RPAの導入は日本企業が世界で最も進んでいる
ご存じのとおり、日本企業はこれまでもさまざまな形でデジタル活用を進めてきました。近年もAIやIoT、ビッグデータの活用が盛んに語られます。しかし、それらを本当の意味でビジネスに取り込めている企業がどれだけあるでしょうか。欧米企業に大きく水をあけられている。それが現状だと私は思っています。
なぜなら、これまでの日本企業のデジタル技術への対応には大きく3つの課題がありました。「技術起点」「既存ビジネスの改善・改良」「机上での調査・研究」。技術そのものについては最先端の部分まで熱心に調査、研究を行うが、結局それを現状のビジネスの観点からしかとらえられず、イノベーションにつなげられないというわけです。真のデジタル改革を実現しようと思えば、技術を使ってお客様にどんな新しい価値を提供するのかという「企画視点」で発想しなければなりません。また机の上で考えているばかりでなく、アジャイルな意思決定のもと、小さく素早く始めること(リーンスタートアップ)が求められます。
そうした中、実は日本企業が極めてアジャイルに、リーンスタートアップを実現できたことがあります。それがRPAの導入です。パソコン上で決まった手順で行われる作業であれば、あらゆることを自動化できる――。このRPAという言葉は、わずか3年ほど前にロンドンの大学教授が初めて提唱したものです。それがいまやグローバルに広がり、なかでも、特に日本が先行している。実際、我々アビームコンサルティングとRPA BANKの共同調査では、2019年5月現在、従業員数1000人以上の企業で90%、300人~1000人未満の企業で91%がRPAを何らかの形で導入しています。また私自身、RPAを活用した業務改革チームの責任者としてニューヨークやロンドンで業界関係者と交流がありますが、そこでのやりとりからしても日本企業がおよそ1年半は先を行っている。そんな印象です。
日本企業が抱える「7つの業務習慣病」とは
日本企業に急速に浸透しているRPA。しかし、それはまだ第1ステージに過ぎません。今後、本格的な導入効果を得られるか。それは第2ステージに進めるかどうかにかかっています。下の図にもまとめたとおり、日本企業のRPA導入の背景には「働き方改革」がありました。労働時間削減、業務効率化の厳しい要請に対応するため、RPAが導入された。それ自体はアジャイルな判断でしたが、あくまで現場主導。既存業務をそのまま自動化した、いわば「現場型」に留まっています。
●RPAの活用、デジタル改革は第2ステージへ
目指すべき第2ステージは、「直下型」。経営層をトップに据え、全社をあげた推進によりデジタル改革を加速させ、デジタル化を前提にルールや制度まで踏み込んで業務を再構築することが求められます。経営層主導で全社的にRPAを活用し、それによって生み出した時間や人材を新たな価値創造に生かせてこそ、真のデジタル改革といえるのです。
では、第2ステージで成功するために具体的に何をすればいいのか。制度やルールまで踏み込んだ取り組みを行うには、まず現状を見つめ直す必要があるでしょう。日本企業の業務遂行にはいくつかの特徴があります。「終身雇用を前提として業務が属人化している」「現場対応の重視により、業務が個別最適化している」「減点主義により、前例(前任)踏襲になっている」などです。実はこれらの特徴は、単一事業でどんどん成長していくには非常に有効でした。つまり、戦後の日本企業の発展の強力な原動力だったわけです。しかし今は時代が違う。日本型の経営スタイルが、業務の目的や成果を見失わせる要因になってしまっているのです。
さらに私たちは、従来の日本企業のやり方が業務にもたらす弊害を「7つの業務習慣病」としてお話ししています。以下のような習慣病を抱えたままでは、デジタルツールの価値を引き出すことは極めて難しいでしょう。
これからの時代に求められるRPAの要件
一方、第2ステージで使うRPAツールはどのようなものであるべきか。全社利用を見据えた拡張性や高いメンテナンス性を備える「エンタープライズ型」RPAツールが必要です。その要件の一つとして、「オブジェクト型」であるかどうかがポイントになります。オブジェクト型のRPAツールでは、例えば「システムへのログイン」「明細データの入力」といった機能がそれぞれ「部品」としてつくられ、その部品を組み合わせることでロボットを構成します。
オブジェクト型のメリットは、まずメンテナンスが容易であることです。仮にシステムログインの仕様が変わっても、関係する部品だけを改めれば済んでしまう。関係するロボット全部を修正する必要がないのです。私は、この3年のうちに企業内のデジタルレイバー(仮想労働者)が従業員の数を超えると見ています。そうなったとき、仕様変更の度に何千、何万ものロボットを全部修正することはナンセンスです。
さらにRPAは、今後AIやIoTをはじめ新たなテクノロジーと連携していくことになります。そう考えたとき、新たなアプリケーションや環境変化に対応できる柔軟性も見逃せないポイントになる。加えて、監査で求められるセキュリティ要件を満たしていることも必須となるでしょう。
ここで改めて第2ステージの成功のポイントをまとめるなら、「全社業務改革×エンタープライズ型RPAツール」と表現できると思います。現場の視点に留まらず、全社で習慣やルールにまで踏み込んだ体質改善を行い、同時にメンテナンス性や柔軟性、安全性を備え、全社最適を実現できるツールを選ぶ。これを両立してこそ、真のデジタル改革を推進することができるのです。
デジタル化によってどんな未来に辿り着くか
今、第4次産業革命の到来が叫ばれています。あらゆる情報がデータ化され、ネットワークでつながる中で、社会はフルオートメーション化の方向へと進んでいます。そこでは、まさにRPAを核とした「デジタルビジネスプラットフォーム」が人間社会を支えると私たちは予測しています。ほとんどの仕事をデジタルレイバーが担い、人間は知らない間にデジタルレイバーを利用する。経営者は、そうした状況をしっかりイメージして経営の舵取りを行わなければなりません。
現状、ビジネスとデジタルテクノロジーの関係は、まだ“人がデジタルテクノロジーを使う”という段階にあるといえます。そのため、普及の進度や導入効果は使う人によって差が出てしまう。また、事業戦略や企画立案などの意思決定もオペレーション業務に劣後してしまいます。しかし私は、将来“デジタルテクノロジー同士が連携して業務を遂行する”時代が訪れると確信しています。人は、デジタルビジネスプラットフォームから最適なサービスを必要な時に必要な分だけ享受することになります。
そうした環境をいかにして構築するか。これが現在、企業に課せられた重大な課題なのです。人をオペレーション業務から解放し、より高度な意思決定に集中させる。真のデジタル改革によって、いち早くそれを実現できた企業こそが第4次産業革命の時代の覇者となるのです。