例えば患者に緊張や不安、威圧感を与えてしまうと注射針がうまく入らず、注射1本スムーズに打てないこともある。しかも患者の受け止め方は十人十色、置かれた状況は千差万別だ。
「患者=顧客がどういう状態にあるかを察知し、それにふさわしい対応は何か、と考えることが接遇の第一歩です。例えば『患者にわかりやすく伝えるには、ゆっくり話すのがいい』と言われることがあります。しかし、せっかちな性格で早口で話す患者には、イライラする原因になるかもしれない。こちらの話すスピードを患者のペースに合わせることで、コミュニケーションがスムーズに行えることもあるでしょう。あるいは笑顔は大事と誰しも無意識に思っているが、研修では改めて『なぜ笑顔が大事なのでしょうか』と問いかけます。笑顔によって相手に何をプレゼントしているのかと、接遇の本質を考える機会を提供します。すると『安心感を与える』『信頼関係を築くため』『心を開いてもらいたい』『話しやすい雰囲気をつくる』など、参加者からさまざまな答えが返ってくる。笑顔一つでも、受け手によって一人一人感じ方が違うということに気づくことが、相手(患者)に寄り添う心への大きな一歩につながるからです」
接遇は形のないもの。提供する側が一瞬一瞬自ら考え、言葉を選び、行動することができる力を育てることを重視している。接遇研修にありがちな形だけのトレーニングではない。
「心が伴った接遇を提供できなければ、そこに意味はありません。
1つの質問で明快な回答を得られることは希(まれ)で、あいまいな答えしか得られないことが多いため、それを具体化していくよう対話を重ねる必要がある。具体的な質問ができるようになるには訓練が必要です。ワークショップ形式の研修は、その訓練に最適です。重要なのは、患者に接するとき、自分が患者だったらどうしてほしいかとの観点から、どう対応すべきかを徹底的に考えること。そして評価は相手=患者が下すということに気づくこと。その意識や姿勢をトレーニングするわけです」
ワークショップでは福岡氏の問いかけに対し、参加者一人一人が自分の答えを述べていく。そこには、不正解があるわけでもなければ、唯一無二の正解があるわけでもない。ただ、数多くの答えが存在することを知ることができる。
「接遇やコミュニケーションにおいてベストはほとんどなく、ベターがあるだけなのです」
福岡氏はコンサルティング中や研修後は必ずスタッフの成長ぶりを具体的な事象や客観的な評価も併せて組織のトップに伝える。トップは自ら選んで採用したスタッフの存在価値をさらに認め、スタッフは自らの能力と成長をトップに認めてもらえる機会となる。そして福岡氏の手腕はクライアントが患者に選ばれる医療機関になることで社会に認められる。
「『相互信頼』の連鎖、これこそが私が社名に託したわが社のミッションです」と笑った。