新たな拠点の立ち上げにあたり、企業が検討しなければならないことは山ほどある。しかしその中でも、進出を考えている地域の“戦略”を見過ごしてはならない。

工場や事業所、物流施設などの新設、移転を考えている企業にとって、いかに立地する地域と密に連携できるかは重要なテーマだ。補助金や優遇措置など直接的なサポートはもちろん、ソフト面の継続的なバックアップがあるかどうかによっても、長期的には業績に大きな差が生まれるはずだ。

そうした中、企業にとって一つ大事なのが、“地域の戦略”と“自社の戦略”が合致しているか、という視点である。企業間の連携であれば、互いの戦略の方向性が一致していることは前提条件だろう。

今、全国の地域は“明確な戦略”を持って、自治体運営を行っている。ご存じ「地方版総合戦略」だ。

戦略には産業振興の重点分野や各種の重要業績評価指標(KPI)が盛り込まれており、企業側が立地先を選定するにあたって重要な情報が詰まっている。自社の事業領域と地域の施策に関連性があれば、双方がいっそう良好な関係を構築できるに違いない。

地域経済分析システム(RESAS)では、官民の多様なデータがわかりやすいグラフや図で表示される。上の図は地域の産業構造を示したもの。

企業にとっても重要な「地方創生版・三本の矢」

地方創生において、現在各地域に求められているのは稼ぐ力だ。それは言うまでもなく、民間のビジネスとも深く関係している。その意味で、企業側は地域の動きや置かれた状況に、より敏感であるべきだろう。

例えば国による「地方創生版・三本の矢」については知っているだろうか。地方自治体はこの支援を活用し、先の戦略の立案や実行にあたっている。具体的には、まず「情報支援の矢」。国は、官民が保有する産業・人口・観光などのビッグデータを見える化したシステムをつくり、詳細な地域分析が行えるようにしている。そして「人材支援の矢」。地方に国家公務員や大学研究者、民間人材を派遣するなどしている。さらに「財政支援の矢」。国からの各種交付金などによるサポートだ。

これらの支援策は、単に自治体に向けられたものではない。言ってみれば、そこに住む住民や活動する企業のためのものだ。「人材支援の矢」の一つである「プロフェッショナル人材事業」では、国が各地に「プロフェッショナル人材戦略拠点」を設置し、地域企業のプロ人材(例えば販路開拓を行う人材、マネジメント経験者など)の採用を後押ししている。上手に利用し、事業拡大や経営改革などに成功している企業も登場している。

経済産業省の資料をもとに作成。

約2000社を支援する「地域未来投資促進法」

そしてもう一つ、企業にとって見逃せないのが「地域未来投資促進法」だ。昨年施行されたこの法律の狙いは、地域が成長分野の需要を域内に取り込める状況を生み出すこと。それによって、地域が発展の基盤を整備できるようにすることである。国は当面、全国で2000社程度を支援し、1兆円の投資拡大、GDP5兆円の押し上げを目指すという。

支援を受けるには、まず地方自治体が基本計画を策定。国がそれに同意することが求められる。同意された基本計画に基づき、今度は事業者(企業など)が計画をつくり、地方自治体が承認するという流れだ。やはりここでも、企業は地域の動きをとらえておく必要がある。承認を受けるにあたっては、「地域の特性を活用する」「付加価値を創出する」「地域への経済波及効果がある」ことが必要だからだ。

承認された「地域未来牽引企業」は、経営課題に応じて、人材、設備投資、規制緩和など、さまざまな支援措置を受けられる。これによってボトルネックを解消することができれば、競合他社の一歩先を行く経営を実現することも可能だろう。

各地で着々と進行する地方創生の動きと企業の立地戦略とは、決して無関係ではない。企業には、今一度進出地域における自社の立ち位置を見極めることが求められている。