コストがかかってしまいます。こうした状況のなか、業務継続性を担保してほしい、というご相談が堅調に増えています」

想定される業務のひとつに、金融機関の契約オペレーションがある。従来であれば押印や目視でのチェックなど各プロセスで手作業が必要だったが、近年、オペレーションの見直しを迫られているという。

「アプリやインターネットでの情報入力などデジタル化が可能な部分は省人化され、法律面など厳重な取り扱いが必要な部分に人が注力するといった形式に、これからどんどんシフトしていくことが考えられます。そういった際に、まさに役に立つのが、BPOサービスなのです」

パーソルグループが目指すのは、テクノロジーの活用と人材の専門性を組み合わせた最適なプロセスを構築し、生産性向上に貢献していくこと。最後に、市村氏は力を込めてこう語った。

「BPOは、混迷する現代社会を生き抜き、企業価値を高めていくための絶好の手段です。当社のミッションは、『あらゆる仕事と組織を革新し、より良いはたらく環境があふれる社会をつくる』。パーソルグループの組織力と、創業以来培ってきた知見は、お客様、ひいては社会全体の生産性向上に役立つと自信をもっています。お客様に伴走し、真のパートナーシップを築きながら、社会全体の課題解決に真摯に取り組んでいきます」