米大手ECサービスの視点で、dancyuの通販企画「食いしん坊祭り」を分析
プレジデント社では、2021年12月〜2022年2月まで、「食いしん坊祭り powered by dancyu」と題し、物販(Eコマース)のサイトを運営しました。今回は、Shopify Japan株式会社の内河さまにお話を伺いながら、出版社がEコマースを運営することの意味やその可能性について考えていきます。
通販サイト「食いしん坊祭り」

2021年12月から、2022年2月まで期間限定でオープンした食の通販サイト「食いしん坊祭り」。これまでdancyuで紹介した飲食店や生産者の協力を得て、ここでしか味わえない“おいしい体験”をそろえました。

北海道の食肉料理人集団「ELEZO(エレゾ)」のシャルキュトリ、新宿の人気洋食店「アカシア」のスペシャルセット、黒潮町缶詰製作所の缶詰&高知の日本酒をセットにした高知のつまみセットなど、dancyuらしいラインナップを展開。

第一弾〜第三弾まで、90日にわたって“おいしい”をみなさまのご自宅にお届けしました。

「ファン」がいることが、最大の強み。

食いしん坊祭りのサイトは、ECソリューション大手の「Shopify」を利用して構築。今回のサイトを注目事例として取り上げてくださった、Shopify Japan株式会社の内河 恵さんは、国内の大手出版メディアがEコマースに取り組むおもしろい事例もいくつか出てきている、と語ってくださいました。

――近年、メディアがEコマースサイトを開設・運営するという事例は増えていると感じますか? 注目されているメディア(ECサイト)があればご教示ください。

昨年より、期間限定や常設タイプなど形はさまざまですが、集英社さんの「りぼんのおみせ」、「JUMP SHOPオンライン」など、誰でも知っている媒体名を冠したショップが開設される例が出てきました。

中でも、個人的に注目しているのは「VOGUE COLLECTION」。媒体ロゴの“VOGUE”がデザインされたTシャツ・パーカーなどを販売しているのですが、ロゴTシャツが売れるというのは、やはりさすがのブランド力だと感じます。

媒体社さんが開設されるショップに共通しているのは、「ブランドのファンのためのストア」であり、お客様との接点のひとつとして取り組んでいる点です。従来の、コンテンツを雑誌という媒体に乗せて一方向的に発信する関係から、Webサイト、メール、SNSなどユーザーと媒体がいくつもの接点を持つことが当たり前になるなか、その可能性のひとつとして挑戦されているのではないでしょうか。

お客様との接点の変容
従来の雑誌に加えて、読者=ファンとの接点は多様になってきている。

――通販というと、Amazonや楽天、近年でいうとメルカリShopsなど大手プラットフォーマーが強いという印象ですが、そこであえて独自のドメインで通販をする意義はどんなところにあるとお考えですか?

これはD2C全般に共通することかもしれませんが、「モール型」はリーチはとれるものの、ファンとの接点・つながりを創出するという意味では若干やりづらい部分があるのではないでしょうか。顧客データもすべてが入手できるわけではありませんし、ブランド/店舗単位のCRMという観点で継続的なアプローチをしたい場合は、独自ドメインでEコマースを展開されるケースが多いです。

また、大手モールでは類似製品やいわゆる偽物、パクリ商品の対策も課題になっていると聞いています。後発業者が特定のワードで検索連動広告を購入することで、オリジナル商品よりもモール内検索順位の上位に表示される場合もあるそうで、業界の課題だという声も聞こえてきます。販売者の自社ドメインであればその心配は起こりません。

他に、Shopifyで人気のあるジャンルとして「カスタマイズ商品」などもありますね。ペットの猫の写真をいれたマグカップ……など、大手モールで完成品を購入するのとは違った楽しみがある製品も、個別にドメインを取得する意味があると考えています。

――出版社をはじめ、これからEコマースに挑戦しようとしているメディアはどんな点に気をつけながら準備を進めていくべきでしょうか。Shopify様の視点から、一定の成功を収めているショップの共通点などをご教示ください。

出版物は、印刷してしまったらそこから修正が難しいですが、Webはお客様の反応をみながら随時アップデートをしていくことができる。だからこそ、最初から100%の仕上がりを目指すのではなく、「シンプル」で「完成度80%」程度でリリースし、運用を通して数値やお客様の声を聞きながらブラッシュアップしていくという感覚が必要なのだろうと思います。

独自のEコマースサイトを立ち上げるというのは、決済の導入や関連する法令など、専門的な知識やスキルも必要で、かなりハードルが高い。その点、Shopifyを使っていただくと未経験のご担当者様でもスムーズにショップの開店をすることができますので、スモールスタートが可能という意味でも、弊社のようなSaaS(Software as a Service)を活用していくのもひとつの方法ではないでしょうか。

食いしん坊祭りをEコマースのプロから見ると…?

――食いしん坊祭りのサイトの特徴、ユニークだと思われた点などがあれば教えてください。

「dancyu食いしん坊祭り」のサイト
商品ページには、生産者やシェフの想いが伝わる動画を配置

dancyuさんは、もともと愛読していて、会食のお店などを探すのに使っていたのでブランド名は知っていました。

食いしん坊祭りのコンセプトや、予定商品など細かいことをお伺いし、「切り口が新しいな」と思いましたね。他のショップでも「こだわり食材」の販売はよく見かけますが、一種のミールキットというか、「○○のお店の味(食材+レシピ)」としての販売は面白かったです。

また、写真の撮り方も独特! 他のネットショップだともう少しヒキだったり、キットの中身を並べて撮ったりしがちですが、dancyuさんのはなんともいえないシズル感がありました。それが“ならでは感”につながっていたと思います。

また、商品ページからも情熱が伝わりました。さすが出版社の【文章力】に加えて、おいしさの伝わる【動画】も配置していましたよね。SEO的にも商品ページの情報が充実しているのは重要ですから、そのあたりのコンテンツ制作が得意な出版社にとってはいい流れなのではないでしょうか。

――内河さま、ありがとうございました!

お話を伺った方:
内河 恵(うちかわ・めぐみ)/Shopify Japan株式会社

Shopify Japan株式会社のコンテンツマーケティング担当。
大学卒業後、マイクロソフト株式会社で一貫してインターネットサービスの広告営業、マーケティング、ポータルサイト運営に携わる。2021年にShopify Japan株式会社に入社、現職で、コンテンツを通じた日本における顧客拡大の戦略立案と実行に従事。