今年4月に設立2周年を迎えるNTTテクノクロス。「AIファースト」の理念をかかげ、NTT研究所が有する先端技術をコアにしたソリューション開発を進めている。観光、農業、バックオフィス支援など領域を広げていく中で、串間和彦代表取締役社長が目指すのは「チエづくり」による集合知のソリューション化だ。
NTTテクノクロス株式会社
2017年4月に旧NTTソフトウェアと旧NTTアイティが合併し、NTTアドバンステクノロジの音響・映像関連事業を統合する形で誕生。NTT研究所の先端技術をコアテクノロジーとして、市場のニーズに応える独自のAIソリューションの開発を手がける。
串間和彦(くしま・かずひこ)
1957年生まれ。京都大学卒業後、日本電信電話公社横須賀電気通信研究所で、人工知能やデータベースの研究開発に従事。NTTソフトウェア代表取締役常務取締役などを経て2017年4月から現職。

当社は2017年4月に旧NTTソフトウェアと旧NTTアイティが合併し、そこにNTTアドバンステクノロジの音響・映像関連事業を統合する形で誕生しました。NTT研究所の有する世界最先端の技術を生かし、社会課題の解決に資するソリューションを開発していくことが、我々のミッション。当社がNTT研究所と市場の架け橋となることで、先端技術がビジネスなどに役立ち、逆に市場の声を研究へフィードバックすることもできます。さらに他領域を得意とする外部パートナーとも連携することで、世の中になかったソリューションが生まれる可能性も広がります。技術と社会を交差させていく──これこそが、NTTテクノクロスの意義です。

ソリューション開発では「AIファースト」の方針を掲げています。今後、AIはあらゆる社会生活に浸透し、今まで以上になくてはならないインフラになっていくはずです。そうした社会状況と当社の技術的な強みを鑑みると「どんな課題解決にもまずAIの適用を考える」ということが必須。AIの活用を前提に、どのような方策があり得るか。これを社員の自由な発想で取り組んでもらっています。

最高峰の音声認識技術でコールセンターの進化を支える

この2年間で想定以上の成果が生まれています。前身企業ではNTTグループ内のソフトウェア受託開発を基盤としていましたが、現在は独自製品をグループ内外に提供しており、外販ビジネスの割合は40%を超えています。実用化が広がっている成果の一つがコールセンター業務をAIでサポートするソリューション「ForeSight Voice Mining」です。NTTグループが誇る世界最高レベルの音声認識技術に、独自のAI技術を活用したソリューションで、オペレーター業務をサポートします。

例えば金融業界ではオペレーターがお客様に「絶対」などと言うことは禁止されています。「ForeSight Voice Mining」は、会話からこうした“NGワード”を認識して、リアルタイムに注意を促すことが可能です。このほかにも、優れたオペレーターのノウハウの蓄積や、自動筆記によるレポート作成支援なども可能。オペレーターの業務負荷の軽減、サービス品質の向上に貢献しています。すでにNTTグループ内外の多くの企業にご利用いただいています。

また、IoTなどの技術を生かし、新たな分野への展開も始まっています。その一つが、農業であり、例えば牛の行動管理を実施しています。農家の方々は朝早くから遅くまで牛に付きっきり。病気や出産ともなればさらに神経を使う、大変な仕事です。私たちはその状況を改善するために、「離れていても牛の様子を常時確認できる」サービスを開発しました。加速度センサーや気圧計などを備えたICタグを牛に付けて、その動きを監視。寝ているのか、苦しんでいるのかなどを遠隔で把握でき、農家の方々に大変好評をいただいています。これまでに2年間で4万頭の牛にタグを付けました。

実は開発当初、私も含め「うまくいかないだろう」という否定的な見方が大勢でした。牛の行動データを集めるだけでは意味がなく、データの変化が起きたときに牛はどう行動しているのか、データと現実の結び付けが必要で、農業の知見のない当社にできるとは思えなかったからです。しかし発案した担当者は「絶対にやりたい」と農業ベンチャーであるデザミス社の協力を取り付け、さらに何百時間も牛舎につめて牛の行動を観察。粘り強くデータ収集を続け、AIが学習するための基礎データを作りました。その結果、無線通信やセンシング技術が見事ソリューションへと昇華しました。

AIは一見、万能の道具のようですが、本質は非常に人間臭いものです。課題を解決したいという情熱と地道な積み重ねがあってこそ、社会に役立つソリューションへと結び付くことが、この事例からわかっていただけると思います。

膨大なデータを分析・加工しコトづくりからチエづくりへ

テクノロジーの進化に合わせて、私たちの役割も変わってきています。最初はシステム設計などソフトウェア受託開発としての「モノづくり」。次は、世の中の課題を発見しソリューションをつくる「コトづくり」です。そしてAIやビッグデータ、IoTが発達した今、その先にある「チエづくり」が見えてきました。ここでいうチエとは、膨大なデータの中にひそむ知見です。コールセンターの例で言えば、定量的なデータから優れたオペレーターが持つ無意識のノウハウを抽出し、だれにでも利用できる形に加工する。チエの発見は大変な労力を要しますが、いったん共有可能にすれば、他の追随を許さない強みになります。モノづくりからコトづくり、そしてチエづくりへ──社員たちの意識はこの2年で確かに変化しています。NTT研究所の先端技術に、市場ニーズを捉える、独自目線を組み合わせ、「AIファースト」のソリューションを生み出していきます。