新型コロナウイルスの感染拡大は、個人資産にも大きな打撃を与えている。ニューノーマルが叫ばれる中で、資産形成や投資で留意すべきことは何か──。ファイナンシャル・プランナーの橋本秋人氏に聞いた。
橋本秋人(はしもと・あきと)
FPオフィス ノーサイド 代表
ファイナンシャル・プランナー
(CFPR認定者/1級FP技能士)
不動産コンサルタント

早稲田大学商学部卒業後、住宅メーカーに入社。30年以上相続支援や不動産活用の実務に携わった後に独立。ライフプラン、住宅取得、不動産活用、相続などについてのアドバイスを行う。

「コロナ禍以降、マルチインカム、つまり複数の収入源を確保することが重要だと考える人が着実に増えていると感じます」と橋本氏は言う。

「実際、経済や社会が大きく混乱する中でも、本業以外の“財布”を持っていた人は経済面のみならず、精神面でのダメージも少なかったはず。マルチインカムは将来に向けた資産形成の手段ですが、今回わかったのはそれが“リスクコントロール”にも大いに役に立つということです」

確かに感染症の拡大に限らず、今後も何が起こるかわからない。不測の事態に備えておきたいという意識を強めた人は多いに違いない。では具体的に、どうやって新たな収入を得るか──。

「副業や兼業といった方法もありますが、自ら労力をかけるとなると時間的な制約もあります。理想は時間というコストをかけずに済む仕組みをつくること。よくいわれるとおり、“資産に働いてもらう”という発想が大事になります」

そうした中、橋本氏のもとに投資の相談に訪れる人も少なくないという。

「例えば賃貸経営への関心は依然として高い印象です。賃料収入はまさにもう一つの財布であり、マルチインカムを実現する手段になり得ます。ただ、コロナ禍では物件によって明暗が分かれる部分もありました。物件の見極めはますます重要になっているといえるでしょう」

住居系収益不動産で影響があったのは外国人や学生などを主な入居者とする物件。正社員が入居する物件はほとんど変化が見られなかったという。今回の事態を教訓に、変化に耐える“強い入居者”とそうでない入居者がいることは、今後意識しておく必要がありそうだ。そして“強い入居者”をターゲットとした賃貸経営がマルチインカムの鍵となる。

賢く資産運用をする人できない人の差が広がる

資産運用を成功させる鍵は、しっかりと目標を立てること。これはどんな時代も変わらない。

「私たちがアドバイスをする際は、95歳までのキャッシュフロー表をつくって対策を考えるのが基本。マルチインカムと一口に言っても、どれだけの収入を目指すのかによって取るべき方法は当然変わってくるので明確な目標を持つことはやはり重要です」と橋本氏。加えて、今後は賢く資産運用する人とできない人の差が広がる可能性もあると指摘する。

「在宅勤務などが浸透し、時間の余裕が生まれる中、それを投資の勉強にあてている人もいます。最近はオンラインセミナーなども盛んになり、情報収集の機会も増えている。コロナ禍をチャンスにする人がこれから出てくるでしょう」

ニューノーマルの言葉のとおり、資産を取り巻く環境も新しい時代に入っている。その中では、前向きに新たな行動を起こすことが将来の安心を手に入れるための重要な方策となりそうだ。