超高齢化と少子化が進む今の日本で、高齢者介護・医療をいかに取り組んでいくかは待ったなし。医療・介護分野で業務プラットフォームを提供するカナミックネットワークは、ITインフラの構築によって介護や医療の効率化を進め、家族や事業者を支えようとしている。これから日本の介護や医療はどのように変わっていくべきなのか。同社の山本拓真代表取締役社長と、介護に直面する世代であるフリーアナウンサーの住吉美紀さんが語り合った。
山本拓真(やまもと・たくま)
カナミックネットワーク
代表取締役社長
富士通システムソリューションズ(現富士通)を経て、カナミックネットワーク入社。東京大学高齢社会総合研究機構共同研究研究員などを経て2014年より現職。2016年 東証マザーズ上場

団塊と団塊ジュニアのダブルインパクト

【山本】住吉さんは、介護のご経験はおありですか。

【住吉】母や叔父夫婦がそれぞれ親を介護するのを間近に見ていましたので、私も切実さは実感しています。特に父方の祖母は、要介護認定審査時だけ普段と違ってしっかり受け答えができたばかりに、要介護度が軽い判定になってしまうこともありました。年金暮らしになっても介護保険料は支払い続けるのに、うまく介護サービスを受けられないことがあるんですね。病院の長期入院も難しくなっていますし、団塊の世代が75歳になる「2025年問題」も近づき、この先はわが家も、社会全体も楽ではないぞと感じています。

【山本】介護問題が最も深刻になるのは団塊の世代がさらに年を取り、しかも住吉さんのような団塊ジュニア世代が70歳を超える2045年です。75歳を超えると要介護認定率は急速に高まります。長寿化が進んでいる今、現時点ではまだ元気な団塊世代も、25年には要介護認定率が高まっていると予想されます。しかもそれ以降は、子ども世代も老いてくる。団塊の世代と子の高齢化という二つのインパクトを乗り切れるのかといえば、今のままでは危ないというのが率直な感想です。

【住吉】支え手も減っていますよね。ただでさえ働き手不足が叫ばれている中で、介護職の方はお仕事そのものの大変さに加えて、金銭面でも優遇されていません。一方で、社会保障費はますます厳しくなっています。

【山本】この先は限られた人数の中でたくさんの人をケアしなければ立ち行かなくなります。そこで私たちは、クラウドを使った地域包括ケアの効率化に取り組んでいます。

住吉美紀(すみよし・みき)
フリーアナウンサー
エッセイスト
1996年NHK入局。「プロフェッショナル 仕事の流儀」などの人気番組を担当。2011年4月よりフリー。現在は、TOKYO FM「Blue Ocean」(月~金 9:00~)にてパーソナリティーを務める。

介護をクラウドで効率化し日本の成長産業に育てる

【住吉】介護のクラウド活用とは、どのような取り組みなのでしょうか。

【山本】そもそものところなんですが、介護業界の業務や情報伝達手段は、今も紙、そして郵便やFAXが基本です。ヘルパーさんが日報を書いているのを見たことはありませんか? ヘルパーさんは現場で複写式の日報に記入して、1枚を家族に渡し、事務所に帰ってまたパソコンに同じ内容を入力しています。また、月次報告を紙で受け取ったケアマネジャーも同じ内容をパソコンに入力する。そんな作業が日常的に行われています。報告そのものはケアプランのPDCAのために欠かせないのですが、情報共有方法は、20年近くずっと変わっていないところが多いのです。

【住吉】入力して、印刷して、また入力して……非常に非効率ですね。書類を整理する作業も必要になりますし、紛失のリスクも高まります。しかも介護は、お医者さまも複数人関わってくるから多方向での情報共有も必要になります。もっと簡単に、情報を共有できるシステムはないのでしょうか。

【山本】一般的な産業では、あるメーカーが別のメーカーに顧客情報を漏らすことは考えにくいですよね。介護ではお客様の情報を共有しなければ、一定の水準をクリアしたサービスを行えません。複数の関係者・競合する会社が医療・介護の情報を共有し、積極的に情報公開していかなければならない。私たちはそこを解消しようと一人の要介護者・患者の情報をクラウドを介してさまざまな専門家が共有し、相談し合えるシステムを作りました。言ってみれば医療・介護に特化したクローズドなSNS。この仕組みで特許も取得しています。

【住吉】いちいち紙に書いたり、郵送や電話したりという手間がなくなれば、ずいぶん現場の負荷が変わりそうです。システムを導入したところでは、どのような効果が得られているんですか。

【山本】最も代表的なものが、東京大学高齢社会総合研究機構と千葉県柏市が取り組んでいる地域包括ケアのモデル事業「柏プロジェクト」での活用です。柏市の地域包括ケアに携わる病院や診療所、歯科、薬局、訪問看護、リハビリ、ヘルパーやケアマネジャーら約1300人が登録しており、要介護者のケアを行う際は、そのシステムに情報を集約します。対象の要介護者に毎日どんなことがあったかという報告・連絡・相談が常に行われているから、事務負荷を軽減しながら医療や介護の連携を円滑にできる。もちろん、家族の方も利用できます。

【住吉】それはうれしいですね。わが家の介護では、医師やヘルパーさんとコミュニケーションを取るのが大変でした。でもこの先私たちのような世代で自宅で介護する家が増えるとすれば、働きながら、育児しながら介護に目を配るのはとても大変。そこから解放されるだけでぐっと楽になります。

【山本】しかもヘルパーさんは外出先でタブレットで情報を入れれば仕事が完結するので、事務所に戻らなくても済む。そのぶん家庭の時間を増やしたり、もしくはより多くの要介護者の支援にあたれます。こうした効率化によって、柏市では社会保障費の負担が軽減。訪問看護の店舗数は約3倍に増え、在宅での看取り率も5倍くらいに増加しました。

【住吉】もっと多くの自治体へ拡大してほしいです。

【山本】実は今、柏の事例を参考にしたいと国内だけでなく海外からも視察が増えています。それだけ日本の介護が注目を集めているんですよ。この先は介護の世界にも海外人材が入ってくるでしょう。そうなれば、ますます、誰もが容易に扱えるPOSレジのような情報端末は不可欠。介護の非効率をITで解決していけば、日本の直面する少子高齢化という課題が逆に成長のチャンスにもなるはずです。「介護」はこれから日本が世界に輸出できる、数少ない成長産業になる。きっと可能だと信じています。

【住吉】日本が世界の介護のお手本になることを期待しています。本日はありがとうございました。