ビール市場の低迷が続く中で、その逆風に負けじと気を吐くのがサントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」だ。好調の理由は「泡」を大々的に打ち出した、ビール業界の常識を覆すプロモーションにある。

プレモル伸長! ビール離れなんてどこ吹く風

ビールの国内市場は、1994年のピーク以来、年率数%で縮小を続けている。今年2018年もこの流れは止まらず、ビールの市場全体の1~9月期の販売量は前年比95%程度まで落ち込む見込みだ。(※サントリー推定)

その中で勢いを見せるのがサントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」である。前述の通りビール市場全体が冷え込みつつある中で、今年1~9月期の販売量(メーカー出荷ベース。以下同)は前年を上回る見込みである。

写真中央がザ・プレミアム・モルツ、左が同〈香る〉エール、右が同〈黒〉。〈黒〉は2018年10月2日より発売

この好業績を牽引したのが、記録的な猛暑となった夏場の販売増。7~9月期の販売量を見ると、ビール市場全体が前年比96%(推定)と落ち込む中、「ザ・プレミアム・モルツ」は前年比104%と伸長する見込みだ。

とりわけ好調だったのが、主に家庭向けとなる缶製品の販売。こちらは前年比107%と、今年の猛暑さながらの記録的な伸び率となった。世間では「ビール離れ」と叫ばれて久しいが、プレモルの勢いを見るとそんな話はどこ吹く風。夏場の販売好調が、1~9月期の業績を押し上げる形となった。

「神泡」がうまい理由、ウケるわけ

この「ザ・プレミアム・モルツ」の期間限定イベントが、さる9月中旬に開催された。東京・六本木ヒルズに出現したのは「神泡Bar」。ご存じの方も多いだろうが、現在「ザ・プレミアム・モルツ」ではビールの泡に着目した「神泡」プロモーションを行っている。神泡とは、こだわりの素材・製法・注ぎ方によって実現した“きめ細かくクリーミーな泡”のこと。この神泡の魅力をより広く発信するためにオープンしたバーである(現在は終了)。

ではプレモルが打ち出す神泡とは、いったい何が違うのか。こだわりの注ぎ方で注いだ神泡と、ビアホールなどでの通常の注ぎ方のものを並べたのが次の写真である。

左がこだわりの注ぎ方で注いだ神泡。時間が経過しても泡が消えにくい。

違いは見た目にも明らかだろう。神泡のほうがより濃密な印象を受ける。その印象を確かな事実へと変えたのが、この日行われたデモンストレーション。まず、ビールが入ったグラスを下から光で照らすと、通常の注ぎ方のものは光を透過するが、神泡はほとんど光を通さない。泡がきめ細かいことの証拠である。

グラスの下から光を当て、上に設置された鏡面板に写したもの。神泡(左)は泡がきめ細かいため光を透過しにくい。

次に、注いでからしばらく経ったビールをマドラーでかき混ぜると、通常の注ぎ方のものはほとんど泡が生じないが、神泡はみるみる気泡が発生し、やがてグラスから泡があふれ出した。きめ細かい神泡が蓋となり炭酸ガスを逃さないため、このようなことが起きるのだという。

クリーミーな神泡が炭酸ガスを閉じ込めるため、数分経過してから混ぜてもまだ泡があふれ出る。

このように神泡の特徴はそのきめ細かさにある。きめ細かいということは、飲んだ際の口当たりの良さはもちろん、泡がビールの蓋となり、味や香り、炭酸ガスを逃さず、同時に酸化も防ぐメリットがある。最初の一口だけでなく、最後の一口までビールのおいしさを保つ役割を果たすのである。

サントリーは今年3月から、この神泡に関するプロモーションを行ってきた。従来、ビールのうまさの訴求といえば、のどごしやコク、キレといったものが大半だったが、その常識的なアプローチから脱して「泡」を全面に打ち出した。さらに、家庭向けには自宅で神泡が愉しめる専用サーバーの開発・販売、飲食店向けには注ぎ方を丁寧に指導するなど、精力的かつ継続的にプロモーションを行ってきたのだ。

冒頭でお伝えした「ザ・プレミアム・モルツ」の好調は、泡に着眼した新しい発想と、地道なプロモーション活動の成果であろう。そしてその背景には、「泡はビールの履歴書」という考えのもと、泡にこだわってビールづくりを続けてきたサントリーの醸造家たちの努力がある。

「神泡」プロモーションが消費者を変えた

この神泡プロモーションは、消費者のビールに対する意識も変えつつある。

サントリーが実施しているプレミアムビールに関する飲用動向調査(プレミアムビールレポート2018)によると、「最高においしいと感じるビール類の味イメージ」の第1位は「泡がきめ細かい」となった。また「ビール類に求める味」の調査では、「泡がきめ細かい」ことが2017年の4位から今年は2位へと順位を上げている。

また、ビールの飲み方に関するアンケートでは、「缶のまま飲む」が30.7%に対して、「グラスに注いでから飲む」が69.3%となった。グラスでの飲用と缶のままの飲用のおいしさの違いとして、8割以上が「泡のきめ細かさ」を挙げており、泡への意識の高まりを表す結果となった。ビールに対するイメージが、缶でゴクゴクと飲み干すものから、グラスでじっくりと堪能するものへと変わりつつあるようだ。

ザ・プレミアム・モルツといえば、かつて「とりあえずビール」だった時代にプレミアムビールという新市場を切り開き、ビールの地位向上に一役買った歴史がある。そしていま、今度は泡の質に着眼して一段とうまいビールを提案する。この「ザ・プレミアム・モルツ」はいつも、ビールの新しい楽しみ方を教えてくれる。

さて、この神泡、今後はより身近に楽しめるようになりそうだ。神泡を提供する飲食店は、2017年から2.5倍ほどに増え、今年8月時点で3万2000店ほどにのぼる。さらに今後も拡大予定だという。忘年会や会食が増えるこれからのシーズン、神泡が会話づくりのきっかけに、なんてこともあるかもしれない。

さらに家庭向けには、缶製品に取り付けて神泡がつくれる神泡サーバーを増産予定。サーバーがセットになったギフト向け商品(百貨店限定)も展開するという。今年一年お世話になった人に、感謝の気持ちを込めて神泡を。例年とは違ったサプライズを贈りたいなら格好のギフトになりそうだ。