2024年4月、東京・渋谷に、Capital Tokyo International School幼稚部が開園する。南麻布にある小・中学部とともに、都心で国際バカロレア(IB)一貫教育を行う予定だ。設立したのは、事業家でエンジェル投資家の佐藤崇弘氏。「日本人のためのインターナショナルスクールを目指す」という佐藤氏に、学校設立に込めた思いを聞いた。

事業家が本気で考えた理想の教育

佐藤氏は、障害者向け就労支援や子どもの教育事業などを行うLITALICO(東証プライム上場)など複数のスタートアップを創業。起業家育成やスタートアップ投資などを行うエンジェル投資家としての顔も持つ。新しい学校の設立を思い立ったきっかけは、長男の小学校入学だったという。

事業家の他にも、スタートアップ企業に出資するエンジェル投資や財団法人設立など多岐にわたる分野で活躍する佐藤氏。
佐藤崇弘(さとう・たかひろ)
キャピタル東京インターナショナルスクール理事長
株式会社LITALICO創設者

「1人の先生が見る子どもの多さに衝撃を受けたのです。大人に置き換えてみると、1人の上司が40人近くの部下を直接育てる会社なんて見たことがありません。その違和感が起点でした」

無理がない体制で、質の高い教育を提供するにはどうしたらいいのか。佐藤氏は、これまでのビジネス経験から描いた、既存の公教育にはない「理想の学び」を実現するために、より自由度が高く、グローバル社会に合った形を模索。行きついた答えが、インターナショナルスクールだった。

「日本の伝統的な教育にも、世界に誇れる素晴らしいところはたくさんある。それを否定するわけではありません。ただ、そこになじまない子どももいるし、異なる教育を求める家庭も多い。選択肢を広げたいのです」と語る。

そうして設立されたCapital Tokyo International School(CTIS)の特徴の一つが、一人一人の子どもが「尊重されている」「見守ってもらえている」と感じられる“少人数教育”だ。小学部、中学部とも1クラスは12人以下。担任のほかに補助の教師もつくので、実質1人の先生が8人の子どもを見ることになる。「多くの“目”があれば、きめ細かく子どもをサポートできるし、子どもたちも安心感を持って学びに向かえる。いじめが起きる隙も生まれにくく、事故などのリスクも防ぐことができます」と説明する。

小学部の授業風景。全クラスで児童一人一人に対して、教員が丁寧なサポートを実施している。

誇りを持った日本人として世界を見据える

CTISのもう一つの特徴は、日本人としてのアイデンティティーと日本語を重視している点にある。

「既存のインターナショナルスクールの多くは、親も子どもも英語が堪能でないと入れません。しかし、大切なのは英語だけではありません。グローバル社会だからこそ、日本語で思考できる力と、日本人としてのアイデンティティーを大事にしてほしい。同様に、外国籍の子どもも、それぞれの国のアイデンティティーを保ちながら、日本の文化を理解してほしい。それでこそ、異文化を理解し、国際社会で活躍する力を身に付けられると考えています」

同校では、自由時間にも英語を強制することはない。文部科学省の学習指導要領に準拠した国語の授業を行うほか、中国語の授業もあり、3カ国語を学べるところもユニークだ。さらにCTISでは、全学年でIBのカリキュラムを採用している。先に開校した小学部はIB候補校になっており、幼稚部や中学・高校部(26年設置予定)も申請準備が進む。「IBのカリキュラムは、私たちが理念でもうたっている『異文化理解力、実践力、問題解決力』という重要な力を培うのにぴったりです。また、卒業後の進学の選択肢が国内、海外ともに大きく広がることも大きい」と佐藤氏は話す。海外の大学はもちろん、最近は日本でもIB入試を採用する大学が増えており、旧帝大や慶應、早稲田などの有名難関校はもちろん、全国の多くの大学でIBスコアによる受験が可能なのは大きな魅力だ。

国際社会で活躍する力を育むIB教育に加え、実践型教育に力を入れているところにも、佐藤氏の思いが反映されている。自身が小中高大と地方の公立校に進み、暗記中心の勉強に漬かったからこそ、「覚えたことを試験でアウトプットするための勉強ではなく、学校と社会でのギャップを埋める、実践型の学習を提供したかった」という。

それを実現しているのが、STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)のクラスだ。プログラミング、音楽や演劇、ダンスなどを学ぶほか、一つの事象を、国語、算数、理科、社会などの科目の垣根を取り払って、幅広い視点から捉える学際的な学びを提供する。

また、課題解決型学習(PBL:Project Based Learning)も非常に実践的だ。佐藤氏の事業家・投資家としてのネットワークを活用して、各分野の専門家やビジネスパーソンを講師に招き、子どもたちはそれぞれのテーマで研究プロジェクトに取り組む。小学部では昨年、起業家を招いてサラダの商品開発体験を実施したという。

「ほかにも、IT、農業、ホテル、病院などさまざまな企業とのつながりがあるので、こうしたテーマに社会貢献を組み合わせたPBLができると考えています。子どもたちには将来、プライドを持って好きな仕事に就いてほしい。世の中には多様な仕事があり、可能性が無限に広がっていることを早いうちから知って、仕事観を養ってほしいのです」と佐藤氏は力を込める。

教室から外の世界へ立地を生かした多彩な学び

PBLに象徴される通り、CTISの学びは、校舎の中だけにとどまらない。来春開園する幼稚部(認可外保育施設)が入るのは、今年11月に誕生する、渋谷駅隣接の大規模複合施設「Shibuya Sakura Stage SAKURAタワー」だが、近隣のフットサル場でのサッカーや、提携先スポーツセンターでのスイミングなどの授業もあり、Shibuya Sakura Stage内の菜園も活用する予定だ。こうした「クラスルーム(教室)からリアルワールド(現実世界)へ」と広がる体験で、子どもたちは、心身の健康や探求心、好奇心、チャレンジする姿勢を育み、高校まで続く一貫教育の地盤をつくる。

2023年11月30日竣工の渋谷駅隣接「Shibuya Sakura Stage SAKURAタワー」に開園するCTIS幼稚部。

「学校を存続させることは大前提ですが、事業として拡大することは考えていません」と語る佐藤氏。CTISには、未来を生きる子どもたちに必要な力を育むための佐藤氏が考える「学びやの理想」が詰め込まれている。この「首都東京」という名を冠した“新しい学びや”から、どんな日本人が世界に羽ばたいていくのだろうか。