提供:キリンビール株式会社
成熟した市場においてイノベーションを起こし、顧客からの支持を獲得するには何が必要か――。まさにその答えを提示しているのが、キリンビールであり、今春フルリニューアルを果たした同社の「新・一番搾り」だ。長く縮小傾向が続くビール類市場(ビール、発泡酒、新ジャンルの合計)において、キリンビールは今年上半期の販売数量を前年比プラスとした。それを牽引しているブランドの1つが「新・一番搾り」である。絶好調の背景にあるものとは――。

ブランドのDNAの魅力を明快に消費者へ

キリンビールのビール類の販売が好調だ。2019年上半期の販売数量は前年同期比で102%とプラス成長を実現した。ビール類市場全体が縮小する中で、その好調を力強く後押しするのが同社のフラッグシップブランド「一番搾り」である。今春フルリニューアルを果たし、5月より本格展開している「新・一番搾り」(缶)が、歴代売上No.1を達成(歴代フルリニューアル後60日間の「一番搾り」(缶)出荷実績として)。特に20代の購入者について2018年5月と2019年5月で比較すると伸び率は140%を超えており、若年層にも間口が広がっていることが見てとれる。「現在の若年層はただ新しい商品というだけでは飛びつかず、買い物を失敗したくないという意識が強くなってきている」と言われる中、これは大きな成果だろう。

「一番搾り」が誕生したのは、今から29年前の1990年。誰もが知るメジャーブランドの何が、ここにきて支持されているのか――。結論から言えば、それは端的に“おいしさ”だ。「おいしかったのがもっとおいしくなった」「一番搾りならではの新しいおいしさを感じる」「リニューアルにより今までより飲みやすくなった」……。「新・一番搾り」に寄せられた消費者からの声である。

“おいしさ”がヒットの要因と聞けば、当たり前のように思うかもしれない。しかし、成熟したビール市場で他の商品と差別化を図ろうと思えば、できるだけ具体的なポイントを訴求したくなる。例えば、麦芽やホップといった原料へのこだわり、キレやコクといった味わいの変化などだ。

だが、それはあくまでメーカー側の論理。原料や味わいの変化も重要だが、そこに消費者の強い関心はない――。キリンビールマーケティング本部マーケティング部の部長を務める山形光晴氏はそう主張する。2015年にキリンビバレッジに入社。「生茶」や「午後の紅茶」を担当した後、2017年よりキリンビールのマーケティング戦略を担ってきた山形氏が目を向けたのは、何より「一番搾り」の本質であり、原点である。

そもそも1990年の発売時、「一番搾り」が目指したのは「キリンのイメージをしっかり持った最上の味の生ビール」だった。1980年代、キリンビールは多様化する消費者の嗜好に合わせ、麦芽に、酵母に、発酵技術にこだわったさまざまな新商品を送り出した。しかし思うように販売は伸びない。インパクトのある特色は、短期的には消費者の目を引くが持続しなかった。その中で誕生したのが、一番搾り麦汁だけでつくる、おいしさにこだわったビールだったのである。

どんなブランドにもそれを成立させているDNAがある。「一番搾り」についても、そのDNAをいかに消費者に魅力的に見せるかが重要だ。そうした思いのもと、山形氏主導で実施されたのが2017年のリニューアル、それに続く今回のリニューアルだったというわけだ。

実際、キリンビールがリニューアルにあたって消費者に「ビールに求めるもの」をあらためて聞いたところ、味覚についてはキレやコクよりおいしさを求めていることが確認された。そして、「新・一番搾り」が高い評価を得たのも、まさにおいしさだ。試飲者の満足度は92%(※)にも上ったという。

(※)キリンビール調べ(5月)

判断基準は常に「お客様」であり、「現場が主役」

確かな復調を見せるキリンビール。その根本的な要因を考えるとき、決して見逃すことができないのが2015年にキリンビールの社長に就任した布施孝之氏による“布施改革”だろう。改革のポイントを一言でいえば「お客様第一」。社長就任後、布施氏は全国の事業所に足を運び、「お客様のことを第一に考える会社になろう」と繰り返し呼びかけた。判断基準は常に「お客様」であり、「現場が主役」「本社はサポート」とのポリシーだ。

布施改革を支えているもの。それは、1982年にキリンビールに入社して以来の布施氏自身の経験にほかならない。入社当時、キリンビールはシェア6割を超える業界トップ企業。しかし、80年代後半から他社の躍進により、徐々にシェアを下げることになる。それでも、社内の内向き志向はなかなか変わらず、厳しい戦いが続いていく。営業畑を長く歩んできた布施氏は、そうした状況を目の当たりにする中で、お客様第一、現場こそが主役の思いを強くする。今も社員と膝詰めで行う「対話集会」を継続する理由。それは、必ずそこに課題を解決する鍵があると信じているからだろう。

「ビールという飲み物だけが提供できる“毎日の喜び”がある」と布施氏は言う。かつてビールには、仕事終わりに男性が飲むもの。そんなイメージがあったかもしれない。しかし、女性の社会進出や働き方改革が進み、ビールを消費する層は広がり、ある面でより日常のものになった。充実した中食などと一緒に、“ちょっとおいしいものを”といったニーズもあるだろう。そうした中で、いっそう日々の幸せを実感できるビールを届けたい。それがキリンビールの思いであり、今回の「一番搾り」のリニューアルの狙いでもある。

社内改革が着実に実を結び始めたキリンビール。布施氏は、今後のさらなる改革や戦略について次のように語る。

「過去について他責とせず、ノーサイドにして未来に向けた議論を進めていった結果、会社全体のベクトルが揃い、『お客様』を主語にすべてを語れるようになってきた。今後はこのベクトルをより太く、強固なものとするため、新商品に頼る戦い方ではなく、10年後も残すブランドを絞り込み、『絞りのきいたマーケティング』へいっそうシフトしていきたい。強い組織と絞りのきいたマーケティングでお客様にしっかり価値を届けられれば、キリンビールはまだまだ成長できると確信している。フラッグシップの『一番搾り』についても、さらなる改良によって日本のビールの本流とし、ビールブランドのナンバーワンを目指していく考えだ」

誰もが知るメジャーブランドのリニューアルは、どんな分野でも難しい。消費者の期待感は大きく、一方で従来のファンの目は厳しい。その中で、確かな支持や評価を得るには、やはり商品の本質に磨きをかけるしかない。一番搾り麦汁だけを使った「麦本来のうまみが感じられる、調和のとれた雑味のない味わい」に磨きをかけ、さらに「澄んだ麦のうまみが感じられる」ビールを目指した「新・一番搾り」。“おいしさ”への支持を背景に、今年7月の製造数量を前年比約1割増とするというこのビールの進化がどれほどのものか、一度試してみる価値がありそうだ。

布施孝之(ふせ・たかゆき)
キリンビール株式会社 代表取締役社長
千葉県生まれ。1982年早稲田大学商学部を卒業し、キリンビールに入社。2001年東京支社営業推進部長、03年営業部営業企画担当部長代理、05年首都圏営業企画部長、08年大阪支社長、10年小岩井乳業社長、14年キリンビール副社長。15年より現職。