1991年に創業し、システムソリューション事業やWebソリューション事業などを手がけるアイル。かねてより業界内で高い知名度を誇り、ここにきて各種メディアの注目企業ランキングでも上位にランクインを果たしている。今年、東証一部上場を果たした同社の事業スタイル、それを支える人材戦略について、代表取締役の岩本哲夫氏に聞いた。
岩本哲夫(いわもと・てつお)
株式会社アイル
代表取締役社長

日本大学を卒業後、大塚商会に入社。販売管理システムの営業でトップセールスに。1991年にアイルを設立。2007年ヘラクレス、18年東証二部、19年東証一部に上場。

価格競争とは一線を画し提案内容で他社と差別化

──現在の業績や経営状況から教えてください。

【岩本】おかげさまで創業以来、リーマンショック直後の一時期を除き、増収増益を継続しています。現在、取引社数は約8100社に上り、取引継続率は約98.2%(※)。例えばアフターサポートは取引の継続を支えている要素の一つです。お客様の業種ごとに専任の担当を置き、知識、ノウハウを蓄積しているため、お客様の業務を理解した上で、的確かつ迅速に対応することができます。アフターに限らず、すべての社員が役職などに関係なく、自律的に判断、行動できるようにする。そうした環境の整備は、アイルが最も力を注いでいることといえます。

──新規顧客の開拓はどのように行っていますか。

【岩本】検索や口コミなどをきっかけにホームページ経由で問い合わせをいただく流れが一つ。一方、銀行などからのご紹介も多く、商談の見込み件数を常に潤沢に抱えている状況です。そして商談では、「リアル」と「Web」を融合した独自のソリューションをご提案することで、他社と差別化。価格競争とは一線を画し、昨年度も競合商談での勝率は93%を超えています。

──具体的にどのようなソリューションが支持されているのですか。

【岩本】販売、在庫、生産などのリアルな数字を扱う基幹業務システムとBtoB、BtoCのECサイトなどをシームレスに連携し、事業活動全体を総合的に管理できる仕組みをご提案しています。リアルとWebの融合の重要性についてはすでに各所で指摘されていますが、実際に1社でこれを実現できているSI企業を私は知りません。当社へのお客様からの評価、また当社の業績の伸びが、私たちの独自性の証しだと考えています。

ご存じのとおり、いまやビジネス、社会のあらゆる側面がデジタル化され、それが企業活動の基盤になってきている。今後はリアルとWebを分けて考えることがナンセンスになっていくでしょう。その意味では、私たちアイルが優位性を発揮できる場面はいっそう増えるはず。AIやRPAによる業務効率化も話題ですが、表面的・部分的な課題解決ではなく、お客様のビジネスの本質を見極め、ビジネス全体をサポートしていくことを意識しています。

「月報会議」で全社の意思統一
自律と協調を両立

──アイルの躍進を支える社員の育成方針について聞かせてください。

【岩本】先ほど、社員の自律的な行動について少しお話ししました。一人一人がアイルの代表として、経営的な目線を持って仕事をしているのが当社の特徴です。例えば、営業担当自らお客様の現状を分析し、システムの設計図を描く。十分な権限と自由度を与えることで、他社にないスピード感を実現し、同時に社員の情熱を引き出しているのです。昨今は、人手不足や社員の離職が社会問題となっていますが、個人個人が主体的に働ける当社の離職率は極めて低く、それも人材の質の向上につながっています。

──自律性を重視すると、組織として管理するのが難しくなりませんか。

【岩本】大事なポイントです。当社が目指しているのは、秩序ある混沌であり、自由。その実現のために行っているのが定例の「月報会議」です。会議では、部門ごとの数字はもちろん、案件一つ一つの勝因、また敗因、活躍した社員の事例などを詳細にまとめたレポートを作成し、全社員に配布します。インサイダー情報にかかわる部分を除き、すべてをオープンにしています。

加えて、私自身の考え、思いも毎月A4用紙2~3枚にまとめて共有している。そうして社としての方向性を示すことで意思統一を図り、それを踏まえて各社員が伸び伸びと仕事に打ち込めるようにしているため、自律と協調を両立できるのです。

全社員が参加する「月報会議」。支店にも、リアルタイムで動画配信される。経営に関わる情報を最大限オープンにすることが、組織、個人のベクトル合わせにつながる。
毎月の報告書には、社長の所感もびっしりと書かれている。

──取引先との関係で大事にしていることはありますか。

【岩本】一言でいえば、「フィフティ・フィフティ」であることを心がけています。お互いに言うべきことは言う。依頼されたことに応えるだけではプロではありません。お客様の立場になればイエスマンを求めているわけでないことは明白でしょう。既存の枠組みの範囲内で物事を考えていても発展には限界があります。それを打ち破るお手伝いこそが私たちの使命であり、使命を果たすことが当社自身の成長の原動力なのです。

──最後に、今後の抱負を聞かせてください。

【岩本】真実は権力に勝る──。社員とも、お客様とも、地位や立場ではなく、真実を基本にして付き合うのが私の経営者としてのポリシーです。今後もそれを貫き、競争の激しいSI業界でより確かな存在感を示していきたいですね。今年の東証一部上場もそうですが、まずはすべての社員が誇りを持って働ける環境にさらに磨きをかけていきたいと思っています。

社会環境、ビジネス環境が刻々と変化する中、何より求められるのは“本質を見抜く目”にほかなりません。「企業は人である」──技術の進展が著しい今こそ、この言葉を肝に銘じる必要があると強く感じています。

(※)2018年7月末時点。