「子どもができないかもしれない」と不安がる彼氏の両親

「結局両親は卵巣の凍結をさせてくれました。現在も卵巣を一層取り出して何個かにスライスして凍結してあります。その一部を戻して妊娠に備えることになると思うのですが、まず組織として機能して採卵が可能かどうかが最初のハードルです。卵子を採れたとしても、子どもが生まれるまでには、いくつものハードルがあります」

家族以外に、この状況を話しても、一般的な不妊の話と同じだと、とらえられやすい。「そういうのとも違うんだけどなあ」と山本さんは違和感を覚える。

20代になってから付き合った元カレには、がんや凍結している卵巣のことをある程度理解してもらった。ところが、向こうの母親が全然受け入れられず、結局、別れた。

「かわいい息子を、出来損ないみたいな女にはやれない、と思っていたみたいです。現在、交際中の彼にも状況を話したが、ご両親も含めて温かく見守ってくれています」

制度で望むことは「相談窓口の整備」と「医療費助成」

現在は腫瘍に関して、小児科は年1回、卵巣機能低下に関する婦人科受診は3~6カ月ごとに1回通院していて、費用は、再診料だけなら数百円で、付随する検査等があれば数千円。また婦人科は処方薬があるので、診察とは別に5000円前後の支払いがあるそうだ。

「いま不妊治療は保険適応になりました。卵巣凍結や移植に関しても60万円ほどの助成があるようです。私としては、過去に遡って、凍結と移植に何らかの助成を受けられるといいなあと思います。

凍結更新も2年で2万円ほどかかります。助成でなくても、高額療養制度のように上限制にして欲しいと思っています。制度としては医療費の補填があると助かります。

そしてこの治療には、こういう助成があるということを、相談窓口などで患者に知らせてほしい。医療費が高くて、受けたい医療が受けられない人もいるはずです」

同僚や外部の医療従事者に自分のサバイバル体験を話すこともある。もっと状況を知ってもらい、医療にもケアにも役立ってほしいと考えている。

「今後は、がんの当事者として、病院内の看護師としてだけではなく、ケースワーカーやソーシャルワーカーの方たちとも連携し、小児医療や生殖医療の現場でも、チームを作ってAYA世代のがん患者をサポートしていきたいと思っています」(山本さん)。

AYA世代のがんは、国のがん対策で支柱の一つになっている。当事者たちの声を国はどう聞くのだろうか。その「生きづらさ」を社会で支え、解消していこうという取り組みが全国で求められている。

樋田 敦子(ひだ・あつこ)
ルポライター

明治大学法学部卒業後、新聞記者に。10年の記者生活を経てフリーランスに。女性や子どもたちの問題を中心に取材活動を行う。著書に『コロナと女性の貧困2020-2022~サバイブする彼女たちの声を聞いた』『女性と子どもの貧困』『東大を出たあの子は幸せになったのか』(すべ大和書房)がある。NPO法人「CAPセンターJAPAN」理事。