「精度追求は使命感のようなものでしたけれど、まさかそこまでとは思っていませんでしたね」
と苦笑いを浮かべながら話す平賀聡さんはムーブメントの組み立て師。精度の要となるひげぜんまいの調整を当時から手がけている。
「同じ部品でも微妙に形状が異なるため、手作業で調整して精度を高めていくのですが、これが本当に難しい。たとえ精度をクリアしても少しでも改善点があると上司のOKが出ない。妥協せず完璧なものをつくれとよく言われたものです」
約3年の歳月を要して新規格の機械式ムーブメント「9S」は完成を見た。超えるべき壁の高さに屈しそうになっても「先人に恥じないGSを」という一心で乗り切った。そして後進の育成を担うようになった今は多少なりとも思うところがある。「自分たちを超えてみろ」と。人は変われど強靱な意志は時代を超えて継承される。GSの時計づくりの系譜はまさにその好例に思われるのだ。
「グランドセイコー」(SBGR051)。
GS専用のムーブメントとして開発された「9S65」を搭載。各部品のブラッシュアップにより基本性能、持続時間ともに一段と向上が図られた。
ケース、ブレスレットともにステンレススチール。
ケース径37mm。
自動巻き(手巻き付き)。
36万7500円
Series グランドセイコー物語<全5回 index>
第1回 合言葉は「100年後」
第2回 「1つ上」の使命
第3回 「美」に近道はない
第4回 「シンプル」のすごみ
第5回 「コンマ1」の必然
(構成・文/デュウ 撮影/山下亮一)