今後の自動車は「CASE」がキーワードになる。Cはコネクティッド(インターネットなどとつながる)、Aは自動運転、Sはシェアリング(カーシェア等)/サービス、EはEVカーのことである。そんな中、コネクティッドサービスを提供するビジネスパーソンたちにスポットを当て、一般ユーザーはそれをどう使えばより快適なカーライフを過ごせるのか? 連載の第7回はクルマ販売の最前線にいる、ネッツトヨタ東埼玉の飯塚社長に、コネクティッド時代に売れる車とサービスの条件について聞いた。
ネッツトヨタ東埼玉社長の飯塚素久氏

CASE時代の自動車販売ディーラーはどうなる?

CASEと呼ばれる四つの新しい動きで、自動車産業界は大きく変わるとされている。CASEとはコネクティッド、自動運転、シェアリング/サービス、EVカーのアルファベットの頭文字を合わせたものだ。

そして、CASE時代がやってきたら、「自動車マーケット」は次のようになるというのが斯界の専門家の見方だ。

「自動車産業は内燃機関からEVに基本技術がシフトする。産業構造は根本的に変化する。EVにおける基幹部品はバッテリーとモーターだ。どちらもコモディティ製品である。自動車の部品点数も少なくなる。新規参入のメーカーもあるだろうが、特定メーカーによる寡占市場になりやすい」

果たして、そういうふうに推移するのだろうか。

確かに、自動車会社はあまねくEVの開発に注力している。バッテリーとモーターはコモディティだし、部品点数も少なくなるだろう。寡占化も進むかもしれない。

しかし、この論は自動車会社側の論理だ。自動車会社が「こういうふうになるのではないか」と思っている未来の姿だ。一方で、ユーザーはどう考えているか。ユーザーはそれほどEVが欲しいのだろうか。自動運転の実現を心から望んでいるのだろうか。

自動車産業の未来を決めるのはメーカーではない。決定権を持っているのはユーザーだ。いくらEVを作っても、ユーザーが買わなければEV社会はやってこない。コネクティッドも自動運転もシェアリングも普及するかどうかを決めるのはユーザーだ。

今回の「つながる達人」は長年、ユーザーにサービスしてきた自動車販売店のトップ、ネッツトヨタ東埼玉社長の飯塚素久だ。今後、ユーザーが欲しいと思っている車とはどういったものなのか。EVや自動運転やコネクティッド・カーについて、ユーザーはどう思っているのか。それを知るには彼の知見を聞くのがいちばんだ。

彼がトップを務める自動車販売店グループ、ネッツトヨタ東埼玉の売上高は約331億円(平成30年度)。従業員数は673名(平成31年3月現在)事業所の数は新車店舗33/U-car店舗8/GRガレージさいたま中央/物流センター2である。

今ユーザーはこんなクルマを求めている

――単刀直入に聞きます。今、車を買いに来る人が、車を選ぶいちばんの理由はどういうものですか?

【飯塚】安全と安心です。特に安全機能です。

――そうですか。昔はスピード、デザインの良さ、スペースの広さ、燃費、音の静粛性、環境性能などが自動車を選ぶポイントになったと思うのですが……。

【飯塚】もちろん、今でもそういった点に着目されるお客さまはいらっしゃいます。しかし、ここ最近の関心は安全面ですね。特にご年配の方は自動ブレーキがないと困る、と。「安全な車でないと、子どもに運転しちゃダメだって言われるから」と。

小さなお子さまを乗せて移動するママたちも安全を第一に考えています。うちはトヨタの販売店なのに、「アイサイトがついている車はないんですか?」と聞かれることもあります。アイサイトはスバルの技術なのに……。

それくらい、みなさん、安全を気にしています。「EVが欲しい」「自動運転はいつからだ」と聞かれることはあまりありません。

――「安全、安心」が気になるのは、高齢者の事故の増加やあおり運転の報道が多く流れている影響もあるのですか。

【飯塚】ええ、それもあります。ですから自動ブレーキがきかないかという問い合わせはしょっちゅうですし、ドライブレコーダーは後付けも含めて一気に増えてきています。

あいおいニッセイ同和損保さんが出している、ドラレコがセットされた自動車保険ですけれど、記録するのに、以前は前方だけが映るカメラでした。私どもが「後ろも映るカメラでないとおすすめしにくい」と提案したら、すぐにやっていただいて、それはありがたかった。

事故、あおり運転の話をすると、コネクティッドの価値をわかってくださるお客さまは多いです。コネクティッド・カーを安全、安心の視点で説明するのがいいみたいです。

――ドライブレコーダーで問題はありますか?

【飯塚】付けたほうがいいのですけれど、自動車の車内が写ることを嫌がる方も少なくありません。プライバシーを気にする方もいらっしゃるのです。

安全、安心は気にするけれど、プライバシーを保ちたいという方もまた多いということでしょう。実のところ、スマホを持っているだけですでにプライバシーを公にしているようなものなのですが、しかし、本人はそのことは気にしないのでしょうね。

コネクティッド・カーの現状は?

――では、ネッツトヨタ東埼玉はコネクティッド・カーの取り扱いはいつからですか。

【飯塚】プリウスPHVが最初に取り扱ったコネクティッド・カーです。正直に言うと、プリウスPHVはハイブリッドのプリウスよりは販売量が多いわけではありません。我々としては本当の意味でのハイスペックなコネクティッドサービスを提供するのはまだまだこれからだと思っています。

お客さまから「コネクティッド・カーって何?」と聞かれるようになったのは昨年からのこと。コネクティッド機能の付いたクラウン、カローラが話題になってきて、加えてトヨタイムズのテレビCMが出てきたからですね。ただ、我々自身もまだ勉強中なんですよ。「CASE」という言葉も含めて、もっと勉強していかないといけない段階です。

――確かに決してわかりやすいことではありませんね。

【飯塚】CASEのなかではもっとも説明が難しいのがコネクティッドではないかと思います。一般的には、つながっていると、車から直接、車両情報が取れる。オペレーターが常時、さまざまなことに応えてくれるといったメリットがあります。車両情報が取れるから、車が故障する前に点検できますよと話してはいるのですが、お客さまからしてみれば、「ほんとうにそうなの?」といった気持ちもあると思うのです。なんといっても、目に見えるわけじゃないから、どうやって説明して伝えるかが重要ですね。

「点検が楽になります」よりも「コネクティッドサービスで車を見守っていますから安心して乗っていただけます」のほうがお客さまにはわかりやすいのではないのかなと。

いずれにせよ、コネクティッドのような見えないサービスは、我々販売店の人間がお客さまから信頼していただかなければ通用しないと思います。

――私はほかの販売店にも行きましたけれど、コネクティッドサービスはEV、自動運転、シェアリングサービスに比べると、説明がいちばん難しいと話す人がほとんどです。

【飯塚】私の理解ですけれど、コネクティッドというのは、「走る・曲がる・止まる」の車の基本性能に、「つながる」という機能が追加されたことととらえています。

「走る・曲がる・止まる」そこに「つながる」ということが付いたことで、より「安心・安全・快適」になり、かつ、楽しくなりますよと説明しなければならない。

機能の説明ではなく、楽しさを説明しなくてはいけないなと感じています。たとえばスマホは「電話で話す」という基本性能に「検索ができる」「SNSができる」「電子マネーが付いている」「動画やゲームが楽しめる」といった目に見えるメリットや楽しさがアプリとして付いています。みなさんはスマホ自体よりも、便利なアプリ、楽しいアプリに魅力を感じています。

コネクティッドの場合も「つながる」という機能があるから、「つねに見守ってもらえる」「オペレーターサービスで飲食店を予約してもらえる」という便利な魅力が生まれた。コネクティッドもアプリがいるんですよ。

たとえば、あいおいニッセイ同和損保さんが出している「トヨタつながるクルマの保険プラン」はコネクティッドにおけるアプリのひとつですね。

保険という商品自体、元々は目に見えないサービスです。しかも、自動車保険って横並びで、どれも似たようなものだった。それがコネクティッドが始まったために、安全運転をすると保険料が安くなるといった具体的なメリットが付加された保険が出てきた。

コネクティッドという目に見えないサービスをわかりやすくするにはメリットがあるアプリのような商品を増やすことが重要でしょう。

――そうか。目に見えないサービスだから、どの保険とどの保険が違うかなんて、よくわからなかったけれど、「トヨタつながるクルマの保険プラン」はハッキリとほかとは違う。そこだけは誰でも理解できるわけですね。

【飯塚】はい。セールスがお客さまにお伝えすることとは「具体的なメリット」なんです。そこがあれば説明しやすい。

「安全運転のスコアを付けて、それで月々80点以上なら保険料が安くなりますよ。」また、「コネクティッド・カーですから、情報はきちんとセンターが受け止めていますよ。」、「事故があっても安心ですよ。」と言うことができる。

――具体的メリットですね。

【飯塚】そうです。何となく「安心・安全・快適」と言っても、お客さまには伝わりません。

いなくなった「ドライブが趣味」という人

【飯塚】私が危惧しているのは最近、「趣味はドライブ」と言う人がいないこと。採用面接で話をしていても、若い人たちは目的のないドライブをしなくなっているのがわかります。

――言われてみればそうですね……。

【飯塚】昔は、暇だから、ちょっと車を走らせてみようなんてことがありましたけれど、最近はそんなことはしない。

ただ、先日、面白いサービスの話を聞きました。ヨーロッパでの話です。

我々が大学生だった20数年前かな。まだ独身で、スポーツカーに乗っていた人もいるでしょう。その当時の車をレンタカーとして貸してくれて、なおかつ、車内には当時、流行った音楽が流れている。ただし、自動車は古いからカーナビなどはない。そこで、そうした車を先導するコンシェルジュみたいな人がいるサービスです。つまり、昔、持っていた車、あこがれた車に乗ってドライブを楽しむことができるサービスです。

――それ、需要あるでしょうね。一度、やってみたい。飯塚さんは車に乗る楽しさを増やさないと、車は売れないとおっしゃるわけですね。

【飯塚】そうです。お客さまは車の機能を買うわけではありません。楽しさにお金を払うのです。

たとえば、日本の昔の車でも、海外で評価が高い車ってたくさんあるんですよ。トヨタ2000GTとかスープラとか、日産GT-Rとか。

日本に来た外国人観光客の方で、そういう車に乗りたい方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。でも、標識がわからないとか、看板が日本語の表記だったりするでしょう。そんな時はやはり先導するコンシェルジュがいたらいいですよね。

自動車の大変革時代と言いながら、専門家が語るのはEVだったり、自動運転だったり、機能だけの話です。それよりも、自動車業界にいる人間は、もっと車を楽しんでもらう、もっと運転したくなるような違うサービスを考えなくてはいけないのでは。機能ではなく、車を楽しんでもらう仕掛けがいるんです。

――飯塚さん、いいこと言いますね。確かに、モビリティサービスって、ユーザーを楽しませることですよね。車の機能を発達させるだけじゃないことを考えなくてはいけない。スマホのアプリは使う人を楽しませようとするものがたくさんあります。

【飯塚】やっぱりドライブのスタイルを変えるべきです。そうでないと、ドライブが趣味という人は出てこない。楽しいから人は使うんです。スマホだって、若い人たちは機能を楽しんでいるわけじゃない。YouTubeを見たりして動画を楽しんでいる。YouTubeでライブの動画を見て、次は、実際にライブに足を運んでいく。

車も楽しい使い方をどんどん考えて訴えていかなければならない。コネクティッドはそうすれば喜ぶ人が増えます。

実際にコネクティッド・カーを買った人たちの感想

――コネクティッド・カーを買ったお客さんはどういった感想を持っていますか?

【飯塚】コネクティッドサービスに興味を持たれて、なかには「燃費がよくなった」という人がいます。

実は当社は10年以上前から自前のコールセンターを持っていて、お客さまとはセールスだけでなく会社としてもつながっていると自負しています。

――それは販売店としてはあまりないことですね。

【飯塚】コネクティッド・カーが出る以前からコールセンター機能を持っていて、定期点検の時期が迫ってくると、営業からではなく、コールセンターから連絡するようにしていました。点検のスケジュール調整はコールセンターでできます。営業はスケジュールの調整ができた後に、「ご予約いただいたみたいですね、ありがとうございました」ってお礼の電話をして、顧客との関係をつなげる。営業の負荷を極力削減するためにコールセンターを立ち上げました。

――それが今、役に立っている。

【飯塚】はい。販売店の営業って、忙しいんですよ。このコネクティッドの話もそうだし、「トヨタつながるクルマの保険プラン」の説明もしないと、契約を獲得できない。だから、定期点検の日にちの調整などはやれる人にやってもらう。

いま、働き方改革だから残業を減らせ、休みを取れと言われているなかで、営業の負荷を減らすにはそれくらいしないといけない。

――何人ぐらいいるんですか?

【飯塚】コールセンターは15人くらいです。やり取りはすべてパソコンを使って、オペレーターが話した内容は全部入力されています。お客さまの情報はきちんと店舗とコールセンターで共有して、お客さまにコールするときには、その内容を確認したり、お客さまとやり取りしたことは全部履歴を残している。

――お客さんの反応は?

【飯塚】おおむね好評ですね。なかには、担当ではない人間から電話が来ることを嫌がる方もいらっしゃいますけれど。だけど、営業が本来の営業活動に集中するにはそれをするしかない。

今、トヨタはモビリティサービスを大切にすると言っています。

僕はモビリティサービスとはジャストインタイムサービスだと思うんです。「必要なときに必要なサービスが必要なだけあること」。

KINTOのようなサブスクリプションサービスでも、もっと車種を増やして、たとえば「ゴルフ旅行へ行くんだけど、人数が4人だから、荷物が入る車を1週間借りたいな」とかができるようにするといいんじゃないでしょうか。使いたいときに使いたいクルマが使える。「それはレンタカーにまかせればいい」なんて言わずに、お客さまの気持ちにならないと……。

――飯塚さんの話を聞いてると、サービス業の考え方ですね。

【飯塚】僕はそう思います。販売店はサービス業ですから。たとえば、EVの説明で言えば、EVのほうが環境にいい、ヨーロッパや中国ではEVだけになるといった話をしても、お客さまはピンとこない。それより、EVになったら、ガソリンスタンドに行かなくていいですよといったお客さまにとってのメリットを話さなくてはならない。

EVになったら車がコモディティになるとおっしゃっている方がいますけれど、車がコモディティになったら買わなくなると思う。シェアードサービスの車を使うんじゃないでしょうか。

車が欲しい、車を買いたいと思う方はコモディティではなく、やはり愛車を持ちたいと思うんです。そして私たちも愛車を売っていきたい。

「ドライブ」に新しい価値を付けるには?

【飯塚】今度、弊社のお客さまがトヨタとあいおいニッセイ同和損保さんからインタビューを受けるんです。

――それは?

【飯塚】ヴェルファイアにお乗りいただいている女性で、安全運転スコアが9カ月連続で100点満点だという方です。

――つまり、9カ月間、急加速、急ブレーキ、速度超過をしなかったということですね。

【飯塚】全国で100点満点をずっと続けている方、100人もいないそうです。でも、そういうことがわかるのだから、コネクティッド、トヨタつながるクルマの保険プランって意味がありますね。

車って、なぜ乗っているかって、便利という人もいるけれど、僕たちが若い頃は乗っているだけで楽しかったんです。繰り返しになりますが、自動車業界の人間が考えなきゃいけないサービスって、お客さまを楽しませることですよ。

たとえば、コネクティッドされている車であれば、それも「e-Palette」であれば、移動の間にほかの車よりも快適にライブ音楽が聴けるとか、あるいは英会話の授業が受けられるとか。

それがいいかどうかはわからないけれど、これまでとは違うサービスが目に見える形で受けられるならば、この車にしてみようかというお客さまが出てくるはずです。

――「ドライブ」に新しい価値を付け加える……。

【飯塚】それもひとつの道です。トヨタがめざす「FUN TO DRIVE」、走る楽しみと喜びを復活する。もっといろいろできるはずです。

自動運転の機能が付いていても、やっぱりサーキット走行はしたいという人だっているでしょう。映画の撮影に使われた道を走ってみたいとか、昔、恋人とデートした道を走りたいとか。

――飯塚さんの仕事は「趣味はドライブ」という人を増やすこと?

【飯塚】そうです。

たとえば、「つながる」機能を持った車で言えば、未来の話ばかりではなく、我々が経験してきた「過去とつながる」楽しさの提供とか。未来は、これから作りあげることができる。しかし、過去はこれまではなかなか再現できなかった。技術が発達したからできるようになったことです。

僕自身、今から25年前に卒業旅行で行ったところへ、昔の仲間と一緒に昔の車でドライブ旅行できたら、楽しいと思う。それも買うのではなく、シェアードサービスの車で行きたい。

日本の古い車でいい車はどんどん海外へ行ってしまうんですよ。日本でも博物館に並べておくだけじゃなくて、乗ってもらえばいいんじゃないかな。まあ、「なんだ飯塚は。あいつは変なことばかり言って」と言われそうですけれど。

「トヨタつながるクルマの保険プラン」もどんどんブラッシュアップして、楽しみを追加してほしい。正直、今はまだお客さまにすすめる際、「こんな楽しみがありますよ」と言える段階ではない。コネクティッドもトヨタつながるクルマの保険プランも。

「便利ですよ」は言えます。でも、「ほら、こんなに楽しくなるんですよ」と言えるだけでずいぶんと違ってきます。

――飯塚さんは「車の楽しみ」を考える人なんですね。トヨタコネクティッドとあいおいニッセイ同和損保にまかせずに、ユーザーにいちばん近い立場にいる飯塚さんたちがなんでも考えてください。

(野地秩嘉=文 大沢尚芳=撮影)