特別リモート対談
石原美幸(UACJ社長)×蟹江憲史(慶應義塾大学大学院教授)

日本発のグローバルなアルミニウム総合メーカーとして、年間130万トンを超える世界トップクラスの生産量を誇り、幅広い分野に製品を提供するUACJ。サステナビリティ経営を重視する同社の石原美幸社長が、SDGs研究の第一人者である慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授とリモート対談。アルミニウムの可能性や今後求められる事業姿勢などについて語り合った。

原料から作るのと比べCO2排出量を約97%削減

【石原】UACJグループは昨年より、サステナビリティ基本方針として「100年後の軽やかな社会のために」を掲げており、現在、「気候変動への対応」など六つの「マテリアリティ(重要課題)」について数値目標も定めて取り組みを進めています。

石原美幸(いしはら・みゆき)
株式会社UACJ
代表取締役社長
1981年住友軽金属工業に入社。同社執行役員生産本部副本部長を経て、2013年にUACJ執行役員。常務執行役員生産本部長などを歴任し、18年6月より代表取締役社長兼社長執行役員。

【蟹江】SDGsについては、コロナ禍の影響で達成がより厳しくなったという国連のレポートも出ています。そうした中で具体的な目標を設定し、そこからバックキャストする形で取り組みを推進しているのは頼もしいですね。

【石原】マテリアリティの特定に当たっては、国内外の社員が加わったワークショップも延べ4回行い、現場の声を取り入れることも重視しました。

【蟹江】対話を通じ、社員が目標を自分事化できるようにするのは大事なポイント。また世界の共通言語とも言えるSDGsの下で新たなコミュニケーションの場をつくっているのも前向きだと感じます。サステナビリティの観点から言えば、貴社が取り扱うアルミニウムは脱炭素に貢献する素材として注目を集めていますね。

【石原】燃費向上や軽量化の目的で自動車や鉄道などの輸送機器、航空宇宙産業でも多く使われています。また最近は、電気自動車のバッテリー素材としても欠かせないものになっていますし、クリーンエネルギーとして期待される水素などの物流や貯蔵などでも、力を発揮することが見込まれています。

【蟹江】私たちの目に触れないところでも活躍しているのですね。加えて、アルミニウムについてはリサイクル特性に優れているのが魅力。リサイクルの場合、環境負荷が大幅に低減すると聞いています。

【石原】原料から製造するのに比べCO2排出量を約97%削減できるので、繰り返し使うほど環境への貢献度は高まります。

【蟹江】ほぼ永遠に循環させられる、まさに“持続可能な”素材であると。

【石原】はい。その循環の中で、リサイクル素材から新たな製品を生み出す私たちはいわば「心臓部」だと思っています。すでに国内で約94%がリサイクルされているアルミ缶をはじめ、自動車、電子部品、バッテリー、空調など多様な業界と協力し、回収・再生に取り組んでいきます。

アルミニウムをリサイクル活用し、UACJグループが製作した「SDGsバッジ」。17種類のカラーは、同社グループならではのアルマイト技術で表現している。

技術の棚卸しも行い革新的な製品を

【蟹江】SDGsというのは、どのように目標を達成するか、ルールは決められていません。それぞれが自身の強みや長所を生かして、貢献することが求められている。これが面白いところです。

蟹江憲史(かにえ・のりちか)
慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科 教授
慶應義塾大学xSDG・ラボ代表。北九州市立大学助教授、東京工業大学大学院准教授を経て、2015年から現職。株式会社レノバ独立社外取締役に17年から4年間就任。博士(政策・メディア)。

【石原】UACJは120年以上にわたってアルミニウムと向き合い、板、押出、箔、鋳造や鍛造、加工品、自動車部品の製造など、さまざまな加工を総合的に手掛けながら技術を磨いてきたことが最大の強み。企業理念も「素材の力を引き出す技術で、持続可能で豊かな社会の実現に貢献する。」としており、蓄積してきた技術やノウハウによって、社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。

【蟹江】日本におけるアルミニウムメーカーの草分けとしての歴史がものをいうわけですね。先ほどコロナ禍もありSDGsの達成は簡単ではないという話をしましたが、それは多様なイノベーションが求められていることを示しており、企業などにとってはある意味ビジネスチャンスでもある。狙いを定め、自由な発想で取り組まれるといいと思います。

【石原】アルミニウムの活用領域の拡大は私たちの大きなテーマで、長期経営ビジョン「UACJ VISION 2030」で、具体的にはまず「ライフスタイル・ヘルスケア」「モビリティ」「環境・エネルギー」の分野に注力していくことを考えています。技術の棚卸しをしっかり行い、お客さまにこれからもどんどん提案を行っていきたい。すると、「もっとこんなことはできないか」というフィードバックがありますから。

【蟹江】SDGsでは17番目は「パートナーシップで目標を達成しよう」なので、外部とのコラボレーションも重要になります。これまでと異なるパートナーと連携することで、アルミニウムの思わぬ可能性に気付くことがあるかもしれない。ぜひ、SDGsをイノベーション創出のツールにしてもらえればと思います。

【石原】多様な共創によって革新的な技術や製品を生み出すことができれば、それは社会課題の解決にもつながる。とても重要な視点だと思います。加えて私たちは、そうした取り組みを進めるに当たって、何より大事なのが「人」であるとの考えから、設定した六つのマテリアリティの中でも「人材育成」「人権への配慮」などを明示しています。

【蟹江】実はSDGsにおいて、「人権」については触れられている程度で、強くはうたわれていません。しかし、人権への配慮はある意味前提であって、これなくして持続可能な開発はあり得ない。UACJさんが今後ますます重要になるに違いない「人権」にきちんと焦点を当てているのは素晴らしいと思います。

【石原】経営理念やサステナビリティ基本方針を実現するには、多様な能力を持つ社員一人一人が、それぞれの役割を果たすことが大切ですから、経営トップとしてそのための環境はしっかりと整備していきます。一方で、製品や技術に話を戻すと、アルミニウムが異なる特性を持つ他の素材と組み合わさることによっても、新たな価値が生み出される。UACJとしてはアルミニウムのプロフェッショナルとして、確かな役割を果たし、持続可能で豊かな社会づくりに貢献していければと考えています。

UACJグループを取り巻く社会のさまざまなステークホルダーと協働し、「軽やかな社会を目指していく」という考え方を示している。