日本のDXの取り組みは世界的に遅れているといわれている。コールセンターのDXを支援するコムデザインの代表取締役社長・寺尾憲二氏はその理由を「日本企業のITリテラシーが低いからではなく、ITツールの提供の在り方が日本企業の実情に最適化されていないからだ」として、業界に向けて新発想のサービスモデル「CXaaS(シーザース(※))」を提唱している。

※Customer eXperience as a Serviceの略。ユーザーが理想とする顧客体験実現のため、機能だけではなく人的なサポートも含めた全てをサービスとして提供するビジネスモデル。

なぜ「スピーディー」かつ「追加0円」が実現するか

現在、国内有名企業を筆頭に多くのコールセンターでご利用いただいている「CT-e1/SaaS」は私が開発し、2008年に提供を開始したクラウド型音声プラットフォームです。コロナ禍を機にコールセンター業務にテレワークを導入する企業が増え、業績は右肩上がりで伸びています。しかし、事業を始めた当初から順調だったわけではありません。

3カ年の売上高、営業利益 単位:100万円

私は元は電電公社(現NTT)でソフトウエアを開発していたエンジニアで「インターネットと電話を融合した新しいプラットフォームを世に問いたい」との思いから1997年に独立し、コムデザインを設立しました。

当時の私は典型的な“技術屋”発想で「機能に優れた製品を作れば必ず売れる」と信じていました。実際、創業から3年ほどは順調でしたが創業間もないベンチャー企業にとって販路開拓は困難で、売れ行きは伸び悩みました。

企業にとってコールセンターはお客さまとの直接的な接点です。顧客対応を重視する企業ほどシステム選定は保守的であり、機能や価格よりも実績が重視されました。導入事例に乏しくブランド力もないベンチャーが入り込める余地は、そもそも少なかったのです。

私は技術一辺倒だったそれまでの姿勢を大いに反省し、自社にはどういう強みがあり、どのように提供すれば受け入れてもらえるかを真剣に考えました。そしてたどり着いたのが、現在の「CXaaS」と名付けたサービスモデルです。

当社が提供する「CT-e1/SaaS」はカスタマイズ性の高さが最大の強みです。例えば顧客企業から「こんな機能を実現できないか」とご相談いただければ、当社のFAE(フィールド・アプリケーション・エンジニア)が仕様を検討し、開発作業を含め実装に必要な対応を行います。

一般的なSaaSでは個別のカスタマイズを考慮せず提供されるのが一般的で、もし個別にカスタマイズ対応する場合には、エンジニアの稼働を考慮して追加で費用が発生することがほとんどです。そのため仕様が完全に固まるまで見積もりが出せず、稼働までには半年から1年近くの期間と数千万円の費用がかかるのが普通です。

対して「CT-e1/SaaS」では、カスタマイズに対して費用は頂いておりません。ですから基本構成ですぐに見積もりが出せますし、運用しながらシステムに変更を加えていくことも可能です。事実、とある自治体さまから依頼を受けたコロナワクチン接種予約の専用コールセンターは、最短5日で立ち上げました。

相見積もりを取られる提案中の顧客企業の中には「そんなにうまい話があるものか」となかなか信じていただけないこともあるほどです。なぜ当社では「カスタマイズ0円」「スピーディーな立ち上げ」が可能なのかといえば、次のような理由があります。

カスタマイズなど個別の開発作業で稼ぐビジネスモデルでは、要件ごとにコスト管理の必要性が生じるので「どこまで受けるか/いくらで受けるか」の調整が必要になります。しかし当社が提唱する「CXaaS」ではサブスク型の安定した収益を基に、あえて案件ごとの開発費用に関する複雑な折衝を切り捨てたため、プロセスがスリムになり、短納期かつ低コストでサービスを提供できるのです。

費用の問題を介在させなければ、全員の目指すところは「いかにお客さまの要望を実現するか/喜んでいただくか」で一致団結できます。そのため、例えば顧客企業の伴走役であるFAEにとっては、顧客企業や社内のシステム開発部門に対して「いい人」であることが重要になります。このことも「CXaaS」の重要な特長です。

寺尾憲二(てらお・けんじ)
株式会社コムデザイン
代表取締役社長
1961年、三重県生まれ。国立鈴鹿高専を卒業し、電電公社(現NTT)入社。97年にフュージョンアルファ(現コムデザイン)を設立し、現職。

成功している企業ほど顧客対応をいかにきめ細かく充実させるかに知恵を絞り、努力を重ねています。われわれはカスタマイズ対応をすることで、そのノウハウの一端に触れることができます。また多様なカスタマイズを実現するほど技術者の腕と「CT-e1/SaaS」の機能が鍛えられ、当社の評価と実績が積み上がっていくのです。

具体的な事例として、動画配信サービス大手の顧客企業とのプロジェクトは印象的でした。彼らはプロフェッショナルでホスピタリティの意識が高く、コールセンターでは一般的な電話をつなげたまま担当者が空くまで待たせるという運用以外に、折り返しの連絡予約も受け付けることを求めていました。そして、それを整然と管理し、混乱することなく運用可能なシステムを必要としていたのです。顧客からすれば間違いなく良い機能ですが、高度な開発作業が求められました。そして、それをやり切れると立候補し、選ばれたのが当社だったのです。容易ではありませんでしたが、開発は完了しました。そして、機能リリース以降も運用を通して設計段階では思い付かなかった意見を頂き、継続的に開発を行うことで理想とするシステムへと磨きあげていったのです。

同じコールセンター業務でも、業種によって抱えている課題はさまざまです。その多様なニーズに寄り添い、さらに継続的な修正対応をしているのが当社におけるカスタマイズの在り方なのです。

そもそも日本の企業は顧客サービスに対する意識が高く「サービスの質が落ちる可能性があるならレガシーシステムのままでいい」と、個別ニーズを満たせないシステムの導入をためらうケースが多々あります。システムを提供するベンダーも、顧客企業に十分に応えているとはいえないのではないでしょうか。カスタマイズ費用が高額になれば「コストが見合わない」と見送られるのも当然でしょう。

こうした企業とベンダーの距離を埋める仕組みこそ「CXaaS」の核心です。ベンダーは企業ごとの個別ニーズに技術力をもってアジャストしていく、それによって製品が磨かれ導入事例が増えるほどベンダーは成長できる。顧客企業のDXが進んで社会はより豊かに快適になっていく──。「CXaaS」がもたらすのは、まさにこうした“三方良し”のビジネスなのです。

当社の提唱する「CXaaS」の取り組みが、日本のDXを推進するベンダーのモデルケースになればいいとの思いで、日々精進しています。