「収入は多いほうだと思うが、家計にゆとりが感じられない」──こうした声は案外多い。多忙なビジネスパーソンがお金と上手に付き合うにはどうしたらいいのか。ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんに聞いた。

「いつでも貯められる」と後回しにしていないか

──高収入といわれる水準にあっても、お金の面で不安、悩みを持つ人は少なくないと聞きます。なぜでしょうか。

【風呂内】一つには、高収入だとついついハイコストな生活になりがちということがあります。付き合いが多く、交際費が膨らみやすいし、住まいや子どもの教育にお金をかけている人も多い。「自分は平均年収の2倍だから、このくらい大丈夫だろう」という感覚でお金をつかってしまい、いつまでたっても貯まらない。預金通帳すら確認していないという人もいます。

そもそも家計の豊かさを示すものとして、年収はごく一部の要素だと私は考えています。習慣的に資産形成に取り組んでいるか。親世代の資産状況はどうか。長期的には、そうした複数の要素で家計の豊かさは形成されていきます。実際、年収1000万円の30代で貯蓄が数千万円ある人もいれば、50万円に満たない人もいます。

──そのほか、富裕層の人たちの話を聞いて感じることはありますか。

【風呂内】「貯めようと思えば、いつでも貯められる」。そうした意識の人は多いように感じます。確かに、高い収入を得ていれば、気持ち一つで貯められるという面はあるでしょう。しかし現実は、いつか、いつかと後回しにしてしまう……。これが悪いパターンです。

また資産運用に興味がある人の場合、結論を知りたがる傾向も強いですね。「何に投資すればいいか、具体的に知りたい」と。エグゼクティブ層の人は、仕事で忙しく、なかなか自分のお金の管理に時間を割けない。そのため、すぐに成果を得ようと考えているのかもしれません。しかし当然ながら、投資対象は目的や年齢、資産状況によって異なり、誰にでもあてはまる“結論”は存在しません。

お金以外のことにエネルギーを注ぐために

──資産運用を始めるには、やはり自分で勉強することが大事でしょうか。

【風呂内】そうですね。一定の知識があれば、商品の説明も理解しやすいし、自分から質問もできます。ただ、必ずしも高いレベルの知識を身に付ける必要はないでしょう。資産運用に上手に取り組んでいる人は、ベストではなく、ベターを心がけています。なぜならベストにこだわると、勉強の時間や労力など目に見えないコストが余計かかってしまう。また、初めから大きな額の投資をして、大きなリスクを抱えることにもなりかねません。そうではなく、ベター、ベターを積み重ねて、資産の累積額を高めていく──。資産運用の最大のポイントは、いかに長く続けられるかです。

──寿命が延び、リタイア後の時間が長くなる中で、意識しておくべきことはあるでしょうか。

【風呂内】平均寿命は0歳の人の平均余命。すでに40歳、50歳まで生きることができた人の年齢に、その時点からの平均余命の年数を足すと、平均寿命を超えることになります。資産運用というものは、そうした長い人生の中でのお金の「やりくり」だと考えるといいと思います。資産の額も大事ですが、俯瞰的に自分の、また家庭のお金の出入りを見つめて、赤字にならないよう都合をつけていけばいいのです。

厚生労働省「平成29年簡易生命表」より。

資産運用の目的は、お金を増やすことでしょうか。むしろお金以外のことに人生のエネルギーを注ぐために行うのが資産運用ともいえます。お金がネックになって、自分のやりたいことができないのはもったいない。だから、お金の手当てをしておく。お金が手段であることを忘れてはいけないと思います。

現場の営業担当は貴重な情報源

資産運用とは長い人生におけるお金の「やりくり」と考えるといい

風呂内亜矢(ふろうち・あや)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP®認定者
宅地建物取引士
住宅ローンアドバイザー

システムエンジニアだった26歳のとき、貯蓄80万円でマンションを購入。お金や不動産に関心を抱き、不動産会社に転職。2013年、ファイナンシャルプランナーとして独立。現在は夫婦でマンション4室を保有し、賃料収入を得ている。さまざまなメディアで「お金に関する情報」を精力的に発信している。

──資産運用にあたって、金融機関や不動産会社とは、どのように付き合うのがいいでしょうか。

【風呂内】私自身、かつて不動産会社に勤め、営業と営業支援を経験しました。また、顧客として金融機関や不動産会社とやりとりすることもあります。その中で感じるのは、やはり現場にいる営業担当者が一番詳細でリアルな情報を持っているということです。優秀な営業は情報収集を欠かしません。

だとすれば、顧客は彼、彼女らを貴重な情報源として積極的に利用すべきです。もちろん相手が売る立場にあることは頭に入れておく必要がありますが、その上でしっかりと情報を引き出すという意識を持つといいと思います。

──最後にあらためて、お金と上手に付き合いたいと考える読者にメッセージをお願いします。

【風呂内】これからの時代は、資産の延命をいかに図るかということがますます重要になってきます。それを実現するには、相応の武器がいるでしょう。ただ、誰にとっても万能な武器はないので、自分の目的や現状に合ったものを探さなくてはいけません。それも、一つではなく複数を組み合わせることができれば、今後さまざまな変化が起きても対応しやすくなります。

資産運用というとリスクのことが頭に浮かび、なかなか踏み出せないという人もいますが、基本的にリスクは投資金額で調整することができます。繰り返しになりますが、ベストや完璧さを追求するよりも、地道にベターを積み重ねて、堅実なお金のやりくりを実践してほしいと思います。