リモート対談
石原美幸[UACJ社長]×高橋由佳[イシノマキ・ファーム代表理事]

アルミニウムの総合メーカーであるUACJ(ユーエーシージェー)は、一般社団法人イシノマキ・ファーム(宮城県石巻市)と連携し、ビールなどの原材料となるホップの栽培を行っている。同社が、CSR活動の一環として地域社会とのかかわりを重視する理由とは。また、それによって生み出される価値とは。今回、石原美幸社長と高橋由佳代表理事がリモートで語り合った。
 

「相互の理解と尊重」をグループの理念の一つに

【石原】来年の3月11日、東日本大震災から丸10年の区切りを迎えます。ただ、地域の復興や活性化の取り組みに終わりはありません。震災の記憶を決して風化させてはいけないし、東北地方の仙台や郡山などに拠点を持つ企業グループとして、地域にかかわる活動に携わりたい。そうした思いから、一緒にホップを栽培させていただくことにしました。

【高橋】おかげさまで今夏もたくさんの収穫があり、「巻風エール」という私たちのクラフトビールづくりも順調です。このビールは、現在瓶と樽で販売していますが、将来アルミ缶の商品も出せたらいいなと思います。

【石原】楽しみです。国内のアルミ缶のリサイクル率は95%を超え、環境にとてもやさしい素材ですから。イシノマキ・ファームさんも持続可能な社会の構築に力を注いでおられますね。

石原美幸(いしはら・みゆき)
株式会社UACJ
代表取締役社長
1981年住友軽金属工業に入社。同社執行役員生産本部副本部長を経て、2013年にUACJ執行役員。常務執行役員生産本部長などを歴任し、18年6月より代表取締役社長兼社長執行役員。

【高橋】私たちは「農業を通じて地域を拓く」というコンセプトを掲げ、農業の担い手育成などに取り組んでいます。就農体験プログラムを提供したり、移住のお手伝いもしています。

【石原】農業従事者の高齢化や耕作放棄地の増加といった課題の解決を目指し、また震災が原因で引きこもりがちになった人たちにも活動の場を提供されているとのこと。この現実と向き合う姿勢にメーカーとして共感します。

【高橋】ありがとうございます。石原社長の「地域活性化に終わりはない」との言葉のとおり、特に「人」にかかわる取り組みは継続性が重要です。私たちの拠点である石巻市北上町は、ある意味多様な課題を抱える地域社会の縮図。こうした場所で新たな社会の仕組みをつくれれば、一定の意味があるだろうと考えています。

【石原】まさに、そうした現場で頑張っている人たちと対話、共創する機会を持つことが私たちにとって大きな意味を持ちます。UACJグループは今年グループ理念を再定義し、「相互の理解と尊重」を価値観の一つとしました。これを実現するには、まずいろいろな視点や考え方に触れる必要がある。自社の事業だけに目を向けていては、時代や社会が変化する中で持続的な経営はできません。

【高橋】一般社団法人である私たちがグローバル企業と連携する意味も大きいですよ。やはり自分たちだけでできることには限界があります。私たちの強みである「肌感覚で社会課題をとらえている」という点が生かせるなら、それはとてもうれしいことです。

【石原】互いの強みを掛け合わせることが課題解決の力になりますね。ホップ栽培について、今年はコロナ禍で叶いませんでしたが、今後はぜひ社員教育の場にしたいと考えています。リアルな体験がCSRマインドを育むことにつながりますし、自分たちのものづくりを別の角度から見つめ直すチャンスにもなると期待しています。

イシノマキ・ファームのホップ畑。今年も見事なグリーンカーテンができあがった。

ウェルビーイングを重視し人づくりに力を注ぐ

【高橋】イシノマキ・ファームの活動は、「ウェルビーイング」を一つのキーワードとしています。皆がお互いの立場や考え方を認め合い、生き生きと暮らしていけるコミュニティをつくることが理想です。

【石原】ウェルビーイングは企業にとっても重要なテーマです。心身ともに健康で、やりがいを持って働ける環境でこそ、人は本領を発揮できる。当社でも働き方改革を推進し、同時に製造現場で働く従業員が技量を磨き、伝承していけるような体制も整えています。

高橋由佳(たかはし・ゆか)
一般社団法人イシノマキ・ファーム
代表理事
二輪メーカーに所属し、レースに参戦。その後、教育・福祉分野の専門職を経て、2011年、こころの病を持つ人たちの就労・就学支援を行うNPO法人Switchを設立。16年にイシノマキ・ファームを設立。

【高橋】やはり基本にあるのは「人づくり」ですね。異なる価値観を持つ者同士が、学び合い、語り合い、ときに許し合いながら、ベクトルを合わせて課題に立ち向かっていくことが大事。私たちの活動も、企業活動も共通しているとあらためて実感しました。

【石原】本当にそうですね。だからこそ、今回の当社とイシノマキ・ファームさんのパートナーシップも有益なんだろうと思います。最後に高橋さんから今後の抱負を聞かせてください。

【高橋】先ほど、新しい社会の仕組みというお話をしましたが、それは地産地消を取り入れたエコシステムのようなイメージです。これを形にしていきたい。UACJさんと一緒に栽培しているホップの花言葉でもある「希望」を胸に、地道に取り組んでいきたいと思っています。

【石原】その活動にかかわることができ、私たちもうれしいです。アルミニウム業界をけん引する当社は、今後目指すべき世界を「軽やかな世界」と表現しています。アルミ缶に代表される缶材は、リサイクル特性が高く廃棄物抑制に寄与できます。また、軽量性をご評価いただき、自動車のボディ材として使用されることが増えてきました。車体の軽量化に貢献することで、CO2排出抑制が期待できます。これからも事業、社会貢献活動の両面から、その実現を後押ししていければと考えています。本日はありがとうございました。社員とともに直接お会いできる日を楽しみにしています。

アルミニウムで社会を豊かに

UACJは、古河スカイと住友軽金属工業の経営統合により、2013年に日本発の「グローバルアルミニウムメジャーグループ」として誕生。飲料缶、自動車、航空機、リチウムイオン電池、電子部品などさまざまな分野にアルミニウムを提供している。

素材の特性を生かす研究開発力、技術力が強みで、例えば加工については切断・切削から曲げや絞りなどの成形、部材の接合、表面加工まで幅広く顧客ニーズに対応。単なる素材ではなく、そこに付加する価値こそ“UACJの価値”として、グローバルな視点で事業を展開している。