税金を考慮した手残りをきちんと把握しているか
──近年の賃貸経営の市場をどう見ていますか。
【渡邊】着実に格差が広がっているように感じます。同じエリアであっても、入居率がとても高い物件とそうでない物件の差が広がっている。背景の一つとしてあるのはニーズの多様化でしょう。今の入居者は、部屋探しにおいて自身の感性や趣味に合うかどうかを非常に重視します。その意味では、“誰もが住みたい部屋”というのはなかなかないわけで、物件それぞれに個性が求められます。オーナー側には、そうした意識を強く持っておくことが求められます。
──実際、そうしたことを理解しているオーナーは多いでしょうか。
【渡邊】増えてきているとは思いますが、印象としてはまだまだ少ないというのが実感です。いわゆるオールドタイプの人が多く、賃貸経営はサービス業であるという意識も薄いように思います。その意味では、賃貸経営という事業には大きなチャンスがあるともいえます。ターゲットを設定して、アイデアや工夫を凝らすことによって、周辺のライバルに差を付けることが十分可能です。
──賃貸経営は、文字どおり経営であり、事業であるということですね。
【渡邊】まさに、そこが金融商品などへの投資とは異なるところです。そして、そう考えたときにもう一つ不可欠なのが長期的な視点になります。これがないと事業は継続的なものになりません。数字でシミュレーションをすることが第一歩となるでしょう。
私が税理士として具体的にアドバイスしているのは、「手残りの金額を将来にわたって見極めましょう」ということです。例えば元利均等返済でローンを組んでいると、返済額(元本+利息)は変わらず、年々利息の支払いが減っていきます。ローン返済で経費となるのは利息分だけですから、年を重ねるごとに経費として計上できる金額が減り、税金が増えることになります。また減価償却の期間が終了すれば、そのタイミングでも税金が増える。仮に賃料による収入が一定だとしても、税金の支払いが増え、資金繰りが悪化する人は少なくありません。
こうした数字は計算により求められますから、それを考慮した上で初年度から計画的に資金を積み上げていくことが重要です。賃貸経営を続ける中では、当然設備の改修や建物の修繕などが発生します。その際も、手元に資金があれば手を打つことが可能です。
──そのほか税理士としてのアドバイスはありますか。
【渡邊】間違った行動としてよく見られるのが節税対策です。賃貸経営をしていると1年間に相応の収入がありますから、それに伴う税金をなんとか節約したいという意識が働きます。すると、「どんどん経費を使おう」となってしまう。100万円税金として支払うなら、100万円使ったほうが得だと考えてしまう人が案外多いのです。
しかし冷静に考えれば、これは誤った考え方です。100万円経費で使ったとしても節税できるのはそれに「税率をかけた分」だけですから、結果的には手残りを減らすことになってしまいます。
王道の節税対策は大きく二つです。一つは、支出を伴わない控除の活用。具体的には青色申告特別控除などです。そしてもう一つは、法人化による節税。個人の所得税率より法人税率が低ければ、その分節税できます。実際、私のお客様も半分以上は法人化を行っています。条件にもよりますが、所得全体が800万円を超えたら法人化の検討をするといいでしょう。
ただし法人を持てば、当然それを維持、管理する業務が伴いますから、法人化自体を目的にしてはいけません。ここでも経営的な視点が求められることになります。
大事なことは成功体験の積み重ね
──成功しているオーナーには、どのような共通点があると思いますか。
【渡邊】一言でいうと行動力のある人が成果を出しています。先ほど、アイデアや工夫が大切というお話をしましたが、それをきちんと実行に移せるかどうかがポイントです。
これは私自身の話ですが、かつて所有する物件の1階の空室がなかなか埋まりませんでした。防犯性の問題かなと思っていたのですが、入居者にアンケートを取ってみると、それ以上に収納面への要望が強く寄せられたのです。そこでデッドスペースに収納棚を設けてみると、状況が大きく変わったということがあります。この経験を通じて、特に女性の入居者は、部屋探しのときにどこに何をしまうかイメージしていることもよくわかりました。
小さな成功体験を積み重ねることで、「こうしたら、こうなる」という想像も付くようになってきます。また、何か工夫をしてみて失敗しても、それを次につなげられれば無駄にはなりません。やはり行動力は長期に及ぶ賃貸経営において重要なポイントです。
──状況を分析して、対策を実行する。まさに経営そのものですね。
【渡邊】はい。オーナーさんの中には損益だけを見て一喜一憂される方がいますが、大事なのはその中身です。仮に資金繰りが苦しかったとして、空室率の問題なのか、経費の使いすぎなのか、原因によって当然対処が変わっていきます。的の外れた対策では状況はいつまでも改善しません。
私は、賃貸経営という事業はある面でとても取り組みやすいものだと思っています。大勢の人を雇う必要もありませんし、特別な設備もいりません。管理を含め、それをサポートするサービスも整備されています。実際、私のお客様は基本的なことをしっかりやることで結果を出しています。
──賃貸経営に興味を持つ読者に向け、最後にメッセージをお願いします。
【渡邊】自らの裁量で経営改善を実行でき、その手応えをダイレクトに感じられる。やはりこれが賃貸経営のやりがいであり、醍醐味だと思います。繰り返しになりますが、市場全体を見渡せばまだまだ昔ながらのスタイルの大家さんが多いのが実情。ビジネス感覚を働かせることで、周囲と差別化できる余地が大いに残っています。どうしたら住む人が喜ぶか──。ぜひ、そうした思いを大事にして事業に取り組んでいただけたらと思います。