イギリス・ロンドンに本社を置き、世界175以上の国と地域に展開するマルチカテゴリー企業のBAT。同社は「A Better Tomorrow™(より良い明日)」を築く、という企業パーパスを掲げ、日本においても、持続可能な事業の経営指針となるH+ESG(環境・社会・企業統治を意味する「ESG」に、健康への影響を低減することを意味する「H」を加えたBAT独自の経営指標)の観点からさまざまな取り組みを進めている。日本法人BATジャパンの社長で北アジア地域エリアディレクターのジェームズ山中氏に話を伺った。

BATグループが思い描く「より良い明日」とは?

――現在のBATグループの概要と、日本における事業の特長を教えてください。

【山中】BATグループは1902年に設立されたマルチカテゴリーのグローバル企業です。現在は世界の175以上の国と地域でビジネスを展開しています。BATジャパンの企業としての歴史は、2001年にスタートしました。現在は約100銘柄のたばこ製品を海外の拠点から輸入し、日本国内での販売とマーケティング活動を行っています。16年には加熱式たばこ「glo™」を世界に先駆けて発売し、現在日本はBATグループ全体で最大の加熱式たばこ製品の売り上げを有する、非常に重要な市場となっています。また20年にはオーラルたばこ「VELO」の販売も開始しました。2016年を境目に、革新的かつ多様な、健康リスク低減の可能性を秘めた製品カテゴリーを新たに導入しています。

BATジャパン
代表執行役員 社長 兼 北アジア地域 エリアディレクター
ジェームズ 山中
1967年米国カリフォルニア州生まれ。ロンドン・ビジネス・スクール卒業。2003年BATのシニア戦略アナリストに就任。その後、ドイツ 戦略ヘッド、アジア太平洋地域 戦略・プログラムマネジャー、北ヨーロッパ地域 エリアディレクターなどを務め、2019年より現職。

――BATの掲げる「A Better Tomorrow™」について説明してください。

【山中】BATグループは「A Better Tomorrow™(より良い明日)」を築くという企業パーパスを掲げています。また、事業の持続可能性はこのパーパスの中核であり、事業の健康への影響を低減する(H:Health=健康)、というコミットメントの表明でもあります。それとともに、社会や事業の持続可能性を高めるためにEnvironment(環境)とSocial(社会)とGovernance(企業統治)それぞれの分野で取り組みを進めており、これらを総括して「H+ESG」という持続可能性の指針を掲げています。こういった指針を通して、社内でもよりエキサイティングで前向きな取り組みが進んでいます。

まずHの観点から申し上げると、我々の事業が健康に与える影響を減らすことを目標に、健康リスクが低減される可能性を秘めた製品の選択肢を広げています。また、研究開発への多額な投資を通して、これらの製品の健康リスクに関する科学的な裏付けも進めています。例えば、1年間に及んだ最新の研究データによると、紙巻たばこから加熱式たばこ「glo™」に完全に切り替えた喫煙者は、紙巻たばこの使用を継続した喫煙者と比較して、有害可能性指標において大幅かつ持続的な改善が見られたということが判明しています。私たちは、加熱式たばこ製品やオーラルたばこ製品といった事業に特に力を入れており、今後も紙巻たばこを吸っている喫煙者の皆様にこれらの製品への切り替えを促しながら、我々の事業から健康への影響を低減することを目指しています。

日本市場は私たちにとってとても大切な市場です。世界最大の加熱式たばこ市場を持ち、BATグループにおいても加熱式たばこの売り上げが世界最大なのが日本です。日本は、「A Better Tomorrow™」という企業パーパスに紐づく事業変革において、他国をリードしている国の一つであると考えています。

本当の意味で多様性のある職場

――H(Health:健康)の分野以外に、特にSocial(社会)の視点も重要視していると聞きました。

【山中】社会に対するコミットメントの一つとしては、弊社の従業員の職場環境を優れたものにしようと取り組んでいます。今年の7月にはBATジャパンが「働きがいのある会社」の認定を受けました。これからの世代の人が働きたいと思える会社であるということが重要だと考えています。

従業員の多様性にも非常に力を入れています。直近では女性活躍推進において先進的な企業を表彰する「Forbes Japan Women Award 2022」の企業総合部門 従業員規模別101名以上1000名以下の部でBATジャパンが3位を受賞しておりますし、日本では約25カ国の国籍を持つ従業員が働いております。

私のリーダーシップチーム(役員、本部長クラス)にいるスタッフも、国籍でいうと7カ国の方たちが働いているのですが、さらにその中で8人中3人は女性です。ここからも多様性を非常に重視していることがおわかりになるのではないかと思います。BATジャパンでは本当の意味で多様性のある職場、国際的な職場で働くことができるのです。

ジェンダーや国籍など多様性に開かれ、全社員が働きがいをもって働くことができる。それが、より良い明日を築くための意思決定につながっていると実感しています。

――単なる多様性だけでなく、一体化(インクルージョン)も大切にされていると聞きました。

【山中】はい。BATは多様な人たちが集まる企業ですが、企業活動においてよい成果を上げるためには、多様なバックグラウンドを持った人たちが企業のカルチャーに馴染めるかどうかがカギになります。それだけに、多様な人たちがそれぞれの特性を十分に活かして企業活動を営むためのインクルージョン(一体化)は非常に重要だと考えています。

社内を見わたすと、いろいろな文化圏の人が働いています。すると文化の違いによって適切な行動や言い方は変わってきますから、悪気がなくても気づかないうちに別の人を傷つけるようなことを言ってしまう、あるいは同じ行動でも文化圏が違うとすごくアグレッシブに見えてしまうということはあるものです。そういったことについては、しっかりと従業員に情報を提供しています。

BATジャパンが開いた「盆踊り」。「社内でクリスマスイベントはするのに、日本の祝い事は大々的にやったことがありませんね」というスタッフの気づきから始まった社内イベント。BATジャパン社内の一体化に役立っている。

一体化ということでは、日本文化との一体性も大切にしているんですよ。あるとき社内の会議で、社内で世界的にメジャーなお祝い事、例えばクリスマスはやるけれども、日本の伝統的なお祝い事を大々的にやっていないねということに気づかせてもらいました。せっかく日本にいるんだから、日本の伝統行事も社内全体で実施したらどうかという話になりまして、お盆の盆踊りと餅つきを行いました。日本人のスタッフもそうですけれども、外国籍のスタッフも参加して、すばらしい日本の文化を楽しみながら体感できる、いいイベントになりました。私自身も浴衣に着替えて盆踊りを踊りました。私は日系アメリカ人で、カリフォルニアで育ったので盆踊りの音楽を聞いたことはあったんですが、実際に参加できて私自身も非常に楽しい思いをしました。

また、地域社会貢献の一環として、私たちがビジネスをしている社会に対して、お返ししていくことも非常に重要だと思っております。そこで今年、“IPPUKUプログラム”というものを社内で立ち上げまして、翻訳の手伝いをしたり、難民支援関連のプログラムにも参加しています。立ち上げ初期である今年は、BATジャパンの多様性と親和性のある、海外にルーツを持つ方々を主に支援しています。私たちから社会にきちんと関与していこうという考えのもと、さまざまな活動を行っているのです。

持続可能なビジネスを実現するための「環境」「企業統治」

――BATはE(環境)、G(企業統治)の面でも、グループ全体で先進的な取り組みをされていますね。

【山中】広い意味でのビジネスにおけるサステナビリティ、持続可能性ということで申しますと、やはり企業がビジネスを長期的に続けていくためには、より広い分野での社会貢献が必要になってくると考えています。Environment(環境)は社会全体でも重要な課題ですから、その分野でも弊社では目標を設定しコミットしています。具体的には30年までには私たちの企業内で、さらに50年にはバリューチェーン全体にまで幅を広げて、カーボンニュートラルを達成するという目標を設定しています。

それからGovernance(企業統治)の面でも、きちんと統制を取っていくということが非常に重要だと考えています。いわゆるコンプライアンスですね。社内で正しい教育をして正しいことを行う、誠実にビジネスを行っていく。規制を順守することはもちろん、正しい行動を取っていくということです。

社内では今、エキサイティングで前向きなミッションがどんどん出てきています。会社としても従業員としても、持続可能性を事業の中核に据え、本当にやりたいと思う取り組みをいろいろと実行できています。インターナショナルでオープンなBATの風土を活かして、より良い明日を築くために今後も励んでいきたいです。