名門・慶應義塾中等部の生徒が受験する「TOEIC Bridge® Tests」。学校や塾のテストではなかなか測ることが難しい、真の「英語コミュニケーション能力」を測定できるという。

スコアで示される結果がモチベーションになる

グローバル化の進む世界において、英語学習の重要度はますます高まっている。いまの子供たちが社会に出るころには、買い物や旅行のような日常シーンから、オフィス内やオンライン会議といったビジネスの現場まで、英語でのコミュニケーションの機会は格段に増えているだろう。

そうした状況を見据えて、英語学習に新たな指標を取り入れている学校を取材した。

慶應義塾中等部 部長(学校長)
井上逸兵先生
慶應義塾大学文学部教授。専門は社会言語学、英語学。文学博士。1961年生まれ、石川県出身。NHK Eテレで放映された「おもてなしの基礎英語」での解説が好評を博す。著書に『英語の思考法 話すための文法・文化レッスン』(ちくま新書)など多数。

都内の名門・慶應義塾中等部では、学内で行う定期試験のほかに、生徒の英語力を測るため「TOEIC Bridge Tests」を導入しているという。大学受験や企業の昇進試験にも広く活用されている「TOEIC Tests」へのブリッジ(架け橋)として位置付けられる、英語学習初級~中級者に焦点を合わせたテストだ。実際に慶應義塾では、高等学校や大学の一部の学部でもTOEIC Bridge TestsやTOEIC Testsが導入されている。中等部の部長(学校長)を務める、井上逸兵先生に導入の理由を聞いた。

「一般社会で通用する英語力を、生徒がどの程度身に付けているのか。それを測定するために、外部試験を導入しました。TOEIC Bridge Testsには日常生活に結び付いた質の高い問題内容が多く、こちらの目的と合致していたのです。また、学校の定期試験に慣れている生徒たちにとって、外部試験を受けることは良い刺激にもなると考えました。実際、結果がスコアで示されるため、生徒によっては高得点を目指すという目標が学習のモチベーションになっているようです」

導入を始めたのは2019年度。以来、年に一度、2、3年生の全員が「聞く・読む」力を測るテスト「TOEIC Bridge Listening & Reading Tests」を受験している。

「外部試験を受けることで、生徒は自分の弱点を把握できるため、学習を見直す良いきっかけとなっています。導入後に検証したところ、英語力が向上している生徒は、テストのスコアも確実に上がっており、英語力が適正に評価されていることがわかりました」

なかには最高スコアを取る生徒もいるため、「話す・書く」力を測るテスト「TOEIC Bridge Speaking & Writing Tests」も受験できるようにするなど、さらなる英語力向上のための検討をしているという。

学習の入り口をいくつも用意し、きっかけをつくる

生徒の英語学習歴はさまざまだ。入学後はじめて本格的に学ぶ生徒がいる一方で、慶應義塾幼稚舎(小学校)から内部進学した生徒は、6年間の英語教育を受けている。そのため、それぞれの生徒に適した学習環境を用意することが大切だと井上先生はいう。

「ゲームや歌を楽しみながら英語に触れるのが楽しいという子もいれば、地道にコツコツと学びたいという子もいる。だから本校では、たとえばオンラインでオーストラリアの子供たちと会話をしたり、海外研修の機会を設けたりするなど、英語に興味を持ってもらうための入り口をいくつも準備しているんです。TOEIC Bridge Testsの導入も、そうした入り口の一つ。実用につながる英語を身に付けたいという生徒にとって、学習のきっかけになってくれたらと願っています」

英語力のレベルや目的・目標に合わせてテストが選べるTOEIC® Program

世界最大級のテスト専門機関ETSが開発した「TOEIC Program」は、世界160カ国、約1万4000の企業・団体で活用されている英語力測定テスト。合格・不合格ではないスコア評価で「現在地の正確な把握」や「目標の設定」が可能な点や、オフィスや日常生活における活きた英語コミュニケーション能力を幅広く測定する点などが評価され、世界共通のモノサシとして信頼を得ている。

テストは下図の2種に大別されており、受験者が英語能力や目的・目標に合わせて自由に選ぶことができる。

4技能のすべては相互につながっている

聞く・読む・話す・書く。いわゆる英語4技能を満遍なく身に付けるためには、どのように学習を始めればいいのだろう。

「英語の学習でいちばん大切なのはモチベーションを持つことです。何のために英語を学ぶかは、それぞれの学び手によって異なるはず。たとえば外国人とコミュニケーションを交わしたいという人は、スピーキングに比重を置いた学習から始めればいいと思います。けれど学習を続けてあるレベルまで達すると、上げ止まりというか、それ以上には英語力が伸びない“壁”にぶつかってしまう。そうしているうちに、その理由が読んだり書いたりする量の不足だと気付くでしょう」

挨拶や買い物程度なら、いくつかのフレーズを覚えれば事足りるかもしれない。しかし日本語での会話を思い返せば、私たちはさまざまな語彙を使って、日常的にもかなり内容のあることを話しているはずだ。そうしたレベルに達したいのであれば、「読む・書く」を意識した学習で語彙を増やすことが必要だと井上先生はいう。

「語学の学習では、聞く、読む、話す、書くことは全部つながっているんです」

「英語の曲を上手に歌いたい、外国映画を字幕なしで見たい、好きな物語を原書で読みたい。そんなふうに、自分の好きな入り口から英語学習を始めればいいのです。どこから入っても、ある一定のところまで行けば、4技能の全部が相互につながっていることに気付くでしょう。まずは、そのレベルまで達することが肝心でしょうね」

4技能は自動車の四輪といえるだろう。どれか一つだけ高速回転しても、行きたい場所に辿り着くことはできないからだ。うまく四輪のバランスを取りながら、学習を積み重ねていくのが正しいようだ。

「聞く・読むはインプット、話す・書くはアウトプット。両者は切り離せない関係にあるのです。どちらかが伸び悩んでいるときは、もう一方がおろそかになっているのかもしれませんね。個人的には、インターネットの普及などによって、ますます書くことの比重が高まっているように思えます。仕事によっては、話すことよりも、メールやプレゼン資料をきちんと書けることのほうが重要な場合もあるでしょう。コミュニケーション英語といえば話す力を問われがちですが、書く力も見くびってはいけません」

4技能の向上には教科書の音読が有効

英語学習において、井上先生が勧めるのは音読だ。教科書や会話文を声に出して読むことが、英語4技能の向上につながるという。

「英語は読めるけれど、書けない、話せないという日本人にありがちな弱点は、音読を繰り返すことで改善できる可能性があると考えています。英語に限らず、音読を繰り返すことによって外国語をマスターした人は多い。ただし、ただ闇雲に読むのではだめ。自分がそのフレーズを使っている状況を思い描いて読むことが大事です。その意識を持つことが、実際のコミュニケーションの場で大きな差となって出てくるでしょう」

声に出して「読む」ことは、「話す」ことにつながる。読む量が増えると、先述したように語彙が増えて「書く」力が付く。そして英語を読むことに慣れ、だんだん速く音読できるようになったら、自然と「聞く」力も向上すると井上先生は力説する。

考えてみれば小学1年生が国語の教科書を音読するのも、同様の効果があるからではないか。手軽に始められる勉強法として、ぜひ試してほしい。

英語力を高めるには少しだけ負荷を与える

技術の進歩によって、機器による同時通訳や翻訳の精度は飛躍的に高まっている。そんな時代に、英語を学習する必要性を見いだせない子供もいるのではないか。

「私の回答は、ある人にとってはイエス、ある人にとってはノーです。レストランの注文だけできればOKという人なら、機械翻訳に頼ればいい。けれど中身のあるコミュニケーションをしたい人にとって、機械翻訳の技術はまだまだ追い付いていない。難しいビジネスの話に限らず、たとえば相手に配慮するといった日常の場面でも使える英語を身に付けたければ、やはり自ら学ぶことは必要です」

英語は、コミュニケーションを交わすための道具である。これからの時代、生きていくために欠かせない道具を自由に使いこなせるよう、子供たちの自信を育んでやりたい。英語学習を始めたばかりの子供に対して、親ができることは何だろう?

「英語力を高めるには、本人が楽しんで取り組めることがいちばん。子供が何に興味を持っているかをよく観察し、その子に合った入り口を勧めましょう。そのとき、少しだけ負荷を与えるのがいい。その子にとってやや難しいと感じる映画や本でもいいし、TOEIC Bridge Testsに挑戦させてみるのも効果的だと思いますよ」

英語学習 初・中級者を対象とするTOEIC Bridge® Testsとは?

TOEIC Bridge Testsは、「聞く・読む」力を測るTOEIC Bridge Listening & Reading Testsと、「話す・書く」力を測るTOEIC Bridge Speaking & Writing Testsに分かれている。外食や娯楽、買い物など、より身近な日常生活の場面が題材になっていて、初級~中級者にとっては取り組みやすいテストだ。

TOEIC Bridge L&Rの問題サンプル
 

リスニング(約25分間・50問)、リーディング(35分間・50問)、合計約1時間で100問に答えるマークシート方式のテスト。リスニングの出題スピードはTOEIC L&Rよりゆっくりで、ネイティブスピーカーが「注意深く」話す際のスピード。

 

TOEIC Bridge Speaking Test(約15分間・8問)とTOEIC Bridge Writing Test(約37分間・9問)で構成されている。パソコンを使って受験。受験者はヘッドセットを装着し、パソコン画面の指示に従って音声を吹き込んだり、文章を入力したりして解答する。

●受験者の声

TOEIC Bridge L&R
・テストの場面が身近で、そのまま使えるので、とてもためになりました。
・英語の基礎を学ぶのにぴったりだと思います。次はTOEIC L&Rに挑戦します!

TOEIC Bridge S&W
・オンライン英会話の成果をスコアで確認できるので自信になりました。
・アウトプットする機会があまりないので楽しかったです‼

TOEIC Bridge Tests受験者アンケートより


小学生から社会人まで幅広く活用

2020年度のTOEIC Bridge L&R公開テストでは、受験者の約63%が学生。年間の受験者数は12万6300人にのぼる(※1)。外国語学習者の習熟度レベルを示すガイドラインとして、欧米で幅広く導入されているCEFRでは、おおよそA1~B1程度の英語力を測定でき(※2)、個人受験だけでなく、企業・大学・高校などでも、レベルチェック、モチベーション向上、学習の進捗測定やTOEIC Testsの受験準備などに幅広く活用されている。

参考までに、英検®で取得した級別に受験者のスコアを平均すると、下のグラフのようになる。

※1…受験者数は公開テストと団体特別受験制度(IPテスト)の合計。
※2…CEFRでは言語力レベルを、A1、A2、B1、B2、C1、C2の6段階で測定する。A1から順に、初級、中級、上級と、レベルアップしていくイメージ。

教育機関内で実施された受験者アンケートより

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(堀 隆弘=撮影)