事業所が手狭になった。生産ラインを増やしたい。新たな拠点設置による目の前の課題の解決は重要だ。しかし、より長期的、俯瞰的な視点を持つことで、新規立地の効果はいっそう高められる。

今、企業が抱えている不安、経営課題は

新たな事業拠点の設置や既存事業所の移転。それは、企業にとって抱えている経営課題を解決する手段に違いない。だとすれば、立地計画を立てるにあたっては、自社の課題や将来の不安要素をしっかりと見つめ直し、できるだけ明確にしておく必要がある。解消すべき課題の整理は、立地計画の質の向上につながるはずだ。

とはいえ、どんな組織も自らの問題点を客観的にとらえるのは案外難しい。そこで一つのデータを紹介したい。一般財団法人日本立地センターによる「新規事業所立地計画に関する動向調査」だ。他社の動向は、自らの状態を確認する材料となるだろう。

同調査によれば、「国内の事業環境における不安要因」「国内での事業活動における課題」は下図のとおりだ。近年、「人材不足」への不安が顕著に高まっている。求めている人材を確保できるかどうか──。これが多くの企業にとって、立地先の選定の際に検討すべき優先項目ということだ。今、自治体と地元の教育機関との間で連携協定などを結んでいる地域は少なくない。そうした情報もきちんと把握しておくことが求められる。

押さえておきたい「地域未来牽引企業」

今、企業が立地戦略を考えるにあたって、「地域未来牽引企業」は着目すべきポイントの一つだ。経済産業省は、地域経済牽引事業の担い手の候補となる地域の中核企業として、全国で「地域未来牽引企業」を選定。多様な支援の対象としている。公表されている企業を見れば、それぞれの地域が注力している産業分野を知ることが可能で、事業連携などの糸口にもなるだろう。


2017年12月に、2148社の「地域未来牽引企業」が選定され、2018年にも追加募集が行われている。

市場縮小や原材料高騰も重要なテーマに

そのほか、不安要因として多くの企業が挙げたのが「国内市場の縮小」や「原材料の高騰」だ。これについて企業が目を向けるべきは、実は自社のサプライチェーンやロジスティクスであるといえる。国内市場の縮小や原材料の高騰自体は、一企業が解決できる問題ではないだろう。市場環境が変化する中で、いかに効率的に原材料を調達できるか、製品を顧客に届けられるか──。これを立地の視点から戦略的に検討する必要がある。

例えば、海外を視野に入れるのか、入れないのか。国内でマーケットを拡大するのか。そうした判断によって、進出すべきエリアはある程度絞られる。交通アクセスは立地戦略の要の一つ。実際、経済産業省の工場立地動向調査においても、立地先選定理由として「本社・他の自社工場への近接性」「市場への近接性」「関連企業への近接性」は常に上位に挙げられる項目だ。

立地戦略とは、ヒト・モノ・金といった経営資源をいかに配分するかを判断することにほかならない。どんな企業も経営課題は一つではないだろう。自社の課題に優先順位を付け、全体最適の視点から解決への道筋を探ることが経営トップの役割であり、立地戦略のポイントだといえる。