土地活用や賃貸経営の競争が激しくなる中、成功するオーナーになるための条件とは──。ファイナンシャル・プランナー、不動産コンサルタントで、自身も賃貸経営を行う橋本秋人氏に聞いた。

エリア内で競争に勝つアピールポイントを

──最近の不動産市場の動向、その中で土地オーナーが留意すべきことなどについて聞かせてください。

【橋本】地価については現在まで上昇傾向で、今年、公示価格の全国平均は4年連続の上昇となりました。ただ、2019年分の公示価格は18都道府県で上昇した一方、28県で下落するなど地域差もあります。さらに同じ県内でも、細かく見ていけば当然地域によってかなり価格差があるわけで、現実の土地活用において“平均”の数字にあまり意味はないでしょう。賃貸経営に影響する人口動態についても同様で、日本全体では減っていますが、エリアによっては増加しており、今後は外国人の流入がさらに見込まれる場所もある。土地オーナーはこれまで以上に所有する土地を取り巻く状況、その価値を精査する必要があると思います。

──これから土地活用や賃貸経営を始める場合、どんなことを意識すべきでしょうか。

【橋本】一言でいえば“エリア内での競争にいかに勝つか”がポイントです。仮に地域の賃貸需要が20%減ったとしても、残りの80%の中で選ばれる物件であれば入居率を維持できます。同じ地域で、淘汰される物件と競争に勝つ物件がはっきり分かれてくるのがこれからの時代です。

では具体的にどうするか。宅配ボックスや防犯機器など、設備面で入居者のニーズに応えるのもいいでしょう。また耐震性などの安心に加えて建物の断熱性能についても、今後いっそう目を向ける人が増えるはずです。今の20代、30代の人たちは、子どもの頃から高気密、高断熱の快適な家で生活していますから、室内の暑さや寒さにはとても敏感です。

あわせて見逃せないのが、建物や空間の第一印象。“広くて趣味のスペースも取れそう”“きれいで、友達も呼べそう”──。そうした印象は、部屋探しをしている人にとって決め手になります。特に最近は、一生賃貸で暮らすという人も増えていますから、自分のライフスタイルに合っているか、価値観にマッチしているかが、物件選びの大事な基準になっている。自分が気に入れば多少ほかより賃料が高くても入居を決めるという人は少なくありません。

──入居者に対してのアピールポイントが必要なわけですね。

【橋本】そのとおりです。ほかの物件にない強みがあれば、入居者の募集を担う仲介会社もお客様に勧めやすい。空室になっても「あの部屋は、こういう人に向いている」とすぐイメージできるわけです。これは大事なことで、競争が激しくなる中で特徴のない物件は結局市場に埋もれていってしまいます。

管理会社から家賃交渉の連絡が入ったらどうするか

──今後、賃貸住宅以外の土地活用も増えていくと考えられますか。

【橋本】市場のニーズの変化にともなって、土地活用の手法はいっそう多様化していくでしょう。立地によっては店舗や事業所はもちろん、高齢者向け施設や宿泊施設、シェアオフィスなども考えられます。いずれも、まさに時代が要請しているニーズといえます。

経営者として“自らの目”で見て、考え、判断する。まず、これを実践してほしいと思います。

橋本秋人(はしもと・あきと)
FPオフィス ノーサイド 代表
ファイナンシャル・プランナー(CFP/1級FP技能士)
不動産コンサルタント

1961年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、住宅メーカーに入社。 30年以上、相続支援や不動産活用の実務に携わった後に独立。ライフプラン、住宅取得、不動産活用、相続などについてのアドバイスを行う。自らも賃貸経営を実践する。

多様化という点では、自宅の土地を生かした賃貸併用住宅も選択肢の一つです。核家族化が進み、自分たちが暮らす分にはそれほど大きなスペースは必要ないという人は案外多い。ならば、一部分を別の用途に使えるようにして収入を得ようというわけです。その地域に合った活用ができれば、ローン返済の一助にもなります。

いずれにしても、土地という資産は、所有しているだけでは価値を生まず、むしろコストが発生します。その意味では、住宅、非住宅を問わず、さまざまな選択肢の中から、最も土地の価値を引き出せる建物、より安定したキャッシュフローを生み出せる活用法を長期的な視点から見極めることが求められます。

──実際の賃貸経営は、管理会社などの協力を得ながら進めることになります。付き合い方のコツはありますか。

【橋本】一つ大事なのは、管理会社は大切な経営パートナーであると認識することです。だとすれば、自分の要望を言うばかりでなく、相手の話もきちんと聞かなくてはいけません。

例えば、管理会社から家賃交渉の連絡が入ったら、基本的にはできるだけ応じたほうがいいと私は思います。もし逆の立場で、何回入居者を案内しても家賃交渉に一切応じないオーナーがいたらどうでしょうか。「きっとあのオーナーは話を聞いてくれない」と思えば、やがて力も入らなくなります。それは、入居者を逃していることにほかなりません。ある面では、管理会社もオーナーを選んでいるのです。

なんといっても現場の細かな情報を一番持っているのは、管理会社の担当者です。対等にやりとりできるオーナーには、リフォームや修繕などについても親身になってアドバイスをしてくれるでしょう。管理会社にとっても、選ばれる物件が自社の収益につながるわけですから。

──最後に土地の活用を考えるオーナーにメッセージをお願いします。

【橋本】所有する土地で何らかの運用をするとなれば、それは事業です。パートナーの事業者と協力して、物件という“商品”に磨きをかけることで、入居率や収益率を高めることが可能です。例えば株式に投資をしても、自分の工夫や努力で株価を変えることはできません。この違いが土地活用の面白いところであり、やりがいのあるところです。「自分は素人だから」というオーナーもいますが、入居者という“お客様”は建物や住まいのプロではありません。入居者目線で意見を言ったり、アイデアを出すことはオーナーの一つの役割といえます。

そのためにも、ぜひ実践してほしいのが“自分の目”で見ることです。これも金融商品と違って、物件の変化は自分で直接確認することができます。事業者のサポートは受けながらも、経営者として自らの目で見て、考え、判断する。そうした主体性を持つことが成功する土地活用の重要な条件だと思います。