英国ではいま、温かいテイクアウト食品に課税する、通称「パスティ(肉や野菜を入れて焼いたパイ)税」が議論の的となっている。一方の日本は消費税増税論議が盛んだ。だが、増税の前にやるべきことはないのか。「オウチーノ」などの住宅情報サイトを運営する、(株)オウチーノの井端純一社長に話を聞いた。
(株)オウチーノ 代表取締役社長
同志社大学文学部新聞学(現メディア学)専攻卒。リクルートを経て、『週刊CHINTAI』『ZAGAT』取締役編集長などを歴任。2003年、ホームアドバイザーを設立。「新築オウチーノ」「中古オウチーノ」「リフォーム・オウチーノ」「建築家オウチーノ」並びに賃貸専門サイト「キャリルーノ」「オウチーノ総研」などを運営。著書に『広報・PR・パブリシティ』(電通刊)等がある。
実質的な負担は
欧米並みの日本の消費税
日本の消費税負担は、欧米諸国に比べて低いといわれます。税率だけを見ればそのとおりですが、食料品など暮らしに欠かせぬ品目には、各国とも非課税、もしくは軽減税率を適用しています。住宅取得時の税率も例外ではありません(図参照)。一方、一律に課税しているわが国の歳入に占める消費税収入の割合は、実質的にすでに欧米と肩を並べているともいわれています。
しかし、政府は社会保障の維持やそれにともなう財政破綻の回避を理由に、増税やむなしのムードをつくっています。意図的とも思えるほど遅い復興予算の成立などその最たるものです。あたかも、「消費税の増税なくして、復興予算なし」を国民に印象づけんがためのように。
本当に、増税は必至か。進まぬ議員定数・歳費の削減、民間と比較してはるかに高額な公務員給与、そして350兆円とも400兆円ともいわれる、国会の議決を経ずに使い放題の特別会計など、「身を切る改革」はほぼ手つかずです。そもそも、1997年に消費税を3%から5%に引き上げたときの名目「福祉を充実させる」を、いま実感できますか。
ひとつ、例を挙げましょう。
銀行窓口で同行他支店宛てに振り込みをする場合、一般に315円の手数料がかかりますが、3万円を超えると525円となります。業務の手間は同じなのに、手数料が210円も増えている。おそらく3万円を超える領収書に貼る収入印紙代だと思うんですね。本来は文書を作成する側――この場合は、銀行が負担すべき金額なのですが、それについてはここでは措くことにします。
印紙税は、17世紀のオランダで戦費の調達のために"発明"されたものです。その後、欧米諸国が次々に導入し、日本では西南戦争の戦費調達のために導入されたそうです。先進国では大抵の国で廃止されていますが、わが国だけは今も存続しています。その額、1兆円超。ここにも、既得権益は何が何でも手放さないという、この国の特質がよく表れています。
住まいの税制優遇を
住宅取得にあたっては購入価格に加えて、この印紙税や消費税など多額の費用が課せられています。しかし、住まいは生活の必需品であり、一般の耐久消費財と同列に扱うべきではないはず。故に、欧米諸国は一部の例外を除きほぼ非課税としています。
国土交通省はいま新築中心の住宅市場から、リフォームにより住宅ストックの品質・性能を高めるストック型市場へと転換するための環境整備を進めています。これについては私も全面的に賛同しますが、それだけではまだ足りません。
たとえば、米国のように住宅2軒分まで非課税など、税制優遇の範囲を広げれば、それだけで流通が活性化し、金融機関・保険会社などにも好影響を与えることができます。ここまでやらなければ、日本経済の復活など望めません。ここが、欧米諸国との根本的な理解の差なのです。
消費税増税を含め、「菜種油と百姓は、搾れば搾るほど取れる」などという江戸時代のような旧態依然たる認識は、今すぐ捨て去るべきです。