日本に居ながらMBAを取得できる選択肢が増えている。しかしながら、肝心なのは、具体的にどんな知見や素養が身についたのかという“学びの質”だ。そこで、早稲田大学大学院経営管理研究科(Waseda Business School=WBS)では、国際感覚に長けたMBA取得者を育成するために「全日制グローバル」というプログラムを設けている。同プログラムは、ファミリービジネスの事業承継を考える人にも極めて有意義な内容だ。

国際認証を獲得し、世界的に高い評価

WBSの「全日制グローバル」は、2年間に及ぶフルタイムのカリキュラムを通じて、グローバルに通用するビジネスリーダーを養成することを目的としたプログラムである。その実績を裏付けるように、WBSは2019年3月には欧州の国際的な教育品質評価機関である EFMD(The European Foundation for Management Development)の国際認証 EQUIS(The European Quality Improvement System)を取得。さらに2020年2月には、米国で発足した評価機関であるAACSB(The Association to Advance Collegiate Schools of Business)からの国際認証も得られることが決定した。WBSは、これら2つの国際認証を獲得した日本で2校目のビジネススクールとなる。

日本国内のビジネススクールであるWBSの「全日制グローバル」が世界的に通用する人材を輩出できるのはなぜなのか。同校で教壇に立つ東出浩教教授は理由の一つについて述べる。

「本プログラムには欧米やアジア諸国など、世界各国からの留学生を積極的に受け入れており、学生の半数以上は日本語が母国語ではありません。日常的に世界各国の学生たちと交流をもち、自然とグローバルな感覚が養われる環境が整えられているわけです。授業も日本語科目と英語科目に加えて、同じ授業内容を日本語と英語の双方で学ぶというバイリンガルコース(日英科目)も設けられています」

開講時よりアントレプレナーシップ教育に注力

さらに、もう一つの理由について、こう続ける。

「WBSでは数多くの海外の有力校との間で学生交換協定を結んでおり、日本語が母国語の学生たちには交換留学に挑戦することを推奨しています。実際に3カ月から5カ月程の留学経験を経て、現地で新たな世界観を養って帰国する学生が少なくありません」

交換留学で取得した単位は修了要件単位として認定申請できるとともに、すでに日本語で受講していたコア科目を英語で再履修できる制度も設けられているという。また、WBSに入ると自身の研究テーマに沿ったゼミに所属することになるが、一人の教員が英語生向けのゼミと日本語生向けのゼミの両方を担当している場合もあり、相互に交流を図る機会もある。

東出浩教(ひがしで・ひろのり)
早稲田大学大学院経営管理研究科
教授
慶應義塾大学経済学部を卒業して鹿島建設に入社。ロンドン大学インペリアルカレッジに留学してMBAを取得するとともに、アントレプレナーシップ専攻の日本人として初の博士号を獲得。WBSで教鞭を執る一方でベンチャー学会副会長や政府機関委員等を歴任するなど、学内外で幅広く活動。WBSでは、「アントレプレヌールシップ」、「ファミリービジネスの理論と経営」、「ビジネスのための創造性と倫理」といった講義を担当。

多岐に渡る「全日制グローバル」の授業内容だが、その中でも特に注力しているのがアントレプレナーシップ(起業家精神)関連とファミリービジネスの事業承継関連という。

「早稲田大学がMBAプログラムを開講したのは1998年のことで、当初から最もフォーカスを当てていたのがアントレプレナーシップでした。『早稲田の杜から起業家を世に送り出す』という思想の下で開講されたわけです。そして、その流れに沿う自然なかたちで、ファミリービジネスの事業承継にも領域が拡大しました。要するに起業家とは、オーナーマネージャーです。ファミリービジネスにおけるトップは、自分自身が株式も含めたオーナー権を所有しながら経営も担っていきます。当然、後継者にも同様のことが求められ、そのための知見やスキルを身につけられることこそ、『全日制グローバルプログラム』の大きなメリットだと思います。しかも、単にオーナーマネージャーとして組織を率いるためのスキルだけにとどまらず、最も重要であるマインドセットまで養われることがWBSの強みです」

民放テレビ局を退社、WBS進学を決めた理由

実際にWBSの「全日制グローバル」プログラムで修学している学生は、どのような目的で同校を選び、どういった学びを得ているのだろうか。11年間務めた民放テレビ局を退社して2019年からWBSに通っている佐々木威憲氏はこう語る。

「WBSへの進学は、ファミリービジネスの事業承継を決断したことがきっかけです。私の実家は祖父が創業した小・中・高校用の教科書出版を主な事業としており、現在は父が2代目として経営を担っています。私は長男だったものの、就職して7~8年経つまで、家業を継ぐつもりはまったくありませんでした。しかし、父が経営で苦労している姿を目の当たりにして、考えが大きく変わりました。祖父が興し、父が大変な思いをしながら懸命に受け継いでいる事業なのだから、自分が継ぐべきではないか、継がなければ自分は一生後悔することになるのではないかと思うようになったのです」

すぐさま父が経営する会社に入社せず、WBSへの進学を選んだのはなぜなのか。

「私はテレビ局在籍時代の大半を制作現場のディレクターとして過ごしましたが、業務内容が特殊で、一般的なビジネスとは少し違うと感じていました。具体的には、ビデオカメラ片手にスポーツ選手を取材したり、VTRを編集したり、技術・美術スタッフと協力してスポーツ中継番組の制作を行ったりという仕事でした。大学時代はスポーツ一筋でしたし、社会に出てからもそのような業務に従事していたので、B/S(貸借対照表)やP/L(損益計算書)と言われてもピンとこない有り様でした。だから、事業を承継するなら、きちんと勉強し直すべきだと考えました」

実践的でファミリービジネスの事業承継に強い

数ある選択肢の中から、WBSに照準を定めた理由とは何か。 

「大学院合格のために通っていた予備校の先生に助言を求めたところ、アカデミックな授業内容が多い国立に対し、私立はより実践的なことを学べるという話をうかがいました。そして、私立の2校に合格してどちらにすべきか迷っていたのですが、たまたまWBS主催のファミリービジネスの講演会に参加する機会があり、それに参加したことが決め手になりました。在校生はもちろん、大勢の卒業生も多数詰めかけ、実際に家業を継いでいる人から新たに自分でビジネスを起業した人まで、実に多様な顔ぶれが集まっていたのです。しかも、みなさんが非常に溌剌としていて、まだ入学していない私に対し、懇親会の席などで親身にアドバイスを行ってくれました」

佐々木威憲(ささき・たけのり)
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)
1985年生まれ。大阪府出身。大学在学中はアメリカンフットボール部に所属し、卒業後の2008年に民放テレビ局に入社し、主にスポーツ中継番組を担当。2018年12月にファミリービジネス承継のために退社し、2019年4月にWBS入学。同年12月で1歳になった長男を保育園まで毎朝送り届けてからWBSへ向かい、遅い日は午後10時頃まで勉強に勤しむ日々を送っている。

入学後は、実際にどういった授業を受講し、どのような手応えを感じているのか。

「他校では1年目の履修が基礎科目中心となるケースも少なくないようですが、WBSではファミリービジネスに関する授業が豊富に用意されており、入学とともにさっそく受講できます。私の場合は目当てのファミリービジネス関連とともに、『新規事業創造』のようなアントレプレナーシップ関連の授業も受講しています。講義を担当する先生たちは、誰もが非常に情熱的です。ファミリービジネスの授業では、学生たちの家業を実例として挙げながら、今後の経営をどのような方向に進めていくべきかについて、クラス全員で熱いディスカッションを繰り広げます。在学中だけにとどまらず、卒業後も末永く様々なことを相談できそうな先生がたくさんいらっしゃいますね」

多種多様な人脈が築け、大きな刺激を受けられる

多種多様な学生が集うキャンパス内では、どのような人脈が築かれているのだろうか。

「既に起業している人や、働きながら強い課題意識を持ち、現状を変えようとしている人、投資家として活動している中国の人をはじめ、多国籍の学生たちなど、前職時代には接する機会がなかなかなかった人たちと交流することで大きな刺激を受けています。また所属するゼミの先生からも、学内外で活躍されている方々をご紹介頂き、貴重な話を伺う機会を得ています。自分の人生にとって財産となる、素晴らしい機会を与えて頂いていると感じています。一方で、学内には私のように事業承継を考えている学生も多く、同じ志を抱く人たちのコミュニティも形成されています。悩みや迷いにも共通点がありがちなので、そういった人たちと意見交換を行えるのも心強いですね」

国内ビジネススクールにおいてトップクラスの人気を誇る早稲田大学ビジネススクール(WBS)だが、ファミリービジネスの次世代事業承継者を育成するための授業、教員、国内外ネットワークも豊富に揃えている。

2年間で、自分の将来ありたい姿を考え抜く

WBSで学んでいる立場として、同校はどういった人たちにとって特に有意義な場となると考えているのだろうか。

「何らかの課題意識を抱いていて、自分を変えたいと思っている人はWBSを選ぶのがいいですね。多様性に富んだ人たちから強烈な刺激を受けることが大きなプラスになっていると私は感じています」

これに対し、学生を受け入れる側はどのような人を求めているのか。前出の東出教授は次のように述べる。

「まず、自分の世界観を揺さぶられたいという人に興味を抱いてもらえればと思います。個人的には、ローカス・オブ・コントロール(行動を統制する意識の所在)が“自己”にある人にぜひ来てもらいたい。それが“他者”にあると『転勤だから仕方がない……』といったように、他人任せの人生になりがちです。そうではなく、自分の人生を可能な限り自分でコントロールしていきたいと願う人たちにとって、WBSは理想的な環境だと私は思っています。ファミリービジネスの事業承継を考えている場合は、自分自身の人生や家業がどんな方向に進むべきなのかについて、より明確にしたいと考える人に最適でしょう。2年間の学生生活を通じて、将来に対する解像度が飛躍的に高まっていくはずです」