多様な価値観と向き合うことで柔軟性が磨かれる
知見や技術を生かした多様なプロジェクトを展開
「少子高齢化の改善や地域経済の活性化といった課題の解決策を探ることは、地域に拠点を置く大学の重要な責務の一つです。また、そうした課題が身近に存在する環境は、学生にとって実践的な学びのフィールドであるとも言えます。そこで私たちは以前から、学生と共に、地域の課題解決に向けたさまざまなプロジェクトに取り組んできました」
三寺教授はそう語る。昨年発表された「SDGs達成に向けた宣言文」では、社会・環境問題を解決するリーダー人材の育成、持続可能な地域社会を創造する協創拠点化、SDGsの達成に貢献する持続可能なキャンパスの構築などを標榜。現在も複数の取り組みが進行中だ。
「その一つが、日本一も獲得したことがある『六呂師高原の星空』をまちづくりに生かすプロジェクトです。まず2018年、地域の自然保護機運の醸成と観光資源の強化に向け、大野市などと共同で『星空ハンモック』事業を開始しました。高原に設置したハンモックで星空を楽しむこの催しでは、学生がツールの制作や運営を担当し、収益の一部は環境保護に使われています」
さらに2020年からは、大野市、パナソニックと連携し、夜空への光害を抑えるための照明なども設置。JAXAとの共同研究なども行う宇宙事業「ふくいPHOENIXハイパープロジェクト」と連動する形で、夜空の明るさ調査も実施し、国際ダークスカイ協会による星空保護区認定制度の認定取得を目指している。
一方、生活に欠かせない「水」について、「流せば洪水、貯めれば資源」という視点から、雨水活用による持続可能な社会のあり方を模索する取り組みが7年目を迎える。
長崎県五島市の離島・赤島で雨水活用システムの整備と意識変革を目指すこのプロジェクトは、国立研究開発法人科学技術振興機構による「STI for SDGs」アワードの2020年度優秀賞を受賞した。学生は水道のない島で雨水による生活を送りながら、水の自立分散型インフラの構築などを行う。さらに小中学生を対象に、雨水生活体験を通して雨水活用への意識を高める環境教育プログラムも提供している。
地域で学び、地域を創る。福井工業大学のSDGs関連プロジェクト
リアルな現場の課題が学生の成長を後押しする
「一口にSDGsといっても、その達成は簡単ではなく、解決方法を探るにも高い意識や行動力が必要です。ただ日常生活の中で、17のゴールを自分ごととして捉えるのは難しい。それぞれの現場でリアルな課題と向き合い、大学での学びを生かしながら、解決に向けた活動に参加することは学生にとって得難い機会だと考えています」と三寺教授は言う。
知の拠点として蓄積してきた知識や技術を地域に還元し、社会へ貢献する人材を育成する。そうした大学の活動のキーワードの一つが「SDGs」というわけだ。
「近年は、企業はもちろん、自治体との連携も非常に多くなっています。そこで2022年には、まちづくりの実践に向けて学内の各学部と外部をつなぎ、共創の拠点となる『まちづくりデザインセンター』の設置も予定しています」
福井工業大学ではSDGsという概念が生まれる以前から、例えば2006年に開始した過疎化対策など、地域と協働した小原ECOプロジェクトを推進してきた。地元に根付いた取り組みが今後さらに充実することで、大学や学生もより多くのものを得ることになるだろう。
「実際に課題が生じている現場では、関わる人の立場も考え方もそれぞれです。そのため、全員が納得、賛成する解決策を導き出すのはとても難しい。学生がベストだと考えて提案したアイデアが、現場では受け入れられないことも少なくありません。しかし、そうして壁にぶつかることこそが、大変貴重な経験なのです」
当事者の多様な価値観を受け止め、調整と改善を重ねながら、目的の達成を目指していく。まさに実社会で重視されるそうしたプロセスを通じて、学生たちは柔軟性や多角的な視点を身に付けていくというわけだ。
「地域に密着したフィールドで知を循環させ、解決策を見いだしていく。同時に社会で活躍できる人材を育てていく。こうした取り組みは、福井以外の地域でも応用できるに違いありません」と三寺教授。
SDGsの達成に資する独自の取り組みの中で、研究活動と人材育成を強化していく。そんな福井工業大学からどんな成果が生まれるのか。これからに注目したい。