自分で事業を創り、人の可能性を広げたい
「もともと教育事業には興味がありました。人の自己実現を助けることに強い関心があり、大学時代には教育系NPOを立ち上げたりしていました」
現在、『スタディサプリENGLISH』のプロダクト責任者を務める五月女さんは、2016年に外資系コンサルティングファームからリクルートに転職した。
「前職でも『いつかは教育系の事業をやりたい』という思いを持ち続けていました。『自分が当事者となって教育領域で事業を創る』という目標を実現できる環境を求めて、大手からベンチャーまで、さまざまな教育系サービスを観察していたんです」
そのなかで出会ったのがリクルートの『スタディサプリ』だった。経済的・地理的な理由から発生する教育環境格差を解消し、すべての人たちに学ぶ機会と楽しさを提供したいという『世界の果てまで、最高の学びを届けよう』の理念に共感した五月女さん。入社後、初めて取り組んだ仕事は、『スタディサプリENGLISH』の新商品提案だった。五月女さんが提案したのは、TOEICの学習をひとりで続けることが難しいユーザーに向けて、オンラインチャットや音声通話を通じて学習を支援するサービスだ。「パーソナルコーチプラン」としてリリースされることになるこのミッションを通じて、五月女さんは後の仕事につながる貴重な体験をする。
「企画段階で、モニター実験として30名くらいのユーザーに3カ月間、コーチングサービスを提供したんです。僕自身もコーチ役を務めたのですが、受講者が頑張っている姿を目の当たりにし、『五月女コーチ、点数が上がりました!』という喜びの声をじかに聞くことを通じて、『ユーザーに価値を生み出す』ことの面白さを体感したんです。そうした手触り感を持って、サービスのディテールまで踏み込んでいくことに大きな価値があると確信しました」
パーソナルコーチングの効果は明らかだった。3カ月間のコーチングを行った結果、平均100点以上、あるユーザーはTOEICのスコアが200点以上アップ。また、受講前は700点台だった外資系IT企業に勤めるユーザーは、受講後には950点を超えるスコアを獲得し、海外のクライアントに英語でプレゼンできるようになった。
「自分がつくったサービスによって、人の可能性を広げることができるんだ、と肌で感じた貴重な体験でした。自ら事業を創造し、高いモチベーションでドライブさせ続ける……その価値に気づいたのはこのときですね」
「英会話」領域強化への挑戦
パーソナルコーチプランの成功を経て、後に『スタディサプリENGLISH』のプロダクト責任者となった五月女さんは、学校・企業へのチャネル拡大に加えて、英会話領域を強化するという戦略に舵を切る。この決断に至った経緯を聞いた。
「英会話の領域を強化することを決意した理由は、一言でいえば、マーケットのポテンシャルと自分たちの思いが合致したからです。従来の主力商品であるTOEICに絞ってプロダクトを磨き上げていく、という選択肢もありましたが、マーケット全体を俯瞰してみたときに、ターゲットとなる層が広く、ポテンシャルがある領域は英会話です。そして自分たちの思いとしては、試験で高得点を取るだけにとどまらず、英語を話せるようになることを目標にしてほしい。その結果、自らの可能性を広げていってほしい、と考えていました。それらを踏まえた議論の結果、英会話領域のさらなる強化を戦略に掲げました。マーケットのポテンシャルと自分たちの思い、その両方があったからこそ迷うことなく意思決定できたのだと思います」
さらに、英語学習を取り巻く環境の変化もあった。
「コロナ禍以前から、新しいスピーキングテストが登場するなど、ビジネスシーンや学校でも、読む、聞くだけでなく、書く、話すも合わせた4技能が求められるという風潮が日に日に強くなっているのを感じていました。その意味でも、TOEIC対策に重心を置いた事業ポートフォリオを早期に見直し、商品ラインナップの拡充を図る必要があると判断しました」
そのとき既に『スタディサプリENGLISH』は幅広い年齢層を対象にした英会話アプリを提供していた。しかし、対象としていた年齢層が幅広かったからこそ、当時メインのユーザーだったビジネス層に対して、本当に欲しいコンテンツを提供できていないという課題があった。また、実践的な英会話を身につけるためには、「講師とマンツーマンで話す」「講師からのフィードバックを受ける」など、さまざまな要素が必要となる。五月女さんの胸中には、従来のサービスでは、ユーザーのニーズに十分に応えられないという思いがあった。
「英会話アプリを、ユーザーの学習目的に合わせられるように大幅リニューアルしました。さらに2年前には、オンライン英会話の『ネイティブキャンプ』と提携し、アプリを使ってインプット学習した内容を、オンライン英会話でアウトプットするという提携商品をリリースしました。英会話分野は、これからマーケット開拓に注力していくというフェーズ。『スタディサプリENGLISHは圧倒的に学習成果が出る』と言われるようにしていきたいと思っています」
事業への「オーナーシップ」が日々強くなっていく
入社以来、次々と新企画を生み出し、事業を推進してきた五月女さんがリクルートで仕事をするなかで驚いたのは、仕事を任されるスピードだ。
「入社して間もなく『パーソナルコーチプラン』の企画が採用されると、即座にプロジェクトリーダーを任されました。そして入社後1年3カ月でグループマネジャーに任用。その後、英語学習全般に担当領域が広がり、現在ではプロダクト責任者を経験させてもらっています。新たなチャレンジ機会が与えられるスピードは想像以上でした」
五月女さんは、この6年間に自身が成長した4つのポイントを実感している。
「第一は『オーナーシップ』。事業に関するどんなことでも、『自分がラストパーソンだ』という気持ちを持てるようになりました。第二は、『複眼で物事を捉えること』。物事を決断する立場になると、ユーザーへの影響やメンバーのモチベーション、事業の収支やリスクなど考慮すべきポイントが数多くあります。それらを複眼でジャッジするということができるようになりました。第三は、『物事を長いスパンで見ること』。新たなプロダクトの企画からリリースまでには2年以上の期間が必要になることもあります。より価値あるプロダクトを届けるには5~10年先の市場の変化も捉える必要があります。そのような長期的な視点で事業を考えられるようになりました。そして第四が『リーダーシップ』。プロダクトのビジョンや戦略を語って組織を導きながら、メンバーが最大限力を発揮できる環境を整えることを意識するようになったと思います」
なかでも、「自分が当事者となって教育領域で事業を創る」という明確な目標を持ってリクルートに入社した五月女さんにとって、オーナーシップは最大の成長ポイントだという。
「プロダクト責任者という立場になると、毎日が決断の連続です。厳しい決断を間断なく続けていくなかで、事業に対するオーナーシップが指数関数的に強くなっていくのを実感しています。また、自分が当事者となって描いた戦略や日々の決断で事業や組織が大きく動いていくため、『自分が事業をドライブさせている』という実感があります。これは事業会社だからこそ得られる、僕自身が本当に求めていた経験ですね」
日々の決断や事業の手触り感がオーナーシップを生み、さらに事業を成長させたいというモチベーションを高める好循環が生み出されている。
「この6年間はまさに『夢中になっていた』という感覚です。休み時間や休日にも『サービスをもっとこうしたら面白いことができるのに』『あの部分はこうしたらもっと良くなるかな』と、自然に楽しく考えるようになっていました。誰かに命じられてやっているのではなく、自分自身で『これがやりたい』と決めて動いているから楽しいし、成長を実感できるのだと思います」
五月女さんは、ワクワクした表情で今後チャレンジしたいことを語る。
「これまでも音声認識技術を用いた発話判定機能やAIを活用した学習リコメンド機能を提供していましたが、今後もテクノロジーを活用し、よりパーソナライズされた新しい学習体験を提供していきたい。また、今後は3~8歳をターゲットにした『スタディサプリENGLISH』の子ども向け商品も提供予定です。さらに大人向けでは、リカレント教育が重要となるなかで、企業研修、社会人教育など英語以外の新たなプロダクトを生み出せないかと検討しています。学ぶことは自己実現の助けとなる、人生の選択肢を広げる手段。これからも多くの人たちに向けて、着実に成果が出せる学習機会を提供していきます」