「自分は大丈夫」──過信は健康の大敵である。健診の直後こそ摂生を心がけるものの、しばらくすれば不規則な生活に逆戻り。きっと身に覚えのある方も多いだろう。深刻化の一途をたどる「生活習慣病」に歯止めをかけるべく、製薬業界でもさまざまな動きが始まっている。この分野のリーディングカンパニーとして積極的な試みを続ける武田薬品工業(株)(以下タケダ)医薬営業本部長の山中康彦氏に、問題の背景や同社の取り組みについて聞いた。

薬剤開発やプログラムで患者の治療参加を促進

山中康彦(やまなか・やすひこ)
武田薬品工業 常務取締役
医薬営業本部長

1979年、武田薬品工業に入社。2003年事業戦略部長、2004年コーポレート・オフィサー就任、2007年取締役 医薬営業本部長、2011年より現職。

「診断、治療、創薬。これらの技術は常に進歩していますから、それに伴って本来なら患者さんの満足度や、症状が改善する割合も向上していくはずです。ところが単純にそうも言い切れない。特に当社が力を入れている生活習慣病の領域では、その傾向が顕著だと思います」

山中さんによると、患者数が増え続けている要因の一つは「治したいという意欲を持ちにくいこと」にあるという。

「高血圧症や糖尿病などの生活習慣病は、深刻な状態になるまで、なかなか自覚症状がありません。そのため検査の数値が正常でないことは理解できても、つい放置してしまうケースが多いのです」

そうした状況にあって、注目を集めているキーワードが「アドヒアランス」である。患者自らが治療方針の決定に関わり、主体的に治療を継続していく。そんな概念のことだ。

近年、高血圧症や糖尿病の治療薬をはじめ、活発に新製品を送り出しているタケダ。創業230年を越えてなおニーズへの嗅覚を鋭くする同社は、アドヒアランスの重要性にもいち早く着目していた。

「ある調査によると、薬を飲み始めて1カ月の時点で約3割、6カ月だと約5割の患者さんが服用をやめてしまうというデータもあります。生活習慣病に限らず、医薬品はきちんと継続することが大切。そこで当社では、製剤設計の側面からアドヒアランスの向上に貢献できるよう、利便性を高める工夫を重ねてきました。例えば効果が3カ月持続するマイクロカプセルを含む注射剤は、患者さんの通院の負担を軽減するために開発しました。また飲み薬では口腔内崩壊錠は水がなくても飲めますし、2種類の薬を1剤にした配合剤などもあります。これからは、医療者の指示に患者さんが従う“コンプライアンス”の考え方から、アドヒアランスを意識して患者さんの積極的な治療参加を促す取り組みが重要になっていくと思います」

その流れを加速させる一助として、タケダは新たに「アドポート」をスタートさせた。携帯電話に毎日メールを配信し、薬の飲み忘れを防止するプログラムだ。単に知らせるだけでなく、コラムやクイズを掲載し、疾患への理解も促進。服薬の意義を伝える。配信期間は4週間。「服薬1カ月の壁」を乗り切るための後押しをする。

「そもそも生活習慣病というくらいですから、患者さん本人が生活をコントロールするのが第一。このアドポートも、きっかけの一つにすぎません。前向きに治療を進めていくためには、医療者の方々と患者さんが双方向からコミュニケーションを深めていくことが、ますます必要になるでしょう」

山中さんは、製薬会社が果たしていくべき役割について、次のように言う。

「薬という存在を通して、いろいろなハッピーエンドの物語が生まれているはずです。それを支えに、私たちも患者さんや医療者の方々と喜びを共有できるよう、ミッションに立ち向かっていきます」

医療者、患者、そして製薬会社。三者の関係は、新たなフェーズに移ろうとしている。

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