潜在的なニーズを
掘り起こす“技術力”

中本 晃●なかもと・あきら
株式会社島津製作所
代表取締役社長
1945年鳥取県境港市生まれ。1969年大阪府立大学工学部電子工学科卒業後、同年株式会社島津製作所に入社。執行役員(分析計測機器事業部長)、常務取締役、専務取締役などを経て、2009年6月に代表取締役社長に就任。子どもの頃から柔道に親しみ、好きな言葉は「精力善用・自他共栄」。

「自分の仕事に誇りを持っていますか?」「その仕事は社会の役に立っていますか?」。こう聞かれたら、あなたならどう答えるだろう。この質問に社員の9割以上が「はい」「そう思う」と回答する企業がある。島津製作所だ。

「当社では定期的に企業倫理アンケート調査を行っていますが、“仕事に誇りをもっている”と“社会に貢献している”との回答は、毎回高い。これが私たちの何よりの強み。創業以来137年間受け継がれた“伝統”でしょうね」と中本晃社長は笑顔で話す。

「科学技術で社会に貢献する」という同社の社是。また今年の春に制定した「Excellence in Science」というブランドステートメント。そこに共通するのは、科学技術に対する熱い想いだ。創業者の初代・島津源蔵は、理化学器械の製造販売で科学知識の普及に努めた。その志を継いだ2代目の島津源蔵は、日本で初めて医療用X線装置や小型蓄電池などを開発し“日本のエジソン”と称された。

「世の中の役に立つことが、科学技術の使命」と中本社長が明言するとおり、確かに同社の製品は分析計測機器、医用機器、航空機器、産業機器など、どれも先端技術で現代社会に寄与するものばかり。それでも中本社長が心がけているのは、“島津の技術”が本当に「社会の安心・安全」「産業の発展」「文化の向上」に役立っているかどうか、という問いかけだ。

「社会に貢献するには、お客様が“潜在的に望んでいるもの”をつかむ力が不可欠です。独創技術はその実現のために必然的に生まれてくる。私は“ニーズを感知する力”も、技術力の1つだと考えています」

研究機関や先進企業との
開発プロジェクトも

島津製作所の分析計測機器は、研究開発の現場で使われることも多い。自動車や製薬、食品、ナノテクなど、その分野は広範だ。中本社長のいう“ニーズ感知力”には、「マーケット・イン」の考え方が根底にある。

「いまお客様が何を望んでいるのか。それをつかむにはユーザーの身近にいることが大切です。大学や研究機関との共同研究、そして先進メーカーとの共同開発など、現在さまざまなプロジェクトが世界各地で進んでいます」

さらに同社の特徴として強調するのが「ソリューションの提供力」だ。

「装置というのはハードだけではダメ。ソフトウェアがあり、さらに用途に合致したアプリケーションが機能してはじめて“価値”となる。またときには付属品が必要になるかもしれない。安定運用のためのサポートやサービスも当然いる。これらをすべて提供できて、島津の“ソリューション”になるのです」

加えてもう1つ、決定的要素といえるのが「技術者一人ひとりの“頭”」と中本社長は言う。

「お客様のその先のお客様まで思いをはせる。そして多様な分野に興味をもつ姿勢と意識。これが最も大事。当社には昔から“まずやってみよう”という挑戦心を育む風土があります。この伝統がいま、お客様の要望に迅速に応え、形にする元となっているのです」

島津製作所では2011年を初年度とする「中期経営計画」を推し進めている。その基本方針は「真のグローバル企業へ“世界の顧客に選ばれるNo.1パートナー”を目指して」。先進国から新興国まで、世界各地に“科学技術”への膨大なニーズがある。「それぞれ要求されるものをきっちりと提供していく。それが事業というものであり、真のグローバル企業への道だと考えています」。世界に頼られる企業へ、島津ブランドが駆ける。