日本特殊陶業は1936年の創業以来、エンジン部品のスパークプラグを製造する総合セラミックメーカー。他にも、排気ガスセンサ、半導体パッケージ、機械工具など提供製品の幅を広げ、近年は医療、環境・エネルギー、次世代自動車の領域での製品開発にも力を注ぐ。加えて昨年、シリコンバレーに新規事業創出の拠点となる「ベンチャーラボ」を設立。同社の技術開発本部を統括する大川哲平副社長と、アーティストのスプツニ子!氏に、コラボレーションやイノベーションの意義について語ってもらった。

ポイントは異なる強みの掛け合わせ

――日本特殊陶業はセラミックを中心とした「モノづくり」の力を生かして活動のフィールドを広げてきました。熱い思いと独自の技術で新分野に挑戦するというメッセージが込められた「特殊で何が悪い?」というテレビCMも印象的です。

【大川】当社の技術も製品も、言ってしまえば“特殊”です。しかも多くの製品は機器の内部に組み込まれ、表に出ることはない。スパークプラグや温度センサなどのシェアは世界でもトップですが、知る人ぞ知るという地味な存在。そこでもうちょっとアピールが必要じゃないかと、社名にある“特殊”という言葉に光を当てたんです。

【スプツニ子!】長い歴史の中で、他社がなかなか真似できない技術を究めてきたわけですね。それを生かして、いわば社会を裏から支えている。実力に裏打ちされた、渋い格好良さを感じます。

しかも最近の活動を見てみると、医療や環境・エネルギーといった新分野にも積極的に取り組みながら、ベンチャー企業などと共同事業を開拓するラボの設置も行っている。そうした姿勢も魅力的だと思いました。

大川 哲平(おおかわ・てっぺい)
日本特殊陶業株式会社
代表取締役副社長
副社長執行役員

1981年に日本特殊陶業に入社。長年、製品の研究・開発に従事した後、調達本部調達部長などを経て、2011年に取締役に就任する。2016年4月より現職。技術開発本部の責任者として、新規事業の推進や、オープンイノベーションのための対ベンチャー投資などの統括を行う。

【大川】ありがとうございます。当社は創業以来、主にスパークプラグを主力事業としてきました。しかし、EV化の流れによってプラグが必要なくなるという危機を迎えている。新たな事業の創出が急務であり、そんな背景もあってベンチャーラボを設立しました。けれど、80年以上も事業を続けていると、殻を破るのが難しい面もあるんです。しがらみから離れて新しい発想で活動してほしいという思いから、設置場所も、本社のある名古屋から離れたシリコンバレーにしました。

【スプツニ子!】シリコンバレーには、お金と人さえ集まればすぐに新たな事業が誕生するというスピード感がありますよね。そんな場所だからこそ、かえって長年の蓄積が必要なモノづくりの価値が高く評価されるんじゃないでしょうか。

伝統の技と最新のテクノロジーを掛け合わせると、独自の新しい価値が生まれる。そのことは私自身、作品の制作を通して実感してきました。例えば遺伝子組み換え技術で作った光る絹糸を、十何代も続く西陣織の職人さんに織り上げてもらった西陣織の光るシルクは、おかげさまで海外展示でも大きな反響を呼んでいます。そんなこともあって、シリコンバレーのベンチャー企業と日本特殊陶業さんとのコラボレーションには可能性を感じます。

【大川】そう言ってもらえると心強いですね。ベンチャーラボで実際にどんな事業を手がけるかについてはさまざまな可能性がありますが、単に「新しいものならいい」というわけではなく、やはり当社のノウハウが生かせる、他社では置き換えの利かないことをやるべき。新規開拓の条件として、「面白い」と感じられることと、「なぜ当社がやるのか」を説明できることという2点を挙げています。

スプツニ子!(スプツニコ)
アーティスト

ロンドン大学インペリアル・カレッジ数学部を卒業後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で修士課程を修了。2013年から4年間、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教を務める。テクノロジーによって変化する社会を考察・議論するデザイン作品を制作し、2017年 世界経済フォーラムの選ぶ「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。著書に『はみだす力』。

【スプツニ子!】「なぜ、当社なのか」という点について、ご自身ではどうお考えですか。

【大川】複数の素材を混ぜ合わせ、焼成して、多様なニーズに応える特性をもったセラミックをつくりあげる。こうした製造過程で培ったノウハウこそ、当社の財産であり強みだと思います。それを生かせるのであれば分野にこだわりはありませんし、必ずしも私たちが主体でなくてもいいと考えています。

例えば当社の超音波素子の用途はソナーやブザーなどが中心でしたが、実は医療など別分野での活用を考えているスタートアップ企業も多い。そうした発想は、社内からは出てきにくいんです。社会の課題をいかに認識するかという点でも、他社とコラボレートする意味は大きいと思っています。

【スプツニ子!】確かに医療の現場を知らなければ、ニーズを知るのも難しいですよね。アイデアと技術をつなげていくというのは、価値ある製品・サービスを生み出していくうえで重要な点だと思います。私はさまざまな分野の専門家の方とコラボレートしながら作品を作ることが多いので、構想が決まるとまずどんな人に協力してもらったら面白くなるかを考えます。今後は企業でも、そうしたコネクタ的な役割を担う人がより強く求められる気がします。

“オープンでアジャイルな開発”が必要な時代

――今、「イノベーションをいかに起こしていくか」ということが、社会でも企業でも大きな課題です。二人のお話を聞いていると、やはりコラボレーションが一つの鍵だと感じます。

【スプツニ子!】そう思います。かつてはアイデア出しもプロトタイプ製作もすべて自分でこなせる「ソロ天才型」の人が活躍してきました。でも今後は、ネットワークの力を活用しながら、優れた才能をまとめあげて価値あるものをつくる「ネットワーク天才型」の人がさらに重要になると思います。

【大川】面白いですね。企業も歴史を重ねると発想が固まり、斬新なアイデアが出にくくなります。そこで外からの風を入れることが大切になる。また、今は時代の流れも早いので、1社単独ではついて行くのが難しい面もあります。

これまで企業間の付き合いでは情報を隠しがちでしたが、正直当社の工場を見てもらっても、すぐ製法を真似できるとは思えません。互いの情報を出し合い、遠慮なく意見交換してこそ、イノベーションにつながります。そうして素早く開発を進め、ある程度形になったら、世に出して反応を見ながら改良していく。そんな、“オープンでアジャイルな開発”が求められる時代が来たと感じます。当社のモノづくり技術と、協働先のアイデアやソフトウェアの技術を組み合わせ、さまざまな社会課題の解決に役立つソリューションを提供していきたいと考えています。

【スプツニ子!】技術のための技術ではなく、まさに「技術を社会の課題解決に生かす」という視点があらためて重要になってきていると感じますね。社会を見れば、貧困や病気など、課題を抱えて困っている人がたくさんいます。ですから技術や力を持った人には、人の痛みへの理解や、社会へのやさしさや共感といったものを持っていてほしいと思います。

――スプツニ子!さんも、自身の作品を通し、社会へ問いかけを行っていますね。

【スプツニ子!】作品から何を感じるかは見た方の自由ですが、答えが明確ではない課題や前例のないアイデアについて、作品という形で表現してみることで、見た方が何かを考えるきっかけになればうれしいなという思いはありますね。

【大川】なるほど。当社は今まで縁の下の力持ち的存在でしたが、今後は社外の力も借りながらときには縁の下から顔を出し、社会に投げかけ、貢献をしていきたい。世の中が激しく移り変わる中で、今までどおりのやり方では限界があるという危機感も強いので、今後はベンチャーラボもよりグローバルに展開していきたいと思っています。

【スプツニ子!】課題を解決するアイデアも持っていても、実現手段が見つからない企業は少なくないと思います。繰り返しになりますが、そこで確固たる技術を持った貴社のような企業が協力してくれるのは心強い。新しい発想を歓迎する姿勢が見える企業には、相手も声をかけやすいんじゃないかと思います。

【大川】そう言っていただけると嬉しいですね。いろいろな企業とコラボレーションが実現できれば、光栄なことです。本日は本当にありがとうございました。

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