事業家が本気で考えた理想の教育
佐藤氏は、障害者向け就労支援や子どもの教育事業などを行うLITALICO(東証プライム上場)など複数のスタートアップを創業。起業家育成やスタートアップ投資などを行うエンジェル投資家としての顔も持つ。新しい学校の設立を思い立ったきっかけは、長男の小学校入学だったという。
「1人の先生が見る子どもの多さに衝撃を受けたのです。大人に置き換えてみると、1人の上司が40人近くの部下を直接育てる会社なんて見たことがありません。その違和感が起点でした」
無理がない体制で、質の高い教育を提供するにはどうしたらいいのか。佐藤氏は、これまでのビジネス経験から描いた、既存の公教育にはない「理想の学び」を実現するために、より自由度が高く、グローバル社会に合った形を模索。行きついた答えが、インターナショナルスクールだった。
「日本の伝統的な教育にも、世界に誇れる素晴らしいところはたくさんある。それを否定するわけではありません。ただ、そこになじまない子どももいるし、異なる教育を求める家庭も多い。選択肢を広げたいのです」と語る。
そうして設立されたCapital Tokyo International School(CTIS)の特徴の一つが、一人一人の子どもが「尊重されている」「見守ってもらえている」と感じられる“少人数教育”だ。小学部、中学部とも1クラスは12人以下。担任のほかに補助の教師もつくので、実質1人の先生が8人の子どもを見ることになる。「多くの“目”があれば、きめ細かく子どもをサポートできるし、子どもたちも安心感を持って学びに向かえる。いじめが起きる隙も生まれにくく、事故などのリスクも防ぐことができます」と説明する。
誇りを持った日本人として世界を見据える
CTISのもう一つの特徴は、日本人としてのアイデンティティーと日本語を重視している点にある。
「既存のインターナショナルスクールの多くは、親も子どもも英語が堪能でないと入れません。しかし、大切なのは英語だけではありません。グローバル社会だからこそ、日本語で思考できる力と、日本人としてのアイデンティティーを大事にしてほしい。同様に、外国籍の子どもも、それぞれの国のアイデンティティーを保ちながら、日本の文化を理解してほしい。それでこそ、異文化を理解し、国際社会で活躍する力を身に付けられると考えています」
同校では、自由時間にも英語を強制することはない。文部科学省の学習指導要領に準拠した国語の授業を行うほか、中国語の授業もあり、3カ国語を学べるところもユニークだ。さらにCTISでは、全学年でIBのカリキュラムを採用している。先に開校した小学部はIB候補校になっており、幼稚部や中学・高校部(26年設置予定)も申請準備が進む。「IBのカリキュラムは、私たちが理念でもうたっている『異文化理解力、実践力、問題解決力』という重要な力を培うのにぴったりです。また、卒業後の進学の選択肢が国内、海外ともに大きく広がることも大きい」と佐藤氏は話す。海外の大学はもちろん、最近は日本でもIB入試を採用する大学が増えており、旧帝大や慶應、早稲田などの有名難関校はもちろん、全国の多くの大学でIBスコアによる受験が可能なのは大きな魅力だ。
国際社会で活躍する力を育むIB教育に加え、実践型教育に力を入れているところにも、佐藤氏の思いが反映されている。自身が小中高大と地方の公立校に進み、暗記中心の勉強に漬かったからこそ、「覚えたことを試験でアウトプットするための勉強ではなく、学校と社会でのギャップを埋める、実践型の学習を提供したかった」という。
それを実現しているのが、STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)のクラスだ。プログラミング、音楽や演劇、ダンスなどを学ぶほか、一つの事象を、国語、算数、理科、社会などの科目の垣根を取り払って、幅広い視点から捉える学際的な学びを提供する。
また、課題解決型学習(PBL:Project Based Learning)も非常に実践的だ。佐藤氏の事業家・投資家としてのネットワークを活用して、各分野の専門家やビジネスパーソンを講師に招き、子どもたちはそれぞれのテーマで研究プロジェクトに取り組む。小学部では昨年、起業家を招いてサラダの商品開発体験を実施したという。
「ほかにも、IT、農業、ホテル、病院などさまざまな企業とのつながりがあるので、こうしたテーマに社会貢献を組み合わせたPBLができると考えています。子どもたちには将来、プライドを持って好きな仕事に就いてほしい。世の中には多様な仕事があり、可能性が無限に広がっていることを早いうちから知って、仕事観を養ってほしいのです」と佐藤氏は力を込める。
教室から外の世界へ立地を生かした多彩な学び
PBLに象徴される通り、CTISの学びは、校舎の中だけにとどまらない。来春開園する幼稚部(認可外保育施設)が入るのは、今年11月に誕生する、渋谷駅隣接の大規模複合施設「Shibuya Sakura Stage SAKURAタワー」だが、近隣のフットサル場でのサッカーや、提携先スポーツセンターでのスイミングなどの授業もあり、Shibuya Sakura Stage内の菜園も活用する予定だ。こうした「クラスルーム(教室)からリアルワールド(現実世界)へ」と広がる体験で、子どもたちは、心身の健康や探求心、好奇心、チャレンジする姿勢を育み、高校まで続く一貫教育の地盤をつくる。
「学校を存続させることは大前提ですが、事業として拡大することは考えていません」と語る佐藤氏。CTISには、未来を生きる子どもたちに必要な力を育むための佐藤氏が考える「学びやの理想」が詰め込まれている。この「首都東京」という名を冠した“新しい学びや”から、どんな日本人が世界に羽ばたいていくのだろうか。