現在の自動車業界における大きなイノベーションの一つ。それが“自動運転”だ。今後の注目点などについて、モータージャーナリストの森口将之氏に聞いた。
森口将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト
自動車専門誌編集部を経て独立。モビリティのほか、交通事情やまちづくりなども精力的に取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員。
 

──自動運転の進展が話題を呼んでいます。現状をどう見ていますか。

【森口】ヨーロッパでは10年以上前から小型バスの運転の一部を自動化する取り組みなどが進んでいました。しかし自動運転への注目度が一気に高まったのは、2010年にグーグルが研究中であると発表してから。これによって、既存の自動車メーカーも完全自動運転に関心を向けるようになりました。

また最近は、社会課題を解決するツールとしての自動運転について議論される機会も増えています。高齢者や障害者、また過疎地での移動の手段としていかに活用するか──。欧米では、誰もが分け隔てなく自由に移動できる権利を「交通権」として尊重しています。これからの日本においても重要な視点だと思います。

──これまで複数の自動運転の実験車両に乗られてきて、感想はいかがですか。

【森口】「認知」「判断」「操作」という運転の3要素を機械やシステムに置き換えるのが自動運転。センサを使って認知し、人工知能で判断したりするわけです。その現状は、当然ながらまだ進化の途上といえます。「非常にスムーズに運転できる」と感じるときもあれば、「自分の判断より遅いな」と感じることもある。この辺りは、人工知能の処理速度の向上などによって改善されていくものと思います。

一方、アクセルやブレーキ、ハンドルといった操作関連の開発も自動運転においては重要です。調整がうまくいかないとどうしてもカクカクした動きになってしまい、ドライバーが不安を感じることになる。自動運転の質に大きくかかわる部分といえます。

「官民ITS構想・ロードマップ2017」より

有用な技術を持つ企業が存在感を発揮する

──自動車業界のあり方も変化してきていますか。

【森口】IT企業などの参入により、「水平展開型」のビジネスモデルが見られるようになってきました。そうした環境では、完成車メーカー、部品メーカーを問わず、有用な技術やノウハウを持っている企業が存在感を発揮することになる。新規参入組も含めて、企業間の競争はいっそう激しくなると考えられます。

──一般の人は、自動運転社会とどう向き合っていけばいいでしょうか。

【森口】「手動運転から自動運転に移行する」と単純に考えるのではなく、「新たな選択肢が登場した」ととらえるべきだと思います。人やモノの輸送面は別として、少なくとも乗用車においては運転する楽しみや喜びへの欲求がドライバーから消えてしまうことはないでしょう。その意味では、さまざまなレベルの自動運転技術を搭載したクルマが行き交う「混合交通」の時代がこれからやって来るでしょう。個人的には自動運転が一般化する中で、手動運転の魅力が見直される。そんな時代も来るだろうと予測しています。