2015年9月の国連サミットにおいて採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」。この“世界を変えるための17の目標”の達成に向けた先駆的な取り組みが、高く評価されているのが北九州市だ。具体的な活動やかける思いについて北橋健治市長に聞いた。
北橋健治(きたはし・けんじ)
北九州市長
1953年生まれ。86年、衆議院議員に初当選。衆議院環境委員長、地方制度調査会委員、行政改革特別委員会筆頭理事などを歴任する。2007年より現職。

──北九州市では、SDGsの重要性についてどうとらえていますか。

【北橋】国連加盟国が全会一致で採択したSDGsは、いわば世界の約束事です。同時に、その目標の多くは地域が抱える課題とも関係しており、達成に向けた動きは地方創生と直結しています。多様な活動をまちの活力につなげることで、地方創生のモデル都市を目指そうというのが私たちの基本的な考えです。北九州市において、その“土台”はすでにしっかり構築されていると思っています。

──土台とはどのようなものですか。

【北橋】北九州市は、08年に環境モデル都市、11年に環境未来都市に国から選定され、さらに世界で4都市だけのOECDのグリーン成長都市にも、パリ、シカゴ、ストックホルムと並んで選ばれています。これらは、単に環境保全の領域にとどまらず、社会面、経済面を含め、まさに“持続可能なまちづくり”が評価されたものです。環境、エネルギー、高齢化対応をはじめ、これまで各方面で実践してきた地道な地域活動、市民活動が、SDGs関連の取り組みの確固たる基盤になっていると考えています。

──昨年12月、国の第1回「ジャパンSDGsアワード」でも、特別賞(SDGsパートナーシップ賞)を受賞しています。北九州市の“都市としての強み”はどこにあると思いますか。

【北橋】それは当市の歩みを抜きに語れません。戦後、四大工業地帯の一つとして日本の成長を支えてきた北九州市は、一方で深刻な公害にも悩まされました。その克服の原動力となったのが、市民、企業、大学、そして行政の垣根を越えた連携です。例えば「婦人会」は女性活躍の原点であり、その後もさまざまな形でまちづくりに大きな役割を果たしています。一言でいえば、そうした“市民力”こそが私たちの最大の強み。それは抽象的なものではなく、長年の具体的な行動、成果に裏付けられたものであることを強調したいと思います。

今後の“都市のあり方”を国内外に発信していく

──SDGsの達成と関係する具体的な取り組みについて、代表的なものを教えてください。

【北橋】一つには、「地域コミュニティの再構築」があります。住民参加型のワークショップなどにより「地域課題の見える化」を行い、自治会とNPOが連携して課題を解決していく。そうしたモデル事業を実施しました。また、ESD(持続可能な開発のための教育)事業も当市の特徴的な取り組みです。ここでは市内の大学生なども各種イベントの企画・運営に深くかかわっており、今後のまちづくりを担う若手人材も着実に育ってきています。

一方、グローバルな視点では官民連携で「海外水ビジネス」を積極的に推進しています。東南アジアや中国の水道インフラの整備をサポートするこの事業の背景には、実は長年積み上げてきた環境国際協力の実績があり、相手国からは非常に頼りにされています。

──北九州市は、エネルギー関連でも進んだ取り組みをしていますね。

【北橋】「次世代エネルギーの拠点化」は市政における重要な柱の一つ。市民が出資して設置した「市民太陽光発電所」は全国的にも珍しい公設公営のメガソーラーです。さらに、バイオマス発電所や最大44基が計画されている洋上風力発電施設の設置運営事業が決定しており、整備が進んでいます。対象の響灘地区には企業の進出も盛んで、エネルギー関連企業の集積エリアとしても注目を集めています。今後は地域におけるエネルギーマネジメントの技術や知見を蓄積し、外部にも発信していきたいと考えています。

──最後にSDGs関連の取り組みにかける市長の思いを聞かせてください。

【北橋】公害克服の経験やそれを支えた市民力、そして北九州市が誇る“ものづくりの技術”を生かし、これからの時代の都市のあり方を体現していきたいと考えています。社会課題の解決にしても、国際貢献にしても、今の時代、暮らしや企業活動とより密着した“都市”の役割がますます重要になっていると感じます。まずは政府が公募する「SDGs未来都市」となることが目標。そして、初めにお話しした地方創生のモデル都市となることで、国内外に貢献していければと思っています。

日々、市民の皆さんと接する中で感じるのは、何よりその前向きさです。目標が大きければ大きいほど、皆で一丸となって挑戦しようという意気込みにあふれています。明治以来、石炭や鉄鋼業で日本の近代化をけん引してきた北九州市には、今も改革の精神が息づいている。それをしっかりと後押しするのが市長の務めです。

互いに学び合える環境を(北九州ESD協議会)

毎月1回、さまざまなテーマでイベントを開催。内容に応じ、子どもから大人まで幅広い市民が参加する。

市民団体や教育機関、企業、行政などで構成される北九州ESD協議会。その活動は市民参加型のイベント開催や人材育成・発掘をはじめ多様だが、一貫して大事にしているのはネットワークの“ハブ的存在”になることだ。コーディネーターを務める森川妙さんは言う。「ある分野では当たり前の知見や事実も、別の分野で新鮮な気づきを与えることがあります。領域や立場の壁を取り払い、北九州のESDの質を高め、幅を広げることが私たちの役割です」

一方、学生の立場でイベントの企画、運営に携わる北九州市立大学の中田沙紀さんは「大切なのは、自分を含めみんなが社会の問題を“自分事”としてとらえること」と話す。「食や環境、エネルギー関連など、月1回のイベントではいつも“学び”と“楽しさ”のバランスを考えています」。多様な個性や思いを持つ人たちが、互いに学び合うことで課題の発見、解決を目指す──。まさに、産学官民のつながりが強い北九州らしいESD活動といえるだろう。

 

ビジネスの形で持続的な関係を(北九州市海外水ビジネス推進協議会)

カンボジアでの水道事業支援の様子。現地において人材育成なども行っている。

水道整備から下水処理まで、海外における「水」の課題解決を官民連携でサポートする。それが北九州市海外水ビジネス推進協議会だ。会員企業は約150社。2010年の設立以来、東南アジアや中国で50を超える案件を受注している。富増健次会長は協議会の活動について、「国際協力の延長線上にある」と言う。もともと北九州市は、“プノンペンの奇跡(※)”をはじめ各国で技術指導を行ってきた。「それをいっそう持続的なものとするため、ビジネスの形にしたのです。ビジネスでWin-Winの関係が構築できれば、互いの関係はより強固になり、現地企業の育成にもつながります」

水道事業の推進にあたっては、民間企業が持つ優れた製品や技術と自治体が有する管理運営ノウハウの両方が必要だ。「それらをワンストップで提供できるのが私たちの優位性」と富増会長。北九州のノウハウが海外で生かされる機会が広がりを見せている。

※約25%だった水道普及率を短期間に90%台に高めた。