GMT やクロノグラフを想定してベースから開発したスプリングドライブ、キャリバー9R。

当時の開発資料には「観る・触る」などのほか「聞く・第6感」といったおよそ時計の開発とは思えない項目が並ぶ。単なる工業製品を超えて人間の温もりや熱情を感じさせるクオーツ開発は、93年の9Fとして結実し、今もなお最高峰として継承されている。

クオーツ開発で培った技術は以後の開発の基盤となったが、その1つがスプリングドライブだ。これは機械式と同様にぜんまいの力を動力としながら調速機構にクオーツのメカニズムを用いた独自の駆動方式で、機械式時計の進化形として、また環境に優しい電池レスクオーツ時計を追求してセイコーが到達した地平だ。

平谷榮一さん
セイコーエプソン、ウオッチ事業部W商品開発部。1992 年入社。99年より「9R」の開発チームに加わる。クロノグラフ開発のスペシャリスト。

「98年に実機化しましたがそれは手巻き式、最大巻き上げで2日間持続でした。しかしGSにとって理想のムーブメントを考えれば自動巻き式、かつ3日間持続でなければならなかった。そのため基本設計から見直したのです」

平谷榮一さんはGS向けスプリングドライブの開発当時をそう振り返る。開発はその後「9R」として実を結ぶが、9Fの開発で到達したGSのあるべき姿に妥協を許さない時計づくりが、時代を超えて継承されていることに感嘆する。「初志貫徹」と口を揃える開発者たちの信念が「実用時計の最高峰」を支えているのである。

 

 
「グランドセイコー」(SBGX063)。


強いトルクを生むモーターや日付表示の瞬時切り替え、精度の微調整が可能な緩急スイッチなど数々の画期的な機構を備えた「キャリバー9F62」を搭載。
精度は年差±10 秒。

 

ケース、ブレスレットともにSS。
ケース径37mm。
クオーツ。21万円。
 

 

Series グランドセイコー物語<全5回 index>

第1回 合言葉は「100年後」
第2回 「1つ上」の使命
第3回 「美」に近道はない
第4回 「シンプル」のすごみ
第5回 「コンマ1」の必然

(構成・文/デュウ 撮影/山下亮一)